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託された楽譜

1939年 ―ドイツ―
ドイツ人のアルベルトはピアノの教師をしていた。
生徒の中にたぐいまれなピアノの才能を持ったユダヤ人のサミュエルという青年がいた。
彼には作曲の才能があったのだ。
しかし、ナチスによるユダヤ人迫害が始まってしまう。
サミュエルは強制収容所へと送られてしまった。
数か月後、サミュエルは収容所内で栄養失調のため亡くなった。
ドイツが敗戦した1945年のある日、強制収容所の生き残りという男がアルベルトのもとを訪ねてきた。
男は紙の束をアルベルトに渡した。
見てみるとそれらは楽譜だった。
男はサミュエルが収容所にいる間に作曲したものだと言った。
その後、アルベルトは音楽学校でコンサートを開き、サミュエルの作曲した音楽を奏でた。
会場は拍手に包まれた。
学校側からアルベルトに賞が贈られることになったが、アルベルトは「この賞は本来、収容所で亡くなったサミュエル君に贈られるべきものです」と言い、受賞を辞退した。

終

ピアノ