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ALBUM OF THE YEAR 2010
ALBUM OF THE YEAR 2010 ――CDが終わる時代に |
1位 『グッバイ、ガールフレンド』 / 踊ってばかりの国
死んでね 笑われると殺しそうだ ゆらゆら揺れる白昼夢の中で、《頭が外れるイメージ》を確かに見た。指一本でひと押しするだけで空中分解しそうな危ういバンドが、たまたまこの2010年という時代に、たまたまこのレコードを出したという、ただそれだけに過ぎない。だが、そのただそれだけのことを、私は「奇跡」と断言する。 - - - - - - - - - -
踊ってばかりの国 『バケツの中でも』(YouTube) 2位 『ファンファーレと熱狂』 / andymori
自分と世界とを隔てる絶望的な距離を、《人身事故》というワンタームで描き切った驚異の作品。社会風刺も恋も皮肉もすべて抱きかかえて衝動で突っ走るその切実さは、どこまでも青くて、耳を塞ぎたくなるほど痛々しい。"1984"に生まれた若者たちが、「今」に刻みつけたモニュメント。 - - - - - - - - - -
andymori「1984(ONLY SSTV EDITION)」(YouTube) 3位 『ACOLYITE』 / Delphic
何よりもまず、メロディだ。全てを強引に抑え込んでしまうほどのそのメロディの強さは何物にも代えられない。空間を切り裂くように感情的に鳴るギターも、更なる高揚を誘う曲展開も、最終的に「歌」に収束して、ダンス・トラックにあるまじき爆発力を生み出している。このキラッキラのメロディを前にすると、他の些細な不満点なんか全部どうでも良くなってしまうのだ。 - - - - - - - - - -
Delphic - Doubt(YouTube) 4位 『Halcyon Digest』 / Deerhunter
病んでいる。そして、病んでいるものは、美しい。ローファイな音像の中で、ヘロヘロのヴォーカルによって唄われる言葉たちを、「祈り」と呼ばずに何と呼ぼう。圧倒的に、そして絶望的に、哀しい。そして、哀しみとは、この世で最も美しいものなのかもしれない。 - - - - - - - - - -
Deerhunter - Helicopter (Official Video)(YouTube) 5位 『本日は晴天なり』 / サニーデイ・サービス
ただ良い曲が10曲あって、それを一番良い順番で並べた、ただそれだけのアルバム。だが、アルバムって、それが全てなのである。何の予定もない日曜の朝、陽光が差し込む部屋を、このシンプルで無防備な音が満たしてくれた。 - - - - - - - - - -
サニーデイ・サービス「ふたつのハート」PV(YouTube) 6位 『CYPRESS GIRLS』 / Base Ball Bear
ファンクにダブにフォークにディスコに、Base Ball Bearの音楽的ポテンシャルが炸裂したミニアルバム。ラスト2曲がまんまNUMBER GIRLとスーパーカーなのも、過去の自分へのオマージュのようで、いい。欲を言えば、相も変わらず青春期の自問自答を繰り返す歌詞に何らかの進展が欲しいところ。 - - - - - - - - - -
Base Ball Bear 本編 PRODUCT:2 kimino-me(YouTube) 7位 『手のなかの鳥』 / Predawn
暖かい。まるで、手で触れられるかのようなぬくもり。歌に演奏にミックスまで一人で手掛けるその「手作り感」が、楽曲にあたたかみを与えているのかもしれない。彼女が《Good night love》と囁けば、身体ではなく心が眠りに就ける。 - - - - - - - - - -
Predawn / Suddenly(YouTube) 8位 『THIS IS HAPPENING』 / LCD Soundsystem
人生に区切りを付け、家路を辿る一人の男のドキュメント。誰もがネガティヴに捉える「終わり」を、誰よりも踊れるサウンドでしかも平熱のまま鳴らすなんて、なんという離れ業だろう。全く同じメロディのコーラスが、オープニングの"DANCE YOURSELF CLEAN"とラスト・トラックの"HOME"で繰り返されるが、その響き方の違いを生の肯定とまで捉えるのは、流石に深読みが過ぎるか。 - - - - - - - - - -
LCD Soundsystem - Drunk Girls(YouTube) 9位 『WHERE IS THE COCONUTS? ...HA?』 / QUATTRO
「俺らセンスいいだろ?」とほくそ笑む、洋楽かぶれのお洒落バンドの3rdアルバム。そしてこれがほんとにセンスいいんだからタチが悪い。ああはいはい、おまえらカッコいいよ畜生。今年の夏のサウンドトラックでした。みんなでさけぼう、「ココナッツ!」 - - - - - - - - - -
QUATTRO "Time Time Time"(YouTube) 10位 『COSMONAUT』 / BUMP OF CHICKEN
かつて不特定多数の「君」に向けて唄っていたバンプが、明らかにある特定の「誰か」のために言葉を紡いでいる。だからこそ本作の楽曲は極度にパーソナルで、冷静に聴いていられないほど生々しい。大人になった少年が、《一人減った未来》に捧げた鎮魂歌。"イノセント"が蛇足っちゃあ蛇足だが、そんなことは気にならないくらいの完成度だ。最高傑作だろう。 - - - - - - - - - -
BUMP OF CHICKEN『R.I.P.』(YouTube) 11位 『TO THE LOVELESS』 / BOOM BOOM SATELLITES
今年、ここ日本で最も自覚的に「アルバム」という表現形態を突き詰めた傑作。正直、こういう音圧ばかり高くて輪郭がぼやけたサウンド・プロダクションは好みではないのだが、70分を超えるヴォリュームで一瞬たりとも緊張の糸を切らさない密度には感嘆するしかない。タイトルトラック・"TO THE LOVELESS"からの後半、屈指の名バラード・"STAY"でクライマックスに達する流れは言葉にならないほど美しい。 - - - - - - - - - -
back on my feet / BOOM BOOM SATELLITES(YouTube) 12位 『ABBOT KINNEY』 / LOVE PSYCHEDELICO
作を追うごとにスケールとシリアスさを増していたデリコが、ひっさしぶりにフラットさを取り戻した快作。オープニングのアコギの鳴りからしてもう兎に角心地良い。アタマっからケツまで、ひたすらにラフでクールなロックンロールなんて、最高じゃないか。 - - - - - - - - - -
Abbot Kinney/LOVE PSYCHEDELICO(YouTube) 13位 『KIMONOS』 / KIMONOS
レオ今井という曲者を得て向井秀徳が産み出したのは、これまでにないほどキャッチーなメロディだった。いや、元からあったその要素が、レオ今井の色気のある歌声によって引き出されたというだけかもしれない。既存のどんなジャンルにも収まらないこのサウンド・スケープに触れると、これこそが本当の意味での「JAPANESE POP」なのではないかという気さえしてくる。 - - - - - - - - - -
Kimonos - Almost Human(YouTube) 14位 『WEEKEND WARRIOR』 / 80kidz
よりエレクトロ色の濃くなったトラックの背後に、何故だか切なさと停滞を感じる。単純に踊ってアガれるダンス・チューンとしての強度は断然1stの方が高いが、メロディの裏に潜む灰色の空気感にどうしようもなく惹かれてしまうのだ。至高のベッドルーム・ミュージック。 - - - - - - - - - -
80KIDZ / WEEKEND WARRIOR - "SPOT CM"(YouTube) 15位 『go』 / jónsi
溢れんばかりの歓喜の渦に飲み込まれる。天にも昇るかのようなヨンシーの歌声には祝福が満ちている。ほんと、こんな音楽を産み出しているのが、私と同じ人間だとは全く思えない。それほどに荘厳で、神聖で、畏怖すら覚えてしまうが、それでもあくまでポップ・ミュージックと言えるバランスが絶妙。 - - - - - - - - - -
Jónsi - Go Do(YouTube) 16位 『PORT ENTROPY』 / トクマルシューゴ
良く出来た箱庭のようなアルバム。楽器/非楽器が様々な表情を見せ、自由気ままに踊る。ここまで純粋に「音楽」が楽しいと思わせてくれる作品は他にない。いつまでも、いつまでも留まっていたくなる、理想的な架空の王国。 - - - - - - - - - -
Shugo Tokumaru - Tracking Elevator(YouTube) 17位 『Parables of Fe-Fum』 / Turntable Films
若さと勢いだけで好きなことマイペースにやってます、的な感じが素敵な京都の4人組による佳作ミニアルバム。若手にありがちな内省的な要素は皆無で、風通しの良いサウンドを鳴らしているのが爽快。アメリカのカントリーを下地にしているにもかかわらず、音像の向こうに日本の風景が見えるのが、何故だか嬉しい。 - - - - - - - - - -
Turntable Films「2steps」(YouTube) 18位 『STAR BLOWS』 / The Birthday
収録曲のほとんどが7分、8分を裕に超える長尺にもかかわらず、不思議と長さを感じない。クラブ・ミュージックのブレイクがもたらす高揚もなければ、サイケデリックな陶酔もないのに、ただ淡々と続くぶっきらぼうなジャム・セッションをいつまでも聴いていたくなる。枯れた魅力、なんて言ったら失礼かもしれないが、年を喰ったからこそ出せる音なのだろう。 - - - - - - - - - -
The Birthday / DIGZERO(YouTube) 19位 『Just Another Mind』 / J.A.M
SOUL&"PIMP"SESSIONSから派生したピアノ・トリオの2nd。門外漢なので、これがJAZZとしてどの程度の作品なのかははっきりいって全くわからないが、ポップ・ミュージックとして十分成立する強度と説得力をもつアルバムだ。縦横無尽に駆け巡るピアノの旋律は、名ばかりのロックなんかよりよっぽど高揚をもたらしてくれる。"SANGYO-KAKUMEI"のリフレインとかヤバすぎ。「今日鳴りいいよ、ピアノ」、である。 - - - - - - - - - -
J.A.M/産業革命(YouTube) 20位 『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』 / くるり
1、2曲名曲があって、2、3曲まぁまぁな曲があって、後は別に大したことない、いつも通りのくるりのアルバム。でも、ふとした時にまた聴きたくなるのは何故なんだろう? "さよならアメリカ"のイントロが無性に恋しくなって、気付けば今日も再生ボタンを押している。 - - - - - - - - - -
くるり / 魔法のじゅうたん 【Music Clip】(YouTube) この2010年という年は、CDが近い将来マーケットから消える、ということを痛感した 1年でした。勿論媒体として完全になくなるわけではないでしょうが、少なくとも音楽のメディアとして主流でいられるのは、もって後5年というところでしょう。今や、CDよりも音質の良いダウンロード音源が存在する時代です。フィジカルCDの存在意義は、どんどん薄く小さくなっています。 そんな時代の流れもあってか、今年聴いたアルバムは、「全体で一つの作品」というよりも、単なる「曲集」としての色合いが強いものが多かったように感じられました。そして、そのようなアルバムは今後確実にダウンロード音源へと移行していくでしょう。だってアルバムとして出す意味、ないもの。 ですが、そんな状況にあっても、決して「アルバム」という作品はなくならない、と断言できます。むしろ、CDというフォーマットが崩れさることで、今までなんとなくアルバムという形をとっていた連中はそんな面倒くさいことをやめるでしょうし、元から発表形態に自覚的だったアーティストはよりその完成度を高めてくれるでしょう。つまり、全体としてアルバムとしての質が上がっていくのです。本年度も、とりあえずアルバムってカタチで出しました、みたいなものが多々あった一方で、良質な作品も数多く発表されています。中でもBOOM BOOM SATELLITESやBUMP OF CHICKEN、The Birthdayらの作品からは、明確に「アルバム」という作品を作り上げるという意志が感じられ、思わず嬉しくなってしまいました。 そして何より、踊ってばかりの国とandymoriの二者が素晴らしかった。この2010年という時代の不透明さ、生き辛さが見事に表現されています。しかもそれを作ったのがめちゃくちゃ若いバンドだっていうんだから、日本の未来は明るい。その他に挙げたものも、あくまで「アルバム」という単位で出されるべき良質なものでした。この精度がますます上がっていくかと思うと、何だか今からワクワクしてしまうのです。 2010/12/29 |
『グッバイ、ガールフレンド』
1. ハロー |