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ALBUM OF THE YEAR 2011



ALBUM OF THE YEAR 2011
――CDが終わる時代に

1位

『Bon Iver』 / Bon Iver


still alive who you love
still alive who you love
still alive who you love
 ("Perth")


 オープナー・トラックの"Perth"で、イントロから繰り返し鳴らされるギターのフレーズに、ジャスティン・ヴァーノンの掠れたファルセットがユニゾンする瞬間――。あの瞬間がすべてだ。あとは、軽やかで、でも確かなリズムを刻むマーチング・ドラムにのって歩きだせばいい。そう、これは、もう一度歩き出すためのロードムービー・サウンドトラック。その終着点で、私たちに浄福のようなオルガンの音色が降り注ぐ。

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 Bon Iver - Perth (Deluxe)(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=c3GN9CqxKAY

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2位

『homely』 / OGRE YOU ASSHOLE

 現代の日本の構造を、ノイズまみれの歪んだギターと薄気味悪い言葉のリフレインで浮き彫りにした、オウガのキャリア最高傑作にして最大の問題作。しかし、彼らは何も「答」を示さない。《支えもない塔》から逃げ出せとも、《柔らかい壁に囲まれた、生暖かい部屋》を後にしろとも言わず、ただ《包まれた この輪の中 ダラダラ》とあっけらかんと唄うだけだ。さて、私はどうしよう? あなたは?

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 [PV] ロープ - OGRE YOU ASSHOLE(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=llO9KFfPQu0

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3位

『s(o)un(d)beams』 / salyu x salyu

 声のプロフェッショナルであるsalyuを、音のプロフェッショナルであるコーネリアスこと小山田圭吾が手がけるなんて、一体どんな複雑な構造のアルバムになるのかと思いきや、完全にポップスとして成立している。凝りに凝ったプロダクションにもかかわらず、敷居を高く感じさせないのは、飽くまで和声に焦点を当てた曲を追求したからだろう。声の抜き差しがリリックの面白みを倍増させる"ただのともだち"や"奴隷"も勿論良いが、彼女の気違いじみたヴォイス・コントロールによる一人多重ハーモニーと、「音楽」そのものを体言したかのような歌詞が美しく調和する、タイトル・トラック、"s(o)un(d)beams"が兎に角素晴らしい。

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 salyu×salyu_ただのともだち_合成ver.(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=nqfX7BTGwx0

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4位

『Within And Without』 / Washed Out

 緩やかな快楽の波が寄せては引いて、それが延々と続く。そこにカタルシスなんてもんは存在しないが、気付けばゆったりめのダンスビートと囁くような唄声に、ずっと身を委ねたくなってしまっているのだ。寒気すら感じる程に甘美な現実逃避。あと、この音楽をセックスになぞらえるアートワークのセンスにはほんと脱帽。

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 Washed Out - Amor Fati(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=etGJUeYtdxE

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5位

『Yuck』 / Yuck

 ロックなんて、愛しのあの娘ともう戻らない夏の日のことを爆音で鳴らしてりゃそれでいいんだ、と久々に思い出させてくれたイギリスの5人組によるデビュー作。轟音ファズギターと靄がかかったようなダニエルのヴォーカルがノスタルジーを掻き立て、更に曲も良いってんだからほんと言うことなし。"Get Away"の身を捩るようなリフ、何度聴いても最高だわ。

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 Yuck - Get Away(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=Kz7vyrFhFE8

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6位

『WORLD RECORD』 / cero

 《21世紀の日照りの都》、東京に住む若者たちのためシティ・ポップス。もうとりあえず、リリックの言葉選びにしても弦楽器やコーラスの使い方にしてもセンス良過ぎ。同じ情景を楽曲毎に違う角度から描くというアルバムの構成も巧い。そして何より、"大停電の夜に"という時代が渇望したアンセムを彼らは産み落としたのだ。やっと「東京のくるり」と呼べるバンドが現れた。

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 cero / 大停電の夜に - PV(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=WvUV0oeQY0A

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7位

『The King of Limbs』 / Radiohead

 枯葉を舞い上げる木枯らしを、身を切るような冷たさの清流を、そして地中深くまでその根を伸ばす大樹を、変則的なドラム・パターンの幾重にも重ねたシークエンスや、パッチワークのようなギター・フレーズとコーラスのコラージュによって描く――。どうして「自然」というものを、人間が作り出した「不自然」極まりないもので表現したのか? そうする他ないのだ。"Separater"――「切り離された者」である我々は、そもそも「自然」な手段など持たないのだから。しかし、このアルバムの最後で淡々と唄われる《wake me up》という言葉には、何の悲哀も込められていない。それもそのはず、彼らはわかっているのだ。《no alarms and no surprises please》と唄ったのは、他ならぬ彼ら自身なのである。

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 Radiohead - Lotus Flower(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=cfOa1a8hYP8

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8位

『Submarine (Original Songs)』 / Alex Turner

 甘い言葉と甘いメロディ、ただそれだけ。古典的なポップ・ソングのマナーに沿った楽曲と、弾き語りというアコースティック・スタイルは、Arctic Monkeysではアルバムのアクセントに過ぎなかったアレックス・ターナーの「うた」を存分に堪能させてくれる。しかし、これをフルアルバムのサイズでやられると食傷気味になりそうなもんだが、映画の6曲入りのサウンド・トラックという形式でサラッと発表しちゃえるなんて、意識的にしろ無自覚にしろ憎たらしいほど天才的だ。

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 Alex Turner - Submarine Trailer(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=W-Bysb3ceR0

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9位

『世界が見たい』 / 踊ってばかりの国

 単純に1本減ったギターの穴をまるで埋めようともしない音作りは、元からイカレてる下津光史のディレイがかったヴォーカルの異常さを更に際立たせた。必然的に、その歌詞も、である。スカスカでローファイな音像の中で《言葉も出ないだろう 死ぬんだから》と唄う声には、5人時代の暴力的にぶつかり合う音圧とはまた別のサイケデリアを感じる。ま、"悪魔の子供(アコースティック)"は完全に蛇足ですが、ご愛嬌。

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 !!! / 踊ってばかりの国(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=eT1wP2t-u5w

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10位

『幻とのつきあい方』 / 坂本慎太郎

 いい感じだ。とってもいいカンジ。コンガのリズムとファンキーなベース(本人演奏!)にのって、憑き物が落ちたかのようなサウンドが繰り出される。言葉選びの鋭さは相変わらずだが、ゆらゆら帝国の溺れるような快楽性ではなく、ちょっと近所に散歩に出かけるような心地良さを備えている。一旦、ぜーんぶ手放してしまった男が、これから何をしようかぼんやり考える過程を切り取った、文字通りの「レコード」。そこには、私たち誰もが内に抱えている、不安と、希望と、明日がある。

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 君はそう決めた ( You Just Decided ) / 坂本慎太郎 ( zelone records official )(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=t08i_cWdcbM

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11位

『Pala』 / Friendly Fires

 過ぎ去ってしまったダンス・ミュージックの黄金期を最愛の恋人の過去に譬え、決して手の届かない、触れられない過去に悶え苦しみながら、それでも踊るのだ、「僕は今夜、あの日々を生きてみせる」と。早鐘を打つ鼓動のように性急なハウス・ビートと、高揚する感情の奔流のように煌びやかなシンセサイザー――これほどに色鮮やかな憧憬を産むならば、どれほどに醜い嫉妬でも、アリ、だろう。《I live those days tonight》!

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 Friendly Fires - Live Those Days Tonight (Lightbox Session)(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=cVC8yODJOTk

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12位

『バンドを始めた頃』 / The SALOVERS

 直球ど真ん中。言ってしまえば、NUMBER GIRLにASIAN KUNG-GENERATIONにBLUE HEARTSまで、過去のJ-ROCKのいいとこどりして無理矢理形にしただけって感じ。なのに、初期衝動のみを頼みの綱にしてがなりたてる様を、素直にカッコいいと感じてしまう。高校生以下の奴は誰彼構わず黙って聴くべき。こういう王道ギターロックこそ、売れてほしい。

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 The SALOVERS『SAD GIRL』(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=DFN3YdRUDDo

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13位

『エピソード』 / 星野源

 恋人の髪が臭いとか、おしぼりで顔を拭く営業のサラリーマンとか、葬式でまったく手伝わない従兄弟とか、貧乏なのに4人目身篭ったとか、etc……。これほど色濃く生活の匂いがする歌を、一体どれだけのソングライターが書けるだろうか。それでいて、「何気ない日常が大事なんだよ」みたいな、今時誰も喜ばないアホな思考停止メッセージなんか感じさせないところも、すごく好きだ。冬のこたつみたいに素敵な、珠玉の掌編集。

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 日常 / 星野 源 【MUSIC VIDEO】(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=6D01Q2jn9A8

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14位

『Parallax』 / Atlas Sound

 児童への性的虐待を行う男と、それを受ける少年に対して、《Your pain is probably equalls》とリヴァーブがかった声で唄いかける――Deerhunterの『Halcyon Digest』が一人の人間による哀しみの独白を綴ったものだとすれば、「視差」という名を冠したブラッドフォード・コックスによるソロ最新作であるこちらは、その悲哀を外部から客観的に描き出したものだと言える。だが、古臭いロックンロール・サウンドのって届けられるそれらは不思議と重苦しくなく、むしろ軽快とすら感じる。この違和こそがタイトルの意味であり、彼がソロを演る意味なのだろう。

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 Atlas Sound - Te Amo (Live on KEXP)(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=AQrEL5A8D8M

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15位

『Maminka』 / Czecho No Republic

 北米インディー直系のお洒落バンドなら腐るほどいるが、なんちゃって英語に逃げず日本語のリリックに拘った彼らを評価したい。ま、日本語詞というだけで何処となく間の抜けた感じになってしまうのだが、逆にそれがちょっと可愛い、みたいな。七色に変化するカラフルなサウンドと、ちょっと気怠げなヴォーカル(イケメン)に胸キュンです。死語か。

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 ショートバケーション / Czecho No Republic(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=dPMkB3MDX1o

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16位

『Noel Gallagher's High Flying Birds』 / Noel Gallagher's High Flying Birds

 ひっっさしぶりにノエル・ギャラガーの名が全トラックにクレジットされているのだ。無論、アルバムのトータリティはOasis後期なんてお話にならないくらい高い。しかし、それよりも何よりも、曲だ。もう仰々しいくらいのスケールで鳴らされる、紛れもないノエルの旋律が文句なしに良い。やっぱりこのメロディを待っていたんだ! と諸手を挙げて絶賛……したいところなのだが、どこか物足りなさを拭い去れないのも事実。"If I Had a Gun"を聴くとどうしても脳裏をかすめるあのリアムの声こそが、このメロディに空高く飛ぶ翼を与えていたのだと、今更ながら思う。

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 Noel Gallagher's High Flying Birds - If I Had A Gun...(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=1NMUDb3Ewhs

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17位

『killing Boy』 / killing Boy

 ゼロ年代ギターロックの専売特許だった「死にたがり少年少女の内面吐露」を、ダンサブルなヨコノリのビートにのせるだけで、これほど新鮮に響くとは。時折除くチープなシンセも、そんな自嘲を表現するのに一役買っている。あーでもやっぱ、木下理樹の声だけは好きになれんなー。

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 killing Boy - Frozen Music (PV)(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=B3S1HPeIVeo

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18位

『Colour of the Trap』 / Miles Kane

 個人的には、The VaccinesよりもViva Brotherよりも、彼こそが英国クラシック・ロックの後継者なんじゃないかと思う。ザラついた音色のブルージーなギターにドッタンドッタンする重めなドラム、もうドンピシャでしょ。ちょっとメロディが弱い気もするが、渋めな雰囲気だけで押し切れる。ソロらしく、適度な楽曲のバラエティも好印象。

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 Miles Kane - Come Closer(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=V7g8zhk5KZM

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19位

『THE CIGAVETTES』 / THE CIGAVETTES

 『僕はビートルズ』を地で行く5人組。サル真似って言われりゃあそれでオシマイだが、カラフルでキラキラなコーラスが映える楽曲の完成度はメチャメチャ高い。アルバムとしてもかなりの出来なんだけど、ちょっとキレイに纏まりすぎていて逆に印象が薄くなってしまうのが残念。あ、あとヴォーカルがTHE BAWDIESのROY君並にイケメンだったら絶対売れると思うんだけどなー、って完全に余計なお世話ですね。

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 The Cigavettes 「Ready To Leave」 MV(YouTube)
 http://www.youtube.com/watch?v=UtfNfx8DvxM

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20位

『45 STONES』 / 斉藤和義

 露骨だ。はっきり言って、悪趣味とすら感じるほどに、露骨だ。あからさまな「反原発」のトーンで塗り固められたこのアルバムで、斉藤和義はがなりたてるように《NO NUKES!!》と叫ぶ。それは決してスマートなやり方じゃないし、国家・電力会社=悪という図式は余りに危険でもある。だが、こんなに単純なことを、彼以外、誰もやらなかったのだ。《ウソばっかの大本営》なんて誰もが胸に抱いたわだかまりを、誰にでもわかるポップ・ミュージックにのせて告発した――その事実だけで、計り知れない価値がある。

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 斉藤和義 / ウサギとカメ 【MUSIC VIDEO Short.】
 http://www.youtube.com/watch?v=WxX1JK-NQzA

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 2011年。この年の音楽を語るのに、やはり日本を襲った未曾有の大震災を避けて通ることはできないでしょう。

 こと邦楽に関しては、直接的な拒否反応としての斉藤和義のアルバムを初め、やはりナイーヴな作品が多かったように思います。今回は選外としましたが、Base Ball Bearやサカナクションといった中堅どころの最新作にしても、まさに「風に煽られている」ように感じました。

 ただ、不思議なのは、3.11以前に発表、もしくは製作されたいくつかの楽曲が、震災後により強い説得力をもつようなったことです。salyu x salyuの"続きを"や、ceroの"大停電の夜に"などは、あの地震の前に書かれたことが信じられないほどに、「今」を映し出しています。それは結局、何も変わらなかったということかもしれません。「がんばろう、日本」なんて、吐き気がするほど下らないコピーを連呼してまで、薄っぺらな虚構を守ろうとするその薄っぺらさを、図らずもあの津波は浮き彫りにしました。だからこそ、それを克明に描いたOgre You Assholeの最新作はずば抜けて素晴らしかった。

 奇しくも、海の向こうの動きもこの島国にシンクロするかのようでした。Radioheadはこのタイミングで自然をテーマにした作品をドロップしたし、現実逃避の究極系のようなWashed Outのファースト・アルバムも、現状から目を背けるという行為自体の是非はあれど、今の日本の状況にフィットしていたと思います。

 ですが、何よりも誰よりもこの国の音楽に力をくれたのは、やはりBon Iverでしょう。彼のファルセットと色彩豊かなサウンドは、大袈裟ですが、まるで「赦し」のように響きました。放射能と政治家の呟く「冷温停止」なんて虚言に怯えながら、良くなる兆しを一向に見せないどころか、これからもっと悪くなっていく明日を前にして、何故、それでもまた歩き出さなければならないのか? 《あなたの愛する人はまだ生きている》――そう、理由なんてそれだけで、十分でしょう。

2012/1/21


『Bon Iver』
Bon Iver

1. perth
2. minnesota,wi
3. holocene
4. towers
5. michicant
6. hinnom,tx
7. wash.
8. calgary
9. lisbon,oh
10. beth/rest

2011/06/22 release





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