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サカナクションのプロモーション



サカナクションのプロモーション
――2009年サードアルバム戦争から見えてくるもの

 昨年、2009年は3rdアルバム戦争でした。チャットモンチー、RADWIMPS、DOES、Doping Panda、Base Ball Bearなどの2005~2006年にデビューした若手バンドたちが、立て続けにメジャー3rdアルバムをリリース。しかも、そのどれもが佳作揃いで、いちリスナーとしては非常に楽しませていただいた一年でした――が。

 売り上げが振るわない、振るわない。どの作品もハーフミリオンにすらかすりもしません。人気絶頂にあるRADWIMPSですら30万枚強。前作でブレイクしたチャットモンチーはやっと10万枚。その他にいたっては1万枚~3万枚あたりを彷徨っていて目も当てられません。ひと世代前のBUMP OF CHICKEN、ASIAN KUNG-FU GNERATION、レミオロメンらが60万枚をゆうに超えるセールスを記録したことを考えると、やはりどこか物足りない気がします。勿論、DOESやドーパンとかのマイナーバンド(失礼)をバンプやアジカンと同列に数えることはできませんが、少なくともRADWIMPSの『アルトコロニーの定理』は、発売が3年ほど前であればハーフミリオンくらい軽く達成していたことでしょう。

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 とまぁ、このように恐ろしいほどCDが売れない市場に音楽業界関係者が震撼している中、ちょっと面白い動きを見せているバンドがあります。同じくこの2009年に、メジャー3rd『シンシロ』をリリースした「サカナクション」というテクノ・エレクトロニカ系のダンスロックバンドです。なにが面白いかって、そのリリースやプロモーションの戦略がちょっと変わってるんです。


リリース年表
2007/05/09 1stアルバム『GO TO THE FUTURE』
2008/01/23 2ndアルバム『NIGHT FISHING』
2008/12/10 1stシングル『セントレイ』
2009/01/21 3rdアルバム『シンシロ』


 少なっ。

 見ていただいたらわかる通り、CDリリースの数が極端に少ない。だってまだシングル1枚ですよ? 前述したバンドなら、アルバム1枚につき少なくとも2~3枚はシングル切ってるのに。売る気ないんだろうかと思わず心配したくもなりますが、しかし。日付のほうをよくよく見ると、僅か2年足らずの間に3枚のアルバム発表していることがわかります。これは結構、すごいペースです。つまりこいつら、かなり精力的な活動をしていることになります。にもかかわらずCDリリースが少ないのは、アルバムを売るためのプロモーションを、シングルカットではなく別の方法で行っているからなのです。そしてそのために、彼らは文明の利器(死語?)を利用しまくっています。

 一つはYouTube

 真っ暗闇の中に浮かび上がったナイキのスニーカーがひたすらステップを踏み続ける――。3rdアルバム『シンシロ』のリードトラック、"ネイティブダンサー"のプロモーションビデオは、昨年1月にYouTubeで公開されるやいなや、数週間でなんと200,000回という再生回数を叩き出しました(現在は700,000回突破!)。なんでも、カンヌ国際広告祭でグランプリを獲ったスタッフの手によるものだそうで、呆れるほどシンプルなのに目が離せなくなる強烈なインパクトがあります。この映像に対し国内外から問い合わせが殺到したそうで、『シンシロ』はオリコン初登場8位を記録。まさしく「プロモーション」ビデオとしての役割を果たしたといえます。

 この他にもPVは勿論ライヴ映像なども積極的に公開しています。著作権だなんだと吠えて映像を消そうと躍起になるよか、よっぽど賢い選択でしょう。今現在の状況では、シングル一枚切るよりも動画一本ネットに上げるほうが遥かに効果的なのです。

 もう一つは、iTunes Store

 最近はもうデジタルリリースなんてあったり前になりましたが、彼らもこれを大いに活用して配信限定作品をリリースしています。しかもこれは、某バンドよろしく「CDシングル出しても売れないからダウンロード限定にしちゃうか、在庫抱えずに済むし」という後ろ向きなものではありません。新人バンドにはCDパッケージ化が難しいライヴ音源やリミックス音源をiTunes Store限定でリリースしているのです。「無名のニューカマーのライヴアルバム」(\3,000)ではちょっと食指が動かないですが、800円のダウンロードなら買ってみようかなという人も少なくないでしょう。

 このデジタルリリース攻勢、既存コンテンツを新しい形で提供することによって利益を上げる典型例ですが、実はそれ以上に既存コンテンツそのものを――つまりアルバムを宣伝することにも繋がっています。実際、2008年のツアーを音源化した『NIGHT FISHING IS GOOD TOUR 2008 in SAPPORO』は、当時圧倒的な人気を誇ったCOLDPLAYの『VIVA LA VIDA』を抜いてiTunesロック部門ランキング第1位を獲得し、サカナクションの名を大いに知らしめることとなりました。先ほどのYouTubeはアルバム発売前のプロモーションでしたが、こちらの配信限定リリースにはアルバム発売後の販促活動という側面があり、アルバムの息の長いセールスに一役買っているのです。

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 ここまでサカナクションの動きを追ってみてわかってくるのは、旧来の「シングル数枚→アルバム」という業界の王道パターンがもはや全く通用しなくなっているということです。だって、今やオリコンシングルチャートTop100の下位層は売り上げ1,000枚を切る時代なんですよ? 事実、90年代を引きずって、CMやドラマ、映画主題歌などのタイアップ獲得に奔走した冒頭のバンドたちは、そんなタイアップ付きシングルを多数リリースしながらパッとしないアルバムセールスに甘んじています。

 では、「じゃあシングル出すのやめよーぜ」となればいいのかといえば勿論違います。今回紹介したサカナクションも、来る1月13日に今後の彼らを決定付けるであろう勝負のシングル、『アルクアラウンド』をリリースしますし。そしてコレ、多分売れます。その次に控えているであろう4thアルバムは初動で前作の売り上げを抜くことでしょう。……いや、言いすぎか、「発売2週で」にしとこう(苦笑)。ともあれ、そのように彼らのシングルが着実なプロモーション効果を生む(であろうと思われる)のは、デジタルを最大限利用して得た幅広い支持という基盤があってこそのものなのです。

 要するに、必要なのは「柔軟さ」だということ。着うたや配信がシェアを伸ばし続けている現状にうま~く適応し、使えるもんを自分のためにうま~く使う奴らが生き残っていくことでしょう。そして、サカナクションは生き残ります。何故かといえば……。


バンド名は「魚」と「アクション」の単語を組み合わせた造語。「ミュージックシーンの変化を恐れず魚の動きのように軽快に素早くアクションしていく」という意味が込められている。(Wikipediaより)


 ですもの。そりゃあ生き残るわ。今後もどんな面白いことをしてくれるのか、作品そのものも含め期待しておきます。まず手始めに、第二回CDショップ大賞を『シンシロ』が獲ってくれると面白いんだけどなぁ……。念でも送っておくか。

2010/01/11


『アルクアラウンド』
サカナクション

1.アルクアラウンド
2.スプーンと汗
3.ネイティブダンサー Rei Harakami remix
4."FISH ALIVE chapter2" 1 sequence by 3 songs - SAKANAQUARIUM 2009 @ SAPPORO

2010/01/13 release

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サカナクション / ネイティブダンサー(YouTube)
http://www.youtube.com/watch?v=IiqfKF9BlcI





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