黐木舎


平成12年(2000年)
11月






11月15日(水)雨
大阪では11月に入ってまだ晴れた日が4日だそうである。
後は曇りか雨。
今日は七五三詣りの日、雨のために参拝者は数えるほどしかなかった。
15日の七五三詣りが、私が神職に就いて一番少ないと言えるのではないだろうか。
昨日の某新聞に子供写真館で晴れ着を着て写真を撮る子供の写真が載っていた。
記事の概略的な内容は、写真館にて貸衣装を着て千歳飴の袋を持って、七五三詣りの格好をして写真を撮る。
そうして神社に詣でることもなく帰っていく人達が多いとその新聞には記載されていました。
いったいどう云うことであろうか。
七五三詣りは戦後宮中行事を真似て、東京から始まった行事といわれている。
11月お菓子問屋が一番暇になるときであり、何かお菓子が売れる良い方法はないかと考えた末「千歳飴を作りこの飴を買って神社にお参りする事によって子供の安泰を願うと叶う」というキャッチコピーを考え、その為にそれまで宮中行事として行われていた男女3歳の「かみおき」(髪を伸ばす式)、男5歳は「はかまぎ」(初めて袴をはく式)、女7歳に於いては「おびとぎ」又は「ひもおとし」(着物の付けひもを取り、初めて縫い帯を締める式)、これらの宮中行事を元に男女3歳男5歳女7歳と決めたのですが、従来民衆の間で行われていた幼児期の安泰を願った厄よけの行事と相まって爆発的に日本中に広まったのです。
要するに7歳までは、幼児期に於ける成育の危険期であるので、これを無事に過ごせますようにという親の願いを込めた厄払いの祈願なのです。
お宮には常着で子供が元気で育ちますようにと願いお参りする素晴らしい親子達も沢山居ます。
只、写真館に行って、借り物の衣装を付けて写真を撮るだけで神社にお参りもしない見栄を張った事をする親の行為は、これから先子供達にどの様に影響するのかと思うと、空恐ろしくなってきます。
七五三詣りの写真だけを残すような事をして何になるのでしょうか。
私が神職だからその様に云うのかと捉われがちですが、皆様はどの様に感じられて居るのでしょうか。
見栄を張る日本人が、これ程までに多くなったのかと思うと、嘆かわしいばかりです。


11月7日(火)晴れ
私のお宮では正月にはEMA12分の1なる絵馬展がある。
昭和63年(1988)辰の年から始め、今年平成12年(2000)辰の年迄の絵馬展である。
これは全国の著名な美術作家並びに文化人の絵馬を神社に奉納していただき、その年の正月の一ヶ月間展示公開するという企画である。
奈良の西田画廊の西田氏の協力を得ての12年間13回の展覧会も今年で終えた。
この絵馬展、国内だけではなく、世界からも奉納され話題を呼んだ。
韓国・アメリカ・メキシコ・コロンビア・フランス・イタリア・オランダ等である。
その度に世界の国から絵馬展を見るためにお宮に色々な国からやって来た。
日本の正月は仕事は、店はお休みですが、隣の韓国では旧正月は日本の正月のように休みで正月を祝うが、西暦の1月はほとんど普段道理に社会は動いている。
西洋諸国は、クリスマスは盛大ではあるが、1日以外は平日と変わらない。
日本人は正月元旦は世界中がおせち料理を食べて楽しんでいると思っているが、実は正月の元旦を日本のように祝っているのは日本だけと云ってもよいのである。
ニュ−ヨークのマンハッタンのタイムズスクエヤーでの12月31日のカウントダウンは有名だけれども、一夜明ければ普段と変わりない日となる。日曜日でなければ教会へも行くことはない。
この様な状況なので、時折外国の方はこの正月に日本に来てガッカリするのである。
日本でも平素道理に社会は動いていると思って来るのである。
特に美術に携わる人は最悪である。
美術館やギャラリーは閉まっているし、ましてやほとんど店が閉まり、物価は高い。
この時期来た外国の美術関係者は、美術的にも価値のある布忍神社の絵馬展を訪ねてくるのである。
何処か開いている美術館はないかと美術関係者に聞くと、唯一日本で開いているギャラリーが大阪の布忍神社に有るというのである。
そうしてそこには西田が居る云うのである(現代美術界では西田氏は有名)。
ところが困ったもので、神社はこの時期が一番忙しい。しかし捨て置くことも出来ない。
とうとう布忍神社にてこれらの人々は泊まることになる。
外国から来た人にとって神社で泊まれるなんて嬉しくて仕方がない。
この様なことで私達の家族は外国人に対して隔たりが無くなってしまった。
長い間イギリスにいた長女が帰ってきたときに、神社の裏庭でガーデンパーティーを開いたときなど、黒人・白人・黄人が入り乱れ近所の人達は驚いた。
又近所に外国から留学に来た学生が、ホームステェー先の家の人と共に一緒に神社に来るという風になり、娘が居ないときは私の拙いラバースタンプ的英語で説明することで、少しは神道に関心を持っていただいたようである。
最近多くなったのが国際結婚である。
先日もアメリカ人・ブラジル人・中国人・韓国人との結婚で産まれた子供の宮参りをした。
この人達が時折お宮に参拝に来るのを見て、私は日本人より丁寧にお参りする姿を見るに私達日本人が恥ずかしくなってくるのである。
そうして私は必ず両親には、どうか日本語ともう一つの母国語を教えて下さい、この子に流れる二つの国の血に誇りを持つように教えて下さい云うのです。
私達日本人は、日本人の持っている見た目重視的なものを無くさなければならないと思うのである。
その為には同じ目線でお互いが認め会い話すことであろう。
今日の夕方にブラジル人の母親が子供を連れてお参りに来ていた。
そうして日本語で神への願い事云った後、ポルトガル語で子供に何かを語りかけていました。


11月7日(月)晴れ
11月だとは思えないような暖かい良い天気が続いています。
七五三詣りの可愛い男女の子供がお参りに来ます。
私がこの世界に入った30年前は、七五三詣りは11月15日に皆さんが詣りに来ました。
しかし、最近では11月中ずっと何人かの人がお参りに来ます。
だからといって、お参りの人が増えたというわけでもないです。
七五三詣りのピークだったのは、戦後の第二のベビーブームだった昭和48年ぐらいに産まれた子供達が、七五三詣りを迎えた昭和50年代でしょうか。
今から25年余り前です。
11月15日前後に沢山の子供さん達が七五三詣りに来ました。
今思い出すに、あの頃ストーブを入れていたのを思い出します。
お宮の樹木も紅葉していました。
今私は汗を流しながら、子供達を迎えています。
地球温暖化は着実に近付いているのかも。
この子達のためにも何とかなって欲しい。


11月1日(水)曇りのち雨
朝から雲ったり雨が降ったり、午後から本格的に雨。
台湾近くにいる台風が原因らしい。この台風のために台北の空港では飛行機事故が起こったと報道があった。
その台風が明日、日本に近付くときには熱帯性低気圧になるというが、11月の台風なんて余り聞いたことがない。
これも地球温暖化のためだろうか。
1日に雨が降ると、その月は雨が多いような気がして成らない。
雨も必要だけれども、これから寒くなるときの雨は何故か気分的に落ち込んでしまう。
3日は文化の日。
文化文化といっている内は、まだまだ文化国家ではないのか知れない。
文化の日は叙勲の日でもある。
胸に勲章を着けた陳腐な写真を新聞で見ることになる。
そう言えば我が父も亡くなった後に叙勲された。
父が生きていたならば大抵叙勲を辞退したであろう。
私が勲章を着けて歩こうかと冗談を言ったところ、本意の程は分からないが、叙勲謝意外の人間が勲章を着けることは、法律違反だとある人が云った。
勲章欲しくて仕方のない人が沢山居ることだろう。
私には生涯無縁のことだろうが。