resoon 6

いよいよ最終のレッスンです。
デッサンは心の鏡、それはあなた自身を映し出します。
今回は手前味噌ながら、私のデッサン論から素材を取ります。
デッサンによって映し出された心の姿、
それは小さな「私」のなかに閉ざされたものではなく、もっと大きな、宇宙につながっているという事を実感していただくものです。
あなたは宇宙そのものなのです。


世界の始まり(立方体)を描く
一、

世界を描くデッサンの行程を見ていきます。

世界は三次元、(縦、横、奥行き)によってものを生み出します。

その最も基本的な形が立方体です。

まずおおよその形をとります。

二、

垂直に向う力によって

無の世界から存在(もの)が生み出されます。

アリはその存在に這い登り、あるいはすべり落ちます。

生と死の純化された姿です。

三、

水平線は生み出されたものに形(大きさ)を与えます。

そこに存在を受け止める大地が現れます。

地を這うアリは、何処までも広がる地平に佇む立方体を見上げます。

水平線と垂直線の交わりによって世界は広がっていきます。

四、

斜線によって奥行きが生まれます。

斜線は、遠ざかるにつれて力を弱めていく垂直線を暗示しています。

斜線によって存在に動きが与えられるのです。

五、

垂直線、水平線、及び斜線によって立方体は埋め尽くされます。

水平線はさらに地平を広げ、垂直線は空間を暗示します。

全体の形に具体的なものが見えてきました。

六、

立方体を取り巻く空間に3つの力が与えられます。

地平と立方体が空間を通じて一体化する流れが生まれはじめるのです。

空は高く、広く、そして深く運動を始めました。

七、

空間が3つの力で埋め尽くされます。

ここまでくると、絵は一つの世界を主張し始めます。

ここで終えてもかまわないほど世界は具体的になって来ました。

八、

世界は鉛筆の動きによって,さらに密度を増します。

立方体にも斜線が加わり、生命のような動きが生まれました。

存在に対して個性が与えられます。

世界に表情が現れ始めます。

九、

世界に光がやってきます。

デッサンにおいて光は、闇を描くことから生まれます。

空間が光と闇の交錯する中で存在を生み出していくのです。

こうして立方体のデッサンは終わります。


世界の進化(円錐)を描く

一、

円錐は現世を現します。

まず大まかな円錐の形をとります。

それは同時に、心の中に円錐が現れている事を意味します。

心の中の円錐を、その中身まで意識します。

二、

円錐における垂直線は、世界の厳しさを見せてくれます。

それは、頂点に行きつく垂直線はただ一本しかない事からはっきりと見て取る事が出来るのです。

他の線は全て途中で切り取られます。まるで精子が卵子に向う行程のようです。

まさに現世の体現といえます。

三、

水平線が現れると、形が決定づけられます。

円錐を水平に移動するアリの軌跡は自然に丸くなり、頂上に向って次第にすぼまりながら回転運動をします。

螺旋に動くアリ、それは進化を暗示させます。

四、

斜線は輪郭線に取って代わります。

円錐の上を水平に移動するアリは裏側に回りこむ一瞬、一つの点になります。

その点が連なって円錐の斜線が生まれるのです。

その点は垂直の力が切り取られて悲鳴をあげている場所なのです。

斜線は空間を切り裂くように押し上げ、世界に強い運動を与えます。

五、

円錐を取り巻く空間が盛んに動き始めます。

まるで沸騰寸前のような気流の流れが錯綜します。

その中で、円錐の表面では、アリが上に向うたびに仲間を蹴落としていく戦いを演じているのです。

命のダイナミックな躍動が世界の全体を振動させ、

その中心で円錐が秩序を与えるように立っています。

六、

空間の動きが過密状態になり、

円錐が具体的な形を見せ始めます。

地平の広がりも具体的になり、細かな斜線や垂直線が混ざります。

円錐の頂上から吐き出されるように気流が動き、それに伴うように地平からエネルギーを吸い上げようとしているようです。

そこに世界の縮図が現れます。

七、

線の動きが画面に満ちてきました。

円錐の形が具体的なものとなり、

混乱した世界が秩序と共に一つの世界へと姿を現してくるようです。

デッサンはもう少しで一つの節目を迎えます。

八、

円錐はほとんど自分の領域を作りあげました。

頂点が世界の中で鋭くその場所を暗示しています。

しかし現世では、その頂点に立てるものは誰もいないのです。

小さなアリでさえ、頂点に近づけばその場所は立っていられないほどの場所となり、

しかもその上にまだ鋭くとがった頂点が見えています。

心の中に存在する円錐は永遠に行き着く事の出来ない地点なのです

九、

円錐のデッサンの完成です。

円錐は様々なこの世の姿を暗示しています。

筆触法によるアリの運動も、そのまま現実の生活を体験します。

苦しみ、嫉妬、失望、そんな負の感情と体験ばかりではなく、

喜びや達成感がくっきりと浮かび上がってきます。


完成された世界(球体)を描く

一、

閉じた形、球体の大まかな形を描きます。

思うままに動かした線の軌跡、

ここの中には球体が宇宙空間に浮かぶ天体ように見えています。

球体は重力を感じさせない形態です。

それは垂直、水平、斜線のどの線からも支配されない完成された形だからです。

二、

球体の上をアリが移動します。

しかし球体には垂直線も水平線も定まらないために、アリの動きはかって気ままに進みます。

どんな動きをしても、その軌跡は円を描きます。

三、

心が球体を離れると、それを取り巻く空間に水平線の動きが見えてくる。

するとそこから、球体にも水平線が確定する。

四、

水平線に対して、垂直線が加えられます。

球体は、その存在が空間を規定するのではなく、

逆に空間が球体に方向を与えるようになります。(球体の形から何処が地面だという事が決められない)

それは球体が完全に満たされた形態をもつためです。

つまり球体は何処から見ても同じ形に見えるのです。

五、

球体を取り巻く空間から独立するように、球体はそれだけで完結するような線の動きになります。

このため、地平を示す水平の力も空間の中に埋没してしまうようです。

そこには空間とものしかない世界のようにも見えます。

六、

心の動きが線となって、ほとんどの余白を埋め尽くします。

球体の表面は、方向が定まらず、様々な方向から線が錯綜します。

球体のこの性質は、円錐の時のように切り取られるような垂直線が一本もないことが原因です。

円錐が求道的な形態だったのに対して、球体は完全に満たされた形だからに他なりません。

七、

背景の空間がしっかりと定まってくるにつれて、球体も具体的な形をとり始めます。

光と影も少しずつ見えてきます。

八、

この段階になると、球体もほぼ完成します。

しかし地平はまだ曖昧なままです。

これは球体が重力を感じさせないために、地平との関係が希薄になっているためと思われます

九、

満たされた形、球体の完成です。

球体は地球の形、あるいは原子レベルの素粒子の形といえます。

立方体が、世界からものの生み出される形であり、円錐は進化の形であるとするなら、

球体は達成された形といえます。達成された形は同時にものを作り出す原子として、立方体を作る母体となります。

こうして3つの形態はいつまでも循環して宇宙の運動の根本となっているのです。


以上でデッサン教室のレッスンは終わりです。
お疲れ様でした。
この教室では、デッサンの技術的な問題は一切触れていません。
あくまでも、絵を好きになっていただくための、基本的な考え方と接し方についての解説ですので、ご了解ください。




トップへ