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 少年は、夢を見る。




++ 現の夢 ++




 自身の手で起こした不幸な事故。
 惨事を目の当たりにした少年は、罪に恐れおののいた。

「デスノート……本物だ」

 怖い…怖い怖い怖い。

 手にしてしまった力が。
 自分のものではない力が。

 頭の中で、ぐるぐると沸き起こるこの感情の、名は何か。
 大きな何かが己の中で渦巻いて行くことを恐れ、少年は1人、眠りに就く。

 夜の闇。
 光の支配から逃れるひと時に。
 肉体と精神の境で…少年は夢を見る。

『…夜神月?』
「……ん」
『―――聞いてるか?』
「……なに?」
『僕の声だよ。聞いてるか?』
「聞こえてる。…何?」
『見てみろ。お前の周りを』
「…周り?」
『お前の、世界を構成している者たちを』
「僕と、家族と、友達と、教師と、…見も知らない他人」
『その世界は、お前にどう見えている?』
「どう、って…」
『冷静に見てみろ。まともな、あるべき生き方をしている人間がどれほどいる? どれほどお前は知っている?』
「…、それは」
『”しょうがない”か?』
「そうじゃないか。しょうがない。たくさんの人間がいて、世界はできてる」
『それじゃ、理想は何処にあるんだ?』
「何が理想だと言うんだ?」
『悪人のいない、善人のみの世界。悪がすべからく正義の前に跪き、道徳と倫理がきちんとまかり通る世界』
「……何、それ。」

 馬鹿らしい、と少年は呟いた。

「そんな理想掲げても、実際に世界が変わるわけじゃない」
『変わるんだよ。月。いや、変えられるんだ。お前なら』
「…僕なら?」
『善人と悪人を選別することが、お前にならできる』
「…何言ってるんだ。できるわけがない。そもそも、判断の基準なんて…」
『お前だよ』
「え?」
『お前が基準なのさ、夜神月。お前こそが、基盤であり、基準であり、全てだ』
「全て…」
『お前は人も羨む物を全て兼ね備えている。容姿も、地位も、頭脳も、全てを』

 それなら、と影は囁く。

『お前が全てだ。お前が選べば良い。お前が望むなら許されるとも。何故なら―――お前が神なのだから』
「…僕、が」
『あぁそうだ。お前が神だ。お前には、その力がある…そうだろう?』

 少年がふと重みを感じて片手を見やる。
 気づけばその手には黒のノートが握られていた。

「デス…ノート…」
『手に取るがいい。ノートを開け。お前には、その資格も、力も、権利もある』
「資格…僕が、世界を変える…?」
『そうさ。お前の作る新世界を、僕は待ち望む』
「お前が…待っているのか?」
『あぁ。僕はいるよ。お前の側に。お前の内に。お前の…隣に』

 冷たい感触がふいに、少年の唇を掠めて消える。

『誰よりも近い処に、僕はいる』
「お前は…誰だ?」
『僕はお前。お前は僕。そしてお前が夜神月なら…僕もまた、夜神月だ』
「…お前の、名前は?」
『僕の名は―――いずれ、お前も知るところになるだろう』

 そしていずれ、お前は僕の名に染まり果て逝くことになる―――

「……朝…?」

 少年は朝日に目を眇めながら起き上がる。
 昨夜眠りに就く前の心の重みは、今は何処かへと消え失せていた。

「神サマ…か」

 悪くない…

 覚醒した少年はうっすら笑い、テレビとパソコンの待つ机へと近づき、そして…

 一度は放り出した黒のノートを見つけると、理想に輝いた表情でそれを手にしたのだった。

 大丈夫。
 僕ならできるさ。
 僕の理想の世界を作れば、その中心にはきっと。
 きっと、お前がいるんだろう……なぁ?

 ―――キラ……

 それは、異形の死神が彼のもとを訪れる、4日前の出来事…








>>>お約束話キラ月。
キラは月がいなくては存在できないけれど、
月はキラなしでも大丈夫ですよね…。
まだ試行錯誤しているのが見え隠れ。

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