てのひらの孤独
―――僕は久しぶりにその指輪を目にした。 ヒューゴ君が炎の英雄になり、今僕が使っているこの部屋に移ってもらうことになった。 新しい僕の部屋は、船の方にある銭湯の隣の一室を使わせてもらう。 ヒューゴ君は、このままでいいよ、と気を使ってくれたけどそういうわけにもいかない。古くて修繕が必要な所だらけだけど、リーダーらしく一番まともな部屋にいてもらわなきゃ。 正直言うと僕もちょっとこの部屋は広すぎて、夜眠る時は落ち着かない。だからこの部屋替えには大賛成だった。 城からお墓を通らないと部屋に行けない、ということ以外は・・・。 部屋の中にあった自分の荷物を片付ける。無名諸国から出る時にほとんど処分して路銀に換えたから、ここに来たときの荷物は少なかった。それから今になってもそう増えていない。 執務机の引き出しを開けて中の紙束を取り出す。忘れ物は無いかと奥のほうへ手を入れたら、コロンと指輪が出てきた。 母さんの指輪。 父に見せたところで、母を悼む言葉すらなかったそれを、厄介払い同様にこの城へ来たときに、そのまましまい込んでしまっていた。それから忙しくなり、指輪のことを思い出す日も少なくなっていた。 久しぶりに目にした指輪。 昔、父から母へ贈られたのだというこの指輪の意味を今、僕は考えている。 部屋の移動は身軽だったおかげですぐに終わった。 けれど船室の部屋からもう出なかった。仕事もあったし、少しだけひとりになりたかった。 日誌を書く手が止まる。上着のポケットから指輪をつまみ出し、じっと見た。 これは母が生前、唯一身に付けていた装飾品だったと思う。 ノックする音が聞こえて、慌てて指輪をポケットに戻した。扉を開けるとヒューゴ君とジョー軍曹が立っている。 「トーマスさんの新しい部屋って・・・・・ここ?」入り口から中を見渡して驚いているヒューゴ君に、ジョー軍曹は苦笑した。 中へ招いてお茶を入れるとヒューゴ君はバツが悪そうに謝った。 「謝ることなんてないよ。僕、本当はこれぐらいの広さのほうが落ち着くんだ。逆にこっちに替われて良かったよ。」 「ホント?」 「うん。お風呂も隣だから、いつでも入れるし!」 「そっかぁ。」 良かった、とヒューゴ君は笑顔を見せたけれど、それは一瞬で困った顔になった。 「実はオレ、あの部屋が広くてどうも落ち着かなくてさあ・・・。」 「あはは、僕と同じこと言ってる。」 「カラヤではテント生活だからな。」 「そうなんだ。家族みんな一緒で寝てたんだね。」 「悪さをしたときは外に放り出されて一人で寝ることもあったよな。」 「もう、軍曹!」 ヒューゴ君は、そんなの滅多になかったよ!と照れながら抗議した。 「じゃあ、ルシアさんたちと一緒に使えばいいんじゃない?」 「え、いいの?」 「そのほうが助かるよ。実は部屋が足りなくて困ってるんだ。」 「ジョー軍曹も一緒に来てよ!」 「構わないが、枕にするなよ。」 ジョー軍曹の自慢の羽に抱きつくと、どうやら気持ちよく寝付けるらしい。 ヒューゴ君たちとしばらく話し込んだ後、入れ違いにパーシヴァルさんがやって来た。 手に包みを持っている。 「お昼食べましたか?」 「いいえ、まだです。」 そういえば朝から何も食べていなかった。時間はお昼をとうに過ぎている。 「サンドウィッチで良ければ一緒に食べませんか。」 この笑顔にはどんな女性もイチコロなんだろうな、とぼんやり考えながらパーシヴァルさんを中へ招き入れる。 食欲はあんまりなかったけれど、折角だから好意に甘えることにした。 ミルクティーの甘い香りが部屋の中を漂う。これからこの部屋の壁も、天井も、床も・・・毎日この香りを吸い込むだろう。 「荷物の整理は終わったんですか?」 「はい、そんなに多くはありませんでしたから。」 「もう少し早く来られれば良かった。」 「いえ、パーシヴァルさんもお忙しいでしょうから、気にしないで下さい。」 実は手伝っていただくほど、荷物もないんですよと、軽く笑いながらも恥ずかしい気持ちになる。 「残念です。」 パーシヴァルさんは苦笑していた。それから部屋を見渡している。 「素敵な部屋ですね。」 「そうですか?」 何の変哲もないただの船室ですよ、と言うと 「あなたがいれば、どこだって素敵な空間になりますから。何の変哲も無い、ただの船室でも。」 優しく微笑んでくれる、その顔に心臓が早鐘を打ち始める。この人の瞳を見てはいけない、と自分に言い聞かせる。 「それにこれくらいの広さの方が・・・落ち着いてあなたを口説けます。」 紅茶を飲んでいなくて良かった。飲んでいたら確実にパーシヴァルさんに吹き掛けている。 っていうか・・・・何を言ってるんですか、と心の中で突っ込む。 部屋の広さというかむしろ狭さなんだけど、それが落ち着くというのはパーシヴァルさんも同じなんだと、思ったけど。 「・・・からかわないでください。」 真っ直ぐに、優しさに満ちたその視線にさらされて、身の置き所が無いような感覚に襲われる。真っ直ぐに見つめ返すことも出来ずに。 「心外ですね。私はあなたに対してだけはいつでも真剣ですよ。」 僕は熱くなった顔を、手で仰いだ。 パーシヴァルさんは僕と2人になるといつもこの調子だ。僕のことを好きだと言い、さっきみたいな言葉で僕を悩ませる。 初めは冗談かと思っていたら、何度も本気だと言われてなおさら困った。 ・・・丁重にお断りしたんだけど。 どう考えても、おかしい。全然釣り合わない。あの誉れ高き六騎士のひとりで、馬術にも長けていて、頭は良いし、大人だし・・・ おまけにこのルックス。嫌味のない気さくな人柄は、みんなにすごく人気がある。 この人に欠点はあるのだろうか。あったとしても、きっと長所に変えてみせるに違いない。そう思わせるほど魅力のある人だ。 ―――とにかくその時思ったまま、好きとかいう以前に自分とあまりにも違いすぎるということを説明した。 「フラれているのに、褒められているんですか俺・・・・?」 不思議な気分ですねと困った顔をしながら頭を掻いている姿は、いつものパーシヴァルさんと違って見えた。 なんだか普通のお兄さんみたいで、余計に親しみを覚えた。 けれどその時、僕はパーシヴァルさんのことを「嫌い」だとは言えなかった。 彼が抱いてくれた想いを頑なに拒みながらも、そのままにしている。 ずるい自分を傍で見ているもうひとりの自分がいた。 そのずるさに、自分を値踏みするように見ていた父の視線を重ねる。 そこで僕の思いは指輪のことに戻る。 円を描く指輪のように、僕の思いはぐるぐると同じ軌道上を回り続ける。 「城主殿、どこか具合でも悪いのですか?」 パーシヴァルさんの表情が曇った。僕の事を心配してくれている。 そういえばメイミさん特製のサンドイッチなのに、二切れほど手をつけただけだ。 「いえ、大丈夫です。ご心配をおかけしてすみません。」 慌てて笑顔で取り繕ったけれど、パーシヴァルさんの目は誤魔化せなかった。 「どうやらお疲れのご様子ですね。気が付かず申し訳ありません。」 丁寧に頭を下げて、空いた食器を片付けようとした。 「ち、違うんです。ちょっと色々考え事をしていただけで。」 僕の方こそ失礼しました、とあせって立ち上がった時、ポケットから指輪が飛び出し、机に当たって落ちた。 そのまま床を転がって、パーシヴァルさんの足に当たって止まった。 さっき慌ててポケットに入れたとき、途中で引っかかっていたのだろうか。 「あ・・・・・。」 僕はどんな顔をしていただろうか。パーシヴァルさんはこちらを見て不可解な目をした。 足元の指輪を拾って差し出してくれる。 「これは・・・トーマス殿のものですか。」 「は、はい。母の、形見です。」 何となく手を出せずにいると、パーシヴァルさんが僕の手に指輪を握らせてくれた。 「それは大切なものですね。」 無くしては大変ですと言って、温かい手は離れた。 「・・・わかりません。」 「トーマス殿?」 「分からないんです。」 指輪を握り締めたまま。うつむく。パーシヴァルさんは僕の言葉の真意が分からないのだろう、黙っていた。 「今日、この指輪を見つけるまでずっと、忘れていました。」 「・・・・・。」 「薄情だと思いませんか?」 「いいえ、ちっとも。」 半ば自嘲的に投げかけた問いに、パーシヴァルさんは優しく、しかしきっぱりと否定してくれた。 「あなたはちっとも薄情ではありません。」 座りませんかと、僕の肩をそっと抱き、立ったまま固まっていた体を椅子へと導いてくれた。 向かい合わせに椅子を置き、パーシヴァルさんが座る。その端正な顔には深刻な表情が刻まれていて、今の僕の状態はよっぽど変なのだろうと推測できた。 さっきヒューゴ君達と話をしていた時は気分が落ち着いていたのに。 ―――僕は混乱していた。 どうして急に、しかもパーシヴァルさんにこんな話をしているのだろう。 パーシヴァルさんを見ると、気遣わしげな視線が返ってきた。 不意に、涙がポトリと落ちた。 どうしたら、いいんだろう・・・この状況。 まるで心がバランスを崩したような不安定な感覚に、眩暈が起きる。 パーシヴァルさんは黙ったままの僕に、いたわる様な眼差しを向けている。なのに僕は目を合わせることが出来ない。 「分からないんです。」 ようやく口を開いたが、さっきと同じ事しか言えなかった。 「・・・・手を、握ってもよろしいですか?」 少しためらったが、頷いた。固く握りしめていた手を指輪ごと包み込まれる。 パーシヴァルさんは何も言わずにただ手を握ってくれた。大きくてやんわりと温かいその手から、僅かに鼓動が伝わってくる。 とくん、とくん、と規則正しい脈を感じていると少しずつ落ち着きを取り戻してくる。 僕は、ぽつりぽつりと話し始めた。 父から母へ贈られたというこの指輪の事。 父のことをほとんど話さなかった母が、ただ一度だけ父は優しい人だと言っていたこと。 しかし一度も会いに来てくれない、連絡すらして来なかった父が自分の事を受け入れることなどないと思っていたこと。 それでも母のことは信じたかったから、父に会いに来たこと。 それから、母の言葉を信じるならば・・・歳月は人を変えてしまうのだということ。 指輪の意味。 末期のときまで父を信じていた母。父に侮辱された母が悲しかった。 それを思い出してしまったからなのだろう、手の平に乗せた指輪がやけに孤独に思えて、僕の不安定な気持ちを呼び覚ましていた。 「僕は、父に似てきたのかもしれません。」 自分が傷つきたくないばかりに、人を傷つけている。 話すだけ話すとうつむいたまま僕はそれから何も言えなくなった。 パーシヴァルさんの顔を見るのが恐くて、上を向けなかった。 いきなりこんな変な話を聞かされて、みっともなく取り乱して、きっと嫌な思いをしているだろう。 握られた手が離れる。 そのままパーシヴァルさんは出て行ってしまうだろう。 これで終わりだ。 「トーマス殿。」 離れた手は、もう一度ぼくの手を指輪ごと強く握りこんだ。 「歳月は、人を変えてしまうと言いましたね。」 「変わらない人など、いませんよ。」 首を傾げるようにして優しく微笑んでくれる。その柔らかな笑顔に僕の心は揺らいだ。 「人は変わるんです。残酷なようですがあなたがおっしゃったとおり。けれどどう変わるかは自分で選べるじゃないですか。あなた次第でいくらでも変えることが出来る。それに人は、忘れないと生きてはいけません。それを薄情だと言うのなら、私も同罪です。もしかしたらあなたよりも罪が深い。」 戦場で失っていった部下や仲間のことを言っているのだろうか。 パーシヴァルさんの顔を見る。この優しい笑顔の下には、どれだけの悲しみを背負っているのだろうか。 「悔しいことに私にはあなたの過去をどうすることも、その苦しみを取り去ることもできない。この先、あなた自身がどうにかするしかない。おこがましいようですが、その時その場に、私も一緒にいたい。同じものを見て、一緒に感じたい。ゆっくり、疲れたら休みながら、人生は長いですから。」 ボーっとしている僕に、子守唄を聴かせてくれているかのように、控えめで落ち着いた声が流れてくる。 気が付けば僕の手はパーシヴァルさんの胸の辺りに引き寄せられている。そこには確かな鼓動が。無機質な、冷たい金属とは違った血の通った人の体がある。 でもまだ、そこに飛び込むにはためらいが残っている。 パーシヴァルさんは僕の口が開くのを辛抱強く待ってくれている。 孤独な時も、そうじゃないときもある。 人の心は混沌としている。そこに、少しだけ光るものが見えた気がした。 ただ少し、まだこうしていたい。迷っているのは苦しいけれど、そこから抜け出したらもっと辛いものが待っているような気がして、踏み切れないでいる。 「ありがとうございます。」 僕のこんな話を聞いてくれて、優しくしてくれて、それでも嫌わないでいてくれて。 パーシヴァルさんに心を込めてお礼を言った。 パーシヴァルさんは変わらない笑顔で、そっと握っていた僕の手を、僕の膝の上に戻してくれた。 その夜僕は、眠れなかった。 指輪の事で気持ちが不安定になっていたと思っていたけれど、気がついたからだ。今日のことで何かが吹っ切れたのかもしれない。 そうだ。好きなんだ。 ・・・・パーシヴァルさんのことが。 それを認めてしまうのが怖かった。 飛び込んだその胸が、いつか離れてゆくのではないだろうかと。それを母と重ねていたのではないか。 そんな理由で、あの人の気持ちをないがしろにしていた。それだけのことなのに、指輪のことまで思い悩んで、頭がいっぱいになって。 人を信頼できなくて、自分の事ばかり考えていて。そんな自分が嫌になる。 「あなたの答えが出るまで、いつまでも待っています。でもただ待っていることはしませんけどね。」 いつかのパーシヴァルさんの言葉を思い出す。 僕はどうすればいいだろう。枕元に置いた指輪を見つめる。 虫の声を聞きながら、夜を明かした。 「おはようございます。」 城の廊下でバッタリ会う。 パーシヴァルさんは爽やかな朝にぴったりの笑顔で挨拶をしてくれた。 「おはようございます。」 僕は昨日のみっともない自分の状態を思い出したのと、パーシヴァルさんに対する気持ちに気づいたことで、まともに目を見て挨拶できなかった。だんだんと顔が火照るのが自分でも分かる。 「ご気分はいかが・・・・・、あまりよろしくないようですね。」 僕の顔を覗き込んで、心配そうな声を出す。目の下にくまが出ていますよ、とそっと指を目元に近づける。 「き、昨日眠れなくて・・・・。」 頭を掻きながら照れ笑いした。 「そうですか・・・。よろしければ午後からでも遠乗りに出かけませんか?気分転換になるかもしれませんし。」 「あの・・パーシヴァルさん。」 「はい、なんでしょう。」 吸い込まれてしまいそうな魅力的な目元。僕は意を決して手を握った。 「・・・・お話があります。今、時間は大丈夫ですか?」 「ええ、あなたの所へ伺うところでしたから。場所を変えましょうか?」 目が合う。 僕の部屋で向かい合って座った。 そこで、僕は自分の気持ちを素直に話した。 パーシヴァルさんのことが、好きだということ。昨日、指輪の話を聞いてくもらって、それに気が付いたということ。 でも、離れてしまうのが怖くて、信じることが怖くて、自分が信じられなくて、正直どうしたらいいか戸惑っているということ。 なかなか言えなくて、とても時間がかかるし、しどろもどろになりながらだったけど、パーシヴァルさんは辛抱強く聞いてくれた。僕のこんな幼稚な戸惑いに、笑ったりふざけたりしないで真剣に。それがとても有難くて、泣きそうになる。 パーシヴァルさんは少しの間目をつぶった。 「まずあなたが、私のことを好きになってくださったことが、嬉しくて。」 ちょっと泣きそうになりました、と照れて笑った。 僕はきっとこの笑顔を忘れない。なんてきれいな表情をする人だろう。 「それから、今この瞬間、私にも怖いものが出来ました。」 「怖いもの・・・ですか?」 「ええ、あなたの心が変わってしまいはしないか、怖くて仕方が無い。いつも、いつでも心配になるでしょう。」 「そ、そんなこと・・・!」 「ですから、私自身のためにも、私はあなたに約束をします。」 「約束・・・ですか?」 「はい。」 「これから何度でも、毎日毎日あなたに伝えましょう、愛していますと。戦や遠征で私がいない時は手紙を書きます。ずっと何度でも、あなたの心が私の想いで満たされるまで。あなたの心が私で一杯になってからもずっと。」 頬が赤くなるのが自分でも分かる。 「そういう素敵な反応が返ってくると、私の不安も少しは和らぐと思いますね。」 「僕にも、何か出来ますか?」 「無理しないで、少しずつ考えていきましょう。」 でも、と言う僕に優しく、ね、と笑いかける。 僕は何を言えばいいのか分からなくて、ぬるくなった紅茶を飲んだ。なんだか頭がふわふわして、夢を見ているみたいだ。 カップを置いて、顔を上げると前にはやっぱりパーシヴァルさん。 「あなたはどんな大人になるのでしょうか。」 楽しみですね、とパーシヴァルさんは目を細めて言った。 ―――そんな変化もあるんだ。 それを楽しみにすることも。 この手が、もう少し大きくなる頃には、もっと何かを守れるようになるのだろうか。じっと手を見つめていると、大きな手が重ねられる。 愛していますと、心地良い声が耳に入って僕はくらりとした。 もしかしたら、この人からもう離れられないかもしれない。 だとしたら、心配なんてするだけ無駄なのかな、と考えていたらパーシヴァルさんの顔がすぐ傍に来ていた。 びっくりして目をつぶる。まさか・・・と身構えていると耳元で小さな笑い声がした。 目を開けると、パーシヴァルさんが笑いをかみ殺している。 「そんなに身構えなくても、取って食いはしませんから。」 「す、すみません!」 恥ずかしくて顔から湯気が出そうだ。変に体がこわばる。 「私といると緊張しますか?」 「い、いえそんなことは・・・。」 「でも、さっきから肩に力が入っていますよ。」 ぽん、と叩かれて気がついたけど、確かに肩がガチガチだった。パーシヴァルさんを好きだと意識しだした時から、もしかしてこうだったのかと思うとなんだか申し訳なくなる。 「すみません。」 「まず私といるときはリラックスしていただくことろから始めないといけませんね。」 こうすると効果覿面ですよ、と素早く僕の頬にキスをした。 「パ、パーシヴァルさん!!」 「次はどこにしましょうか?」 「な・・・・!」 突然の行動に僕は、からかうのはやめてください、と言った。きっとこれ以上も無いほど真っ赤な顔で。 「いつもの城主殿ですね。」 にこにこ笑うパーシヴァルさん。 「う・・・・。」 あ、僕の緊張を解してくれたのか・・・・それにしてもちょっとひどいんじゃないかな。と考えても言葉が出なかった。 「少し荒療治でした?」 私としても役得でしたね、と続ける。 怒っていたはずの僕は、いつの間にか笑っていた。 これからだって、悩むことはあるだろうけれど、差し出した手は、もうそのままじゃない。 手を取ってくれる人がいる。 この手が再び何かを失ったとしても、きっと大丈夫。 また掴むことが出来るはず。 枕元に置いたままの母の形見は、窓から差し込む光を受けて、きらきらと輝いていた。 |
終
サイトを再開設するときに途中まで書いていて投げうっていたものに書き足したものです。
なので途中から不自然に方向性が変わってたり、長くて嫌になってきたんだろうな、という部分がありありと見えてきてすみません(遠い目)
でもなんとか終わった・・・!
一応トーマスは思春期だし、色々と思い悩むこともあるだろう、と思って書き始めたんだったっけ。
最後まで読んで下さった方に感謝v(09.10.30)