lesson6

風景画を楽しく描くために

風景画を描くということで進んできましたがいかがでしたか?

もっと技術的な解説を期待されていた方には申しわけありませんが、期待はずれだったかも知れません。

ここでは具体的な絵を描くための細かな(手取り足取り)解説はしておりません。もちろんその理由は風景画を楽しく描くためなのです。

さて、最後のレッスンでは、これまでの復習をかねて、風景画の秘密について考えてみましょう。
技術ではなく心をつかむための学習です。

風景画には、描いたその風景につながっている自分の場所がある。それは絵を左右するもっとも重要で大切な場所なのです。この場所は想像や観念的なものではなく、実際に絵の中ではっきり実感できるのです。

風景画は自分の分身であるということを理解したら、楽しみは倍増するはずです。

 

1、風景画の指定席

左の図はlesson1で使用したものですが、奥行きと横の広がり、そして高さが表されたもっとも単純な構図です。風景画の原点ともいえるでしょう。

 lesson1ではこの図を風景画の舞台と申し上げました。

 さっそくですが、この絵を描いたあなたはどこにいるのでしょうか、この絵にはしっかりとその痕跡が描きこまれ、そこから実際に切っても切れない作者との関係が築かれているのです。
どういうことだか分かりますか?

 その答えはすでに学習してきたところから簡単に見つかると思います。まず復習の意味で、その答えをご自分で捜して見ることをおすすめします。

 この絵には、作者の立っている場所があります。そしてその場所は、のちのちこの絵を見る人のための指定席となって、存在し続けるのです。
 


2、指定席を体感する心線(こころせん)

 画面の虹色の線が何を意味するか分かれば一目瞭然ですね。

風景画の指定席は風景が拡がる画面のすぐ前、絵を描いているあなたの場所そのものなのです。
 絵にはその場所が永遠に記録されます。この場所は絵を描き終えた後も絵の中に残され、次に絵を見る人のための指定席となるのです。

 画面の水平線上に置かれた中央の消失点からまっすぐこの指定席まで見えない線(心線)がつながっています。

 この心線(こころせん)を意識すると、とたんに絵から空間が生まれます。
もちろんそんなものを意識しなくても空間を感じますね。それは見ているあなたの心にこの心線が届いているからなのです。

 あなたの描いた風景画を、私が今その席に座って眺めている。
風景画にはそういう意味があります。

 そしてもっとも大切なことは、この心線というのは水平線のように画面に直接描かれた実線ではなく、まさに心の線だということです。


3、心線の作り出す世界(あなたそのもの)

 上の絵は私が絵が描いたものです。実際の場所に行ったのではなく、右の写真を見て描いたものです。
あまり心をこめて描いていないというのは難点ですが、この際それはお許しいただいて、写真との違いを見ていただくために参考にしていただければと思います。

 写真は風景をありのまま映します。誰が撮っても同じ風景が写るでしょう。指定席に座っているのはカメラの目だからです。その映し出す風景はどこを見ても均質で無感情なリアルさがありますね。カメラ線はあっても心線は存在しないのです。

 一方下手な私の絵ですが、いかがですか?写真との違いをまず感じていください。

 心は常に、大切なものとそうでないものを区別します。ほしいものといらないものを見分けます。好きなものと嫌いなものを分別します。そうして関心のあるものだけをつかもうとするのです。 その結果が風景画となって現れます。

 絵には必要なものだけしか描かれていませんね。また実際の色や形ことらわれる必要もないのです。
何をどうとらえるのか、これには方法や法則があるのではありません。あなたの心が決めるものなのです。
そうして描かれた絵には、自然にそのときのあなたの喜びや悲しみが色付けられています。
世界で一つしかない絵が出来るのです。

 心線でつながる絵の指定席に座ると、そこにはあなたの見た心の風景が広がり、誰もがその心の空間に遊ぶことが出来るのです。

 この楽しさを理解すれば、もはや絵の技術的な上手下手などレベルの低い問題だと思えるようになるのではないでしょうか。


4、大切にしたいもの

 右の絵はアメリカの20世紀初頭に活躍したグラント・ウッドの風景画です。アイオワ州で生まれ、地元の農園風景を主題にした絵を多く描きました。

 不要なものは大胆に省略され、家路に向かう農夫と馬車が生命力豊かに描かれていますね。

 指定席に座って眺める私達にウッドの心線がつながって、近代アメリカの農村風景を彼の心を通して見る想いです。

 私達にこんな絵は描けませんが、しかし誰でもこれに匹敵する絵は描けるのです。私が描いても、あなたが描いても心線は絵の中に生まれます。

 表面的な技術に圧倒されて自分には描けないと諦める前に、あなたの中にある心の響きに目を向けていただきたいのです。
 
 心は誰の中にあっても孤高で素晴らしい存在です。そしてその素晴らしさは自分で認めてあげることでしか伸ばすことの出来ないものなのです。

 自分の心も、この絵に匹敵する。そう思うことが風景画を楽しむ秘訣であり、自分の心を大切にすることだけが、絵を上達させてくれるのです。



「風景画を描く」はこれで終了です。
お疲れ様でした。

最後に一言申し上げておきたいことは
出来ないと思わないでほしいということです

自分の絵はへたくそだ思っても一向に構いません。
そのへたくそを愛して欲しいのです。

こんなへたくそな絵を描けるのは自分しかいない
そう思う心が芸術家だと理解してください。

あなたは生まれたときから芸術家です
ただあなたがそう決心するまで
保留されているだけ
なのです


さて、授業料を頂かなければなりません。
授業料としてあなたの絵の画像を是非お送りください。
頂いた画像を掲示して、絵を愛するもの同士で共有したいと思います。
皆様とともに、楽しく自分探しの場として成長していければこの上もない幸せです

のしてんてん


グラント・ウッド(アメリカ)  木炭・白チョーク 

5、おわりに