lesson 4

(コントラストと遠近の関係を身につける)

光と影の関係(コントラスト)が、全てのものの遠近を決定します。

これは色彩を使わない空気遠近法とも言えますが、確かにコントラストと、描くものの遠近が一致した時、画面に空気が見えてきます。

私は画面に空気が見えてきたときに、絵の完成と考えています。

コントラストを理解する事は、デッサンの質を高める上で大切な要素です。

しかもその法則はきわめて単純明快、簡単なものなのです。後はそれを実感するだけです。

まずは左図を見てください。

同じ大きさの立方体を3つ並べたものですが、遠近の感じ方はそれぞれ違っているのがわかりますか。

この図は明らかに左から右に行くにしたがって、立方体が遠くに感じますね。

また、奥にある立方体ほど大きく感じて不自然な感じを受けます。

これは後でみる、形の遠近法を無視しているためです。

さて、この立方体に遠近を感じる秘密をみてみましょう。実に単純です。

それはつまり、コントラストの違いのためです。図を見るだけでわかりますね。

遠くに行くにしたがってコントラストが弱くなっています。理屈はそれだけです。


上の図の影になっている部分だけを並べてみました。

背景の白と、箱の黒の対比が小さくなっています。

これだけを見ても、どちらが遠くて近いかがわかりますね。

ここから影は、近いものほど濃く、遠くなるにしたがって薄くなるといえるのです。

薄いというのは、明暗のコントラストが弱いことを意味します。


次は立方体の光の部分です。

この絵は輪郭線でごまかしていますが、ここでも影と同じことが言えます。

つまり、明るい部分でも、近いものは強く光を感じ、遠くに行くにしたがって光は弱くなります。

光が弱いというのは、明暗のコントラストが弱い事を意味しています。

近いものは強く、遠いものは弱く、それが的確に表現できると、そこに空気が生まれてくるのです。

空気は描くのではなく、まわりの関係を正確に描くことで生まれます。


さて、遠近は、ものと空間のコントラストだけではなく、当然ものそのもののコントラストにも現れてきます。

上の図で明らかなように、立方体の3つの面のコントラストは遠くなるほど弱くなっていますね。

具体的なことで考えてみるとよく判ります。

天気のいい日に、遠くの山を見ると白く霞んでいますね。あの霞みは、よくみると白ではなく灰色である事がわかります。

それは、白黒の中間トーンが灰色だということからも理解できるでしょう。

ものは遠くになるにつれて、灰色の中に消えていくのです。

言い換えますと、ものは遠くになるにつれて中間トーンに向いコントラストを弱めるという事になるのです。


最後に上の図の立方体に、影と立方体を取り巻く空間を意識して加筆してみました。

遠くの山並がぼんやりとけむるように、遠くの空間を中間トーンまで落としました。

最初の図の不自然さがかなり和らいだのがわかるでしょうか。これに形の遠近が加われば、絵はもっと拡がりを持って来ます。

ところでこの図では、一番奥の立方体の光を受けている面が光りすぎているように思いませんか。

そうです、この図では、確かに奥に行くほど中間トーンに近づいていますが、立方体の三面の明暗の比率を間違えているのです。

3つの面が中間トーンに移っていきますが、このときこの3つの面のコントラストが同じ比率で中間トーンに移っていかないと、こんな間違いを起こします。


コントラストの話しはこれくらいにしましょう。

何よりまず自分で試して見てください。上の話はすっかり忘れてもかまいません。

少し理屈に走りすぎたかも知れません。絵に理屈は似合わない。この言葉をしっかり頭の中において置いてください。

ここでは、知識で頭に残すのではなく、あくまで体験として心の中に刻み込んでいただきたいのです。

体験すれば、後は心と体が反応して動き始めます。

その動きだけがあなたの自由な心を現します。デッサンにとってそれだけが重要なのです。

例えば上の説明の最後で「間違いを起こします」と書きましたが、それを言葉だけでとらえると、それは駄目だという思い込みとなって心を縛ります。

それでは的外れとなってしまうのです。

当教室では常にそのことに心がけて下さい。言葉にとらわれず、言葉によって引き起こされるあなたの心を大切にしていただきたいのです。



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