@心象風景の秘密・・・・・・・・・シャガールの絵から |
これはシャガールの 「人魚と魚」 という絵です。
この絵も明らかに心象風画といえるでしょう。
画家の力によって、心象風景が克明に描かれていますが、私達が心象風景を広げていけるように随分工夫されています。
重要なことは、この絵を舞台にしてあなたの心象風景が夢のように広がっていくということです。
あなたの心が幸せな気分になったり、自由な愛の気分を味わうことが出来るなら、それはあなたの心象風景の力なのです。
あなたの感じる印象は、はじめから絵に用意されていて、ただそれを与えられただけのものだという考えは間違いだと、ここではっきり申し上げておきましょう。
優れた絵は、この絵のように、あなたの心象風景を作家の狙い通りにいざなう力を持っていますが、それでもそれが限界です。
あなたの中に広がる心象風景は、常にあなたのもの、あなた自身なのだというのが、心象風景の大切な秘密なのです。
あなたはこの絵を見て、これは有名なシャガールの絵で、私になどとても描けない、なんて思うことはありませんか?
けれども、今あなたがこの絵を通してみている心象風景は、どんなに逆立ちしたってシャガールには描けない風景なのです。花や月や人魚、その画面を見て物語を感じますね。その雰囲気や絵の意味、すべてあなた自信が作り出しているということに気付いていただきたいのです。
あなたの見ている心象風景は、シャガールの絵を越えて拡がっているあなた自身の風景なのです。
もちろん、そのような心象風景にいざなってくれるこの絵と、シャガールに感謝と愛をささげるのは別問題です。
ムンクの有名な 「叫び」 です。
この絵も、シャガールと同じレベルで私達の心に働きかける力を持っていますね。
この絵はシャガールとは反対に不安という負のイメージを持っていますが、あなたはそこからどんな心象風景を観ているでしょうか。
その心象風景は、すでに見てきたように、あなた自身の想像の中で広がった風景であり、ムンクには描き得ない心の世界なのです。
この絵は暗い負のイメージですが、私達の心の深いところで共鳴の振動を与える優れた絵だといえるでしょう。
それは、負の心もまた人の心の大切な一部だと教えてくれるからです。
それゆえに、絵は暗くてもそこから人は、希望や勇気などの心を見出す力を与えてくれるのです。
負の心を忌み嫌う誤った考え方をただし、ムンクの叫びは、これも大切な自分なんだと主張するのです。
暗いからと嫌わずに、ムンクの絵の舞台に立てば、あなたの心はそこから独自の風景を見始めます。そしてその風景の彼方には希望に輝く光が必ず見えてくるはずです。
朝と夕があるように、それがトータルな心の世界だからです。
A心象風景の秘密・・・・・・・・・ムンクの絵から |
B心象風景の秘密・・・・・・・・・マチスの絵から |
マチスの、これは切り絵です。何を描いたのだと思いますか?
「ジャズ」 とい題名だそうです。
題名がなかったら、この絵はもっと自由に私達の心を広げてくれますね。
上記の2作は題名による息苦しさは感じませんでした。それは絵の舞台が言葉の枠の中にうまく収まっているためです。
しかしこのマチスの絵は、言葉の枠をはみ出したもっと広い舞台設定になっているのです。
あなたにはこの絵は何に見えますか?
題名を知らせずに質問したら、十人十色の答えを出すでしょう。
それは当然のことで、マチスもまたそれを喜んでいるはずです。
あなたが、この絵から触発されて広げる心象風景に誤りははありえません。自由に思い描いた心象風景はすべて正しいのです。
というより正、誤というレベルの問題ではありません。それがあなた自身なのですから。
中には、絵を前にして間違った解釈をしていないかと恐れる人がいます。しかしそれは大きな誤りなのです。
なぜならそれは、マチスには描けないあなたの心象風景なのですから。そして作家はそれを望んでいるのです。
優れた作家は常に、自分の作品が強いイメージを発し、観る人の自由な心の中に新たな波紋が広がっていくことを願いながら絵を描いているのです。
C 心象風景の秘密・・・・・・・・・それはあなた自身 |
いよいよこの授業も最後になりました。
心象風景について、少しでも役に立つ内容になっていたら幸いです。
自分を忘れてしまいがちな社会、過酷な売り上げを要求され、寝る間もない労働を強いられて、心と体を蝕まれる若者が今日の新聞にも出ていました。
心象風景など観るいとまもない社会というのは、いつか破綻するに決まっています。
なぜなら、社会は人間のためにあるのですから。
その人間が病めば、富にあふれた社会でなど何の価値もないでしょう。
しかし今、この社会から逃れられない私達は、せめて一瞬でも自分の心を垣間見る場所を見つけ出す必要があるのです。
ムンクの叫びのその向こうに、明るい人間の幸福な姿を見たいものです。