<涙>

 外務省のアフガニスタン復興支援国際会議へのNGO(非政府組織))排除問題を巡る一連の騒動の中で、田中真紀子外相が記者団の前で涙を流した。小泉首相は「涙は女の最大の武器」と外相を揶揄し更迭に踏み切った。しかし世論の反発は大きく、内閣支持率が急降下した。涙を流す方も揶揄する方もどっちもどっち。こんな茶番劇は御免蒙りたい。 同じ涙でも、最近相次いで美しい涙を見た。
 NHKテレビ「クローズアップ現代」に出演したイランのマフマルバフ映画監督の涙。 昨年の9・11以後、アフガニスタンに世界の耳目が集まっているが、彼はそれ以前から終始一貫アフガン問題を提起していた。
「アフガンを変えるには教育が重要で、空爆では何も変えられない」と主張する彼。我が子のことを語るような口調で、滂沱と涙を流しながらアフガンの子どもたちの窮状を訴える。大粒の涙が彼の精悍な顔を濡らす。怒りの涙か悔し涙か?質問するキャスターも目にいっぱい涙を浮かべていた。監督の涙もキャスターの涙も実に美しかった。
 教育の重要性を認識した彼は、私財を投じてNGO「アフガン子ども教育運動」を興し、識字活動と学校建設を始めていると言う。アフガンの子どもたちにこれ程純粋に情熱を傾ける監督にはただただ頭が下がるのみ。テレビを見ながらも何度も感動の涙を拭った。
 2月2日、NHK大阪ホールで「アジア古都物語フォーラム 第1回<中国・北京>」が開かれ、俳優の中野良子さんら5人のパネリストが古都北京について語り合った。
 77年、中国で開かれた日本映画祭で「君よ憤怒の河を渉れ」が大ヒットし、主演女優賞の彼女は中国で一躍有名になった。それが機縁で、彼女はその後何度も訪中している。
「私は中国へ行く度に日本の侵略の事実に出会います。帰国後その事実を多くの人に話しますが、耳を傾けて下さる方は殆どいません。22年間、一人でずっと自分にできることは何かと考え続けてきました。今日、この会場で中国に関心を持つ多くの方々にお会いできて本当に嬉しいです」
 こう言うと、彼女は突然声を詰まらせ、ハンカチで目頭を押さえた。会場は一瞬シーンとなる。彼女はその後も何度か涙を流し、話が途切れた。余程感極まったのだろう。
 彼女は自費で中国に学校を作るなど、アジア一帯で幅広い活動を続けている。しかし、国内での活動に限界を感じ、自分の無力さに歯がゆい思いをしているのだろう。あの涙は厳しく自分を責める自責の涙だったのか。
 会場からは激励の大きな拍手が送られ、彼女はことばを詰まらせながらも話し続けた。長年の思いが一挙に迸り出た彼女の美しい涙。ついつい貰い泣きしてしまった。