東洋医学では、正気(良い気)が不足し、邪気(悪い気)が勝ると発病すると考えられています。邪気とは風・寒・湿・暑・燥・火の6つの外的な邪気と喜・怒・憂・思・悲・恐・驚の7つの内的な邪気、その他飲食の不摂生・過労などをさし、それが五臓六腑の働きのバランスを崩し、病を引き起こします。
 例えば、くよくよしすぎて胃が痛くなったり、寒い日や湿気の多い日に痛みが強くなったりするのもこのためです。

 人間の体には「経絡」という12本の気の流れるルートがあり、それぞれ臓腑を支配しています。それを線路にたとえるならば、「つぼ」はその所々にある駅といえます。鍼灸治療は個々の体に必要な「つぼ」を刺激することにより、その「経絡」が支配する臓腑に力を与えます。これにより人間が本来もっている自然治癒力を高めることができます。 
 このように邪気に犯されて不調を訴たえる体に正気を補い、元のバランスのよい状態に調整していくのが、鍼灸治療です。具体的には下記のような効果があります。

血液の循環をよくする

坐骨神経痛の患者では、痛んでいるほうの足の血液量を、光電容積脈波計という測定器で計測すると、正常の足より明かに血液量が減少しているがわかります。そして同時に、皮膚や筋肉の温度も低くなっていることが観察されます。

そこで、この患者に鍼灸の治療を行なうと、治療後約10〜20分で痛む側の足の血液量が増加し、それと同時に皮膚の温度や筋肉の温度の低下も改善されるという報告があります。


これは体性−自律反射という作用に起こります。鍼をすると筋肉を支配している神経に刺激が伝わり、反射的に血管が拡張し施鍼部より遠隔部の血液循環がよくなります。局所の循環がよくなれば、増量した血流によってその局所への酸素や栄養素などが補給され、局所から老廃物も排除され、局所の病態を改善することができます。

血液循環は薬でも改善することができますがこの場合全身的な作用になることが多く、局所のみを改善することは困難です。ある標的部位の血流だけを改善したいときには、鍼灸治療が有効です。


内臓の機能を調節する

胃潰瘍および十二指腸潰瘍の患者の胃の中にゴム球を挿入し、胃の運動を状態を記録しながら鍼灸を行なうと、ツボによっては胃の運動が増し、また別のツボでは逆に胃の運動が抑えられるという報告があります。

つまり鍼灸の効果は、単に血液の循環をよくして痛みを抑えるだけでなく、内臓の機能を調整するという作用もあるのです。この作用の原理は、自律神経の反射作用であることがほぼ解明されています


痛みを抑える作用がある

鍼灸の鎮痛効果に関する研究は多数あります。その中で、鍼を打つことによって痛みが止まる、軽くなるといった鎮痛効果については、近年脳内モルヒネ様物質の発見によってかなりのことが分かってきました。鎮痛効果は、ツボに鍼を打つことによりその刺激が脳や脊髄といった中枢経路を経て、エンドルフィン・エンケファリン等の鎮痛物質を分泌させ、それらによって痛みが遮断されるためでないかと説明されているのです。

エンドルフィン・エンケファリンといった脳内麻薬様物質は、脳内に鎮痛薬のモルヒネのレセプター(特定の物質だけを選択的に受け入れる受容体)が存在することから、モルヒネに似た科学構造を持つ物質があるのではないかと考えられ、発見されました。いってみれば、人間が自分自身で生産している鎮痛剤なのです。


免疫力を高める作用がある

灸については、身体の免疫系を活性化する効果があることが知られています。これには熱刺激によって細胞から遊離した化学物質が、リンパ球の免疫反応を促進させる物質を分泌させ、これがリンパ管を経て全身のリンパ組織に及ぶためという説、艾(もぐさ)から有効成分が皮膚に浸透して免疫担当細胞に作用するためとする説などがあります。また、灸による刺激が血中のインターフェロンの産出能力を高めるとの研究報告もあります。


その他の作用

その他には、鍼刺激によって交感神経の作用が抑制、副交感神経の作用が亢進すること、抗アレルギー作用、抗炎症作用を促す生体防御反応が現れることなどが報告されています。

鍼灸のメカニズムについても、まだ分かっていないことは多いのですが、化学的に分析してみると、鍼灸は神経系・内分泌系・免疫系にわたる複雑で繊細な反応を引きだして、治療に大いに貢献しています。今後も様々な研究によって鍼灸の効果が科学的に立証されていくことでしょう。



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