「申」平成4年(1992年)  
  「申」 1992年 絵馬奉納冊子  
   「申」 1992年  奉納絵馬小冊子 表紙  
     
   
     
     
 
三猿物語

                       チェトラ・プラタップ・アディカリ 翻訳・佐々木幹郎

むかしむかし

地球と呼ばれる惑星があって

そこは
宇宙の中のもっとも優美な花
静かな聖地
すべての母なる場所だった

惑星には三匹の猿がいて
一匹は目に手を 一匹は耳に手を
もう一匹は口に手をあてたまま
黙って座っていた
人々は花をむしりとった
でも ミザルは止めなかった
人々は聖地を破壊した
でも キカザルは止めなかった
人々は母なる場所を犯した
でも イワザルは止めなかった

地球にはフロンガスが漂い
おかげで天空のオゾン層に
みごと 大きな穴が開いた

ミザルは泣いた
 われわれは神話を復活させるために
キカザルも泣いた
 もう一度 太陽に精液を流して
イワザルも泣いた
 われわれの子供たちを作るべきだろうか

精液の中の見えない精子たちが祈った
 すべての霊魂よ
 霊魂の中の霊魂
 すべての悪霊とたたかうために
 立ち上がっておくれ

チェトラ・プラタップ・アディカリ 
 1943年、ネパールのポカラ市近隣の山村で生まれる。国立トリプバン大学卒業後、上智大学に留学。ネパール出版公社会長を経て、86年から4年間、副教育大臣。詩集は3冊、ポピュラー・ソングの作詞も。81年「マタ・ラリグラス」の作詞でユネスコ主宰アジア太平洋歌謡曲コンテスト1位。90年から2年間日本滞在。佐々木幹郎とともに日本文学の翻訳機関「ヒマラヤ文庫」を創設。日本現代詩のアンソロジーの他、宮沢賢治、夏目漱石などを翻訳。

佐々木幹郎(ささき・みきろう)
1947年、奈良県で生まれ大阪河内平野で育つ。同志社大学文学部に入学するも、大学紛争が始まり70年大学を離れる。その年第1詩集『死者の鞭』を上梓。以後『水中火災』 『百年戦争』 『気狂いフルート』 『音みな光り』 『風の生活』 『蜂蜜採り』 (高見順賞)。ほかに評論集『中原中也』(サントリー学芸賞)『河内望郷歌』 『地球観光』、富岡多恵子との対談『語りの地形』 エッセイ『カトマンズ・で・ドリーム』など。 
 
     
     

以上の文章は「申」1991年開催の絵馬展にチェトラ・プラタップ・アディカリ氏より寄稿戴き「未」出展冊子に記載されたものです。

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