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ALBUM OF THE YEAR 2012
ALBUM OF THE YEAR 2012 ――CDが終わる時代に |
1位 『曽我部恵一BAND』 / 曽我部恵一BAND
おお坊や、そっちはどうだい? おお坊や、どんな感じだい? 曽我部恵一は語りかける。夕べ見た母親の夢を思い出しながら吊革に掴まって目を閉じる「俺」に。バイトの面接にまた落ちたフリーターの「あたし」に。障害者の妹を抱え今日も生活保護を申請する「お姉ちゃん」に。そして今日もまたその申請を断る区役所の「おじさん」に。それも、20年前の"青春狂騒曲"とは明らかに違った温度で。これは、僕らの歌だ。来る日も来る日もぎゅうぎゅうの満員電車に詰め込まれて、何処にも続いていない線路の上をひたすら走らされ、膝をつくことも許されない――そんな、《誰かになろうとして誰にもなれ》ない僕らのための、シリアスで、痛々しくて、生々しい、けれど最大限に現在進行形なラヴ・ソング。大丈夫、聞こえているよ。 - - - - - - - - - -
曽我部恵一BAND「満員電車は走る」【Official Music Video】(YouTube) 2位 『A Different Kind Of Fix』 / Bombay Bicycle Club
単音を絡ませるツイン・ギターは勿論、ルートを刻むベースからも、ハイハットやスネアからさえもメロディが聞こえる。ベタな言い回しだが、楽器が「唄って」いるのだ。ソング・ライティングもアレンジも決して派手ではないが、四人の出した音がドンピシャな位置に収まって有機的に絡み合う楽曲からは、彼らの知性と、一歩一歩構成を積み上げてきた地道な努力が感じられる。もう何回リピートしたかわからんくらい、素晴らしい。 - - - - - - - - - -
Bombay Bicycle Club - Shuffle(YouTube) 3位 『vartali』 / sigur rós
"ekki múkk"で通奏低音のように流れるプツプツというノイズは、まるで、暖炉で薪が爆ぜる音のようにも聞こえる。そう、あたかもアートワークの古い写真を、回想と共にそこで燃やしているかのように――。通算6枚目のアルバムに付けられた『valtari』というタイトルは、アイスランド語で「蒸気ローラー」を意味するそうだ。ひょっとすると彼らはここにきて初めて、内省でも歓喜でもなく、単なる「風景」を描いたのかもしれない。錆と埃にまみれて役目を終えた機械が重い軋みを上げて眠りにつくようなタイトル・トラックで、彼らが「終わり」を暗示したかったものとは、どん詰まりの資本主義か、沈み続けるアメリカか、それとも――。 - - - - - - - - - -
Sigur Rós: Ekki múkk (moving art)(YouTube) 4位 『言いたいことはなくなった』 / The Mirraz
今、日本語で、「I love you」をこれほど軽やかに、しかもあっけらかんと唄えるロック・バンドが一体どれだけいるっていうのか? 恥ずかしいくらい最初から最後まで連発される「君が好き」は、ベタベタなエイト・ビートにのって、馬鹿丸出しスレスレのラインを駆け抜けていく。ネタ自体はとっくに使い古されてるし、正直言っちゃえば唄ってることかなりダサいんだけど、それを十八番のマシンガン・ヴォーカルで「今」の感性に無理矢理フィットさせにいってるっていう、そのバランス感覚が本当に見事。おまけに全編通してしつこいくらいかかってるエコーが、隠し味に隠しきれないメランコリアまで添えてくれてるなんて、もう感服です。 - - - - - - - - - -
The Mirraz / ラストナンバーMV(YouTube) 5位 『Attack On Memory』 / Cloud Nothings
《I thought I would be more than this》、「もっとマシなはずだったのに」――たったそれだけを原動力にして、弱冠20歳の少年たちのエネルギーは暴発する。そして「たったそれだけ」だからこそ、その歪みと叫びは、どうしようもなく美しい。どんなバンドでも恐らく一度しか作れないであろう、まじりっけのない「自意識過剰」の結晶。そして、それを最大限際立たせる、狭い密室で圧縮されたようなアルビニの音作りがもう、ほんと良い仕事してますね。 - - - - - - - - - -
"Wasted Days" (Live at the Grog Shop)(YouTube) 6位 『eye』 / ミツメ
そう、彼らは逃げているのだ、現実から。ふにゃふにゃのヴォーカルとへなへなのアンサンブルに、ディレイとリヴァーブを目一杯かけて、必死に見たくもない現実を塗りつぶして甘いノスタルジーに逃避しているのだ。だが、何が悪い? どいつもこいつも現実を見ろとか先のことを考えろと言うが、未練たらしく過去にすがって、一体何が悪いというのだろう。結局、僕は、いつまで経っても《髪が長かった頃の君》を追いかけ続けている。君だってそうだろ? - - - - - - - - - -
TOKYO ACOUSTIC SESSION : ミツメ - 煙突(YouTube) 7位 『100年後』 / OGRE YOU ASSHOLE
もう、何処へ行ってしまうのだろうか。前作の異様なテンションと打って変って、ひたすらに静かで穏やかでドリーミーで、下手するとヒーリング・ミュージックに聞こえないこともない。が、恐ろしいほどに「乾いて」いるのだ。歌詞に通低しているのは《このまま終わりが/やってくるのもいいか》とか、《あー ここには なにもない》とかいうやっぱり異様な終末感。そしてそれらを唄う声は棒読みの如く、微塵の感情も感じられない。「100年後にはどうせみんな死ぬ」という徹底的に乾いた現状認識の上で、出戸の目には今一体何が映っているのだろう。というか、こんなん作っちゃって、次何するつもりなんだろう。 - - - - - - - - - -
【MV】夜の船 - OGRE YOU ASSHOLE(YouTube) 8位 『4』 / QUATTRO
本当に、一部の隙もない。一部の隙も無く格好良い。洒落たカッティングが映える"Last Dance"から、疾走するギター・ロック、お得意のサマー・ソング、ちょっとウェットでアダルトなクローザーの"Lily"まで、どの角度で切ったってひたすらに格好良い。その上、再加入した潮田による日本語詞の2曲がアルバム全体の絶妙なアクセントになってるときた。で、タイトルが『4』っつーんだから、これはもう本人たちも自信満々だろう。ほんと、完璧。ってか、ちょっと格好付け過ぎだぞ! - - - - - - - - - -
QUATTRO / LAST DANCE inc.NEW ALBUM "4" 2012.03.07 on sale(YouTube) 9位 『Coexist』 / The xx
これ以上音を削ったら、もう何も残らないんじゃないか――そんなアホなことを口走ってしまうほど、研ぎ澄まされている。「洗練」なんて生易しいものではない。余分なものを一切排するストイックさは、最早修行僧のレベルだ。少し力を込めただけで粉々に割れて崩れ落ちそうなフォルムは、幼い男女の塞ぎこみがちで危うい"Our Song"を体現するための、これ以上ないフォーマットとして機能している。欲を言えば、"VCR"クラスの決定打が欲しかったが、減った音数の代わりに倍増したリズムのヴァリエーションは、アルバムの完成度を更に一次元上へと押し上げた。 - - - - - - - - - -
The xx - Chained (Official Video)(YouTube) 10位 『Channel Orange』 / Frank Ocean
初代プレステの起動音から始まるこのアルバムには、この年最高のロマンスが描かれている。たとえ世界一のディーヴァが世界一の作家に世界一のバラードを書かせたって、彼のこの恋の美しさには敵わないだろう。ある夏の西海岸で、彼は、一人の男に恋をした。決して叶わぬ恋を――。《I re-mem-ber you/If this is love, I know it's true/I won't for-get you》と唄う彼の声の切実さに、ただ、胸を打たれる。 - - - - - - - - - -
Frank Ocean - Thinking About You (Official Video)(YouTube) 11位 『Teenage Riot』 / your gold, my pink
重心の浅いリズム隊のせっかちなビートと跳ねるピアノ、そして陽気なブラスにのせてお届けされるのは、《死にたい》だの《年中暗いや》だの《サノバビッチ》だの《ときどきブチ抜きたい 親愛なるマイヘッド》だのといった、ネガティヴとルサンチマン全開の鬱々とした言葉たち。ガキだ。ウジウジしてて、でも無駄にエネルギーの有り余ったガキ丸出しだ。だが彼らは、キラキラの体裁にクソッタレな歌詞を詰め込んで、《Girls & Boys 虚勢を張れよ/未来なんて用意されてない》と高らかに宣言する。さぁ、クソめんどくさいガキ共による、クソめんどくさい社会への「暴動」の始まりだ。 - - - - - - - - - -
your gold, my pink - Virgin Suicides (MV)(YouTube) 12位 『ランドマーク』 / ASIAN KUNG-FU GENERATION
震災と原発事故という洒落にならない現状を突き付けられた結果、皮肉なことにアジカンは唄うべき「言葉」を取り戻した。そして更に面白いことに「言葉」を取り戻した途端、最大の武器だったメロディもまた彼らの手元に舞い戻ってきたのだ。「感情の奔流が疾走するギター・ロック」でありながら、今までのどのアルバムとも間違いなく違う。これだ。これを待っていた。《Too late》なんて身も蓋もないアイロニーで締めくくられてはいるが、このメロディを聴けば断言できる。《もう漕ぐのかったるい》なんてぶっちゃけながら、それでも彼らは紛れもなく「希望」を唄っているのだ。 - - - - - - - - - -
ASIAN KUNG-FU GENERATION 『踵で愛を打ち鳴らせ』(YouTube) 13位 『PORTAL』 / Galileo Galilei
ラップトップとサンプラー抱えてスタジオに引き籠る音楽オタク兼文学少年たちが作り上げた、灰色だけどカラフルで、壮大だけどささやかな私小説。ここまでガチの洋楽インディー志向のサウンドにバンプ的詞世界を掛け合わせるセンスは、所謂ロキノン系ギター・ロック界隈の凡百の輩とは一線を画している。それでいて間口は狭くないという、ね。この瑞々しく新鮮なタッチで描かれる《砂浜と線路》の情景を、是非とも多くの人に体験して頂きたい。 - - - - - - - - - -
Galileo Galilei 『さよならフロンティア』(YouTube) 14位 『(((さらうんど)))』 / (((さらうんど)))
80s、90s、というよりも、「バブル」だろうか。トラックでは懐かしい音色のシンセが幅を利かせている。が、不思議と古臭さを感じさせないのは何故だろう。打ち込みのビートとシーケンスの隙間をエレキ・ギターのささやかなカッティングが埋めて、歌詞カードの要らないくらい滑舌の良い鴨田潤のヴォーカルがその上を走りまわる爽快感といったらもう! おもむろキーを掴んで玄関から飛び出して夜のドライヴに出掛けたくなる、2012年現在における最高のシティ・ポップ。あ、車とか勿論もってないんですけどね。 - - - - - - - - - -
(((さらうんど))) / 『夜のライン』(YouTube) 15位 『An Awesome Wave』 / Alt-J
なんか、ようわからんが、エロい。なんというか、真夏の六畳のアパートでクーラーも付けずにいたんで隣の恋人の汗が匂ってくるみたいな、そんな生々しさだ(どんなだ)。要するに、音が有機的なのだ。楽曲自体はダブ・ステップ経由のクールなことやってるくせに、どうしてもその「人間臭さ」が鼻を突く。だが、湿気を多分に含んで耳介にベタベタと纏わりついてくるそれが、いつの間にかクセになっちゃってたりするんですわ。病みつき。 - - - - - - - - - -
alt-J - Tessellate [OFFICIAL VIDEO](YouTube) 16位 『ECHOES』 / LOSTAGE
これほど真っ直ぐに言葉を伝えるバンドだっただろうか。「無骨」とか「男気」とか形容したくなる、成熟したスリー・ピースのサウンドの向こうから、これまた素っけなくてぶっきらぼうな歌詞がストレートに響いてくる。それが、なんか、どうしようもなく泣けてくるのだ。中でも"あいつ"は本当に素晴らしい。《多分忘れてしまうだろう/約束も名前も/返さなくちゃ 行かなくちゃ/あいつを待たせてる》とか、もう! 涙腺完全決壊を保証する。 - - - - - - - - - -
LOSTAGE / BLUE(YouTube) 17位 『Visions』 / Grimes
こども用のかぜ薬みたいに、甘ったるくて、チープ。なんだけど、たまになんか凄く恐い。夢遊病患者の見る夢みたいに、よくわからない世界観だ。だが、よくわからないけど聴いてしまう。だってクレアちゃんが可愛いから。そうです、ジャケがだいぶグロくてもファッションがもろにゴスで眉毛なくても、こんな可愛い子の宅録シンセ・ポップとかもう聴くしかない。要するに、レディ・ガガよりラナ・デル・レイより私は断然クレアちゃん派ということです。以上! - - - - - - - - - -
Grimes - Oblivion(YouTube) 18位 『Until the Quiet Comes』 / Flying Lotus
ジャズやファンクといった「黒い」リズムを下地とするビートはバラバラに切り刻まれ、ベース・ラインはルートを無視して落ち着きなく縦横無尽に這いまわる。まるで――「静寂が訪れるまで」というタイトルが示すように――安息の地を探し求め、のたうちまわってもがき苦しんでいるかのようだ。しかも最終曲が"Dreame To Me"ときた。恐らくは騒がしくも美しい、随分とアンビヴァレントな夢なのだろう。だが、その夢から覚めて落ち着きを取り戻すには、どうやらもう少し時間がかかるようだ。 - - - - - - - - - -
Flying Lotus - Putty Boy Strut (Until The Quiet Comes, new album out now)(YouTube) 19位 『America Give Up』 / Howler
夏、太陽、海、サーフィン(できないけど)!な感じの勢いだけで全速疾走するオールド・ファッションなロックン・ロール――のように聞こえるが、なんだが思わせぶりなタイトルが付けられている。「アメリカはギヴ・アップする」? なるほど陽気なように見えて、意外と風刺っぽい表現をしているのかもしれない……とか考えようとしたが結局辞めた。いいじゃないの、そんなん別に。難しいこと考えなくても、単純に曲も構成も良い。夏、太陽、海、サーフィン(できないけど)! ただそれだけで、最高。 - - - - - - - - - -
Howler - This One's Different(YouTube) 20位 『Sun in the Rain』 / Love Love Love
これでもかというほど王道で丁寧なソング・ライティング、ベタ過ぎるほどベタで凡庸だけどやっぱり丁寧な歌詞、そしてそれらを懸命に唄うフラットしまくりのヴォーカル、全てが愛おしい。それぞれのメンバーのヴォーカル曲を収録しちゃう「ノリ」も自然に受け入れられる。そう、「ノリ」だ。要するに、雰囲気が良い。メンバー・スタッフが楽しんで作っているのが伝わってくる。聴いてるこっちが元気になってくる。最近こういうバンド、めっきり減っている気がするので、ちゃんと良い曲を書いて、良い演奏をして、良い気持ちにさせてくれる彼らのような存在は貴重だ。もっと光を浴びて欲しい。 - - - - - - - - - -
LOVE LOVE LOVE/それは優しい雨でした(YouTube) 昨年の特徴を一言で表すなら、やはり「チル」という言葉に帰結するのではないか、と思います。国内・海外を問わず、です。 邦楽では、震災から少しの時間が過ぎて、ということもあるのでしょう。オウガの虚無感を通り越した異常な雰囲気の新作を筆頭に、どこか「冷めた」目線、あるいは手触りをしている作品が多かったように感じます。これにメランコリーやノスタルジーなんて感覚も織り混ぜたミイラズやミツメのアルバムも、まさに2012年を象徴していたと思います。 加えて洋楽については、スプリングスティーンをはじめ、アメリカ型の社会の失墜をテーマにした作品が多く発表されるなか、アメリカではFlying LotusやFrank Ocean、イギリスではAlt-J、The xxなど、素晴らしいけれどもやはり「冷たい」感触のものが数多く登場しました(まぁ、The xxは元々あんな感じでしたが……)。 その中で私は、そういった流れに抗うかのように「熱い」言葉を投げかけるアーティストに強く惹かれました。曽我部恵一BANDのアルバムは、最初っから最後まで体中の毛が逆立つような思いだったし、久しぶりに吠えたアジカンが聴けたのも個人的に嬉しいトピックでした。海外でも、Cloud NothingsやHowlerなど、そのやけっぱちに近い勢いの眩しさをとても頼もしく感じました。 さて、この「チル」の流れ、日本ではシティ・ポップのリヴァイヴァルなんかもあって暫く続きそうな気配ですが、そうそうクールなばっかりでもいられないでしょう。かといって熱くなり過ぎるのも違う。その辺のバランスが今後どのように動いていくのか――それも含めて、今年もどんな音楽に出会えるか、楽しませてもらおうと思います。 2013/3/6 |
SONG OF THE YEAR 2012
1. "退屈しのぎ" / きのこ帝国 |