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僕の欲しいものは善き者のみの世界。 僕が認め、僕が選び、僕が創りあげる理想郷。 一番に排除すべき存在を、僕はとうに知っている。 ++ イデア絶対主義者 ++ ねちゃ、と粘着質の音を立てて、男の指先が髪の一筋を弄る。 日に透かせば薄茶色の日本人離れしたライトの髪を弄るのが、この男は密やかに気に入っているらしい。 普段であればさらさらと流れ落ちるそれは、今はべったりと男の手へと貼り付いている。 「ン、むぅ・・・」 はぁ、と合間を縫って息を吐く。 要領を呑み込むのが早いのが青年のとりえであるが、腹立たしいことに男の教え方が上手いのも事実だった。 「・・・熱中してますね?」 「うるさい・・・」 かすかな吐息に乗せた声には、昂ぶり始めた青年の熱が篭もり始めている。 「竜崎こそ・・・余裕、ないみたいじゃないか」 ちゅっ、と先端をきつく吸い上げると、髪に絡むエルの手に力が入るのが感じられた。普段はさも低俗な欲望など知ったことではないという顔をしているにも関わらず、そして今も無表情を崩さないでいながらも、ライトの手中にある雄は力強く脈打っている。 「ん、んむ・・・・・・っは・」 舌先で輪郭をなぞり上げた。溢れ出る先走りを幹に塗りこめるように舌を這わせていくと、ふと忘れかけた甘ったるい風味が口内に広がる。思わずライトは眉をひそめた。 「・・・・・・甘」 「足しましょうか」 「死ね」 エルの戯言を辛辣に返すと、ライトの白い頬に生温い何かが触れる。先ほど、自身の性器にあろうことか生クリームを塗りたくった馬鹿な男がその手を伸ばしてきたのだった。そのまま両頬を挟まれ、顔を上向かせられる。男の雄から口を離し、抵抗せず素直に顔を上げてやると光の点らない黒目が2つ、近づいてきた。 「・・・・んふ・・っ」 合わさった唇から舌を差し込まれ、口内の唾液ごと全部持って行かれそうなキスをされる。歯列をなぞられ、上あごのラインに沿って生温い肉が這いずり回ると脊髄の奥から電流が走る錯覚に陥った。まだ一度も触れられていない身体が無意識の内にシーツの上で小さく踊る。上はカッターシャツだけを着込み、下は何も身に付けていないため、冷たい布地の感触にすらライトは反応を返した。 「甘いですね」 「僕が・・・って言いたいわけ?」 お約束のセリフを口にしそうな男に、ライトは薄く笑うと彼の右手を抱え上げる。クリームにべたついた指先を1本1本、男に見せつけるように舐め上げてやった。わざとらしい上目遣いで、男の好む鋭利な笑みをその唇に浮かべる。 「・・・お前こそ。甘ったるくて死にそう」 ベッドサイドの小さなテーブルには、食べかけのショートケーキの載った皿とそしてコーヒーが2つ。 何度身体を重ねたかなど、すでに男も青年も覚えてはいない。 薄氷の上で踊るような、緊張感ばかりで構成された2人の時間。言語遊びと推理ゲームと思惑のぶつかり合いが、何処かで妙な化学反応でも起こしたらしく、肉体的快楽までが加わった。 堕落だ、とライトは思う。 快楽に覇気を削がれ、温もりに牙を抜かれ。 そしていつしか気がつけば、エルの作り上げた微温湯の檻に閉じ込められているのではなかろうか。 獲物をようやく捕らえ安堵し、そしてまた新たな標的を捜しに行くエルの背を、檻の中から見つめる日が来るのではなかろうか。 そんな怖気の走る空想を鼻で笑い飛ばしながらも、今またこうしてライトはエルに組み敷かれている。 (僕たちはきっと、この世界の誰よりも馬鹿なんだろうよ―――) 僕たちが、だ。 ライトが愚者であればエルも愚者であるに違いなかった。 「・・・ひゃ・・・っ!」 突然の冷感に身体がすくんだ。 見ればエルの手には白い塊が乗っている。そしてライトの胸元にも。横にあるケーキを見ると、明らかに指で抉り取った跡があった。 「ちょ・・・服、汚れ・」 「ちゃんと新しいの買ってあげますから」 「そういう問題じゃ、な―――っ」 今日初めて、男のほうから能動的に動く。何時の間にかエルの膝上に座り込む姿勢になっていたライトは、身を捩っても逃げられない。 胸の尖りを舌先でつつかれ、残る片方をクリームを擦り込むように抓られた。 「っぁ、ア、痛・・・っ」 思わず大きくのけぞると、更に胸を相手へと突き出す格好になる。強請っているかの体勢に、エルが小さく笑ったのがライトにも判った。 「あ、りゅ、ざき・・・・・・っ、」 のけぞって不安定な姿勢に、ライトは腕を伸ばすとエルの首元へと回した。ぎゅっと男の頭ごと抱え込むと、2人の身体は密着しお互いの状況を相手に知らしめる。 「・・・」 しばし視線を合わせ、そして同時に内心で笑う。 「月くん・・・」 「・・・っあ!」 後孔に冷たい指先が宛がわれたのを感じ、ライトの身体は反射的にすくむ。受け入れる苦痛も、突き入れられる快楽も知った身体。 小さく息を吐き、全身の力を抜くよう努めた。やがてつぷりと他人の肉が潜り込んでくる。 「・・・ぁ・・・ン、あ」 「もっと、しがみ付いた方が楽ですよ」 言われ、ライトは遠慮なしにエルの背中へとしがみ付いた。ついでにと目の前にあった耳たぶを軽く甘噛みしてやる。びくりと男の肩が跳ねたのを感じ、無性に気分が良くなった。まだ狭い入り口を彷徨うエルの指が、ゆっくりと時間をかけて最奥を蕩かしていく。途中潤滑油代わりのつもりか、またもテーブルへと手が伸びた。 「なに、馬鹿、止め・・・っ」 「大丈夫ですよ。あとで綺麗にしますから」 「ひあ・・・っ、嫌、冷た・・・っ」 ねっとりと粘度のあるものが自分の内部へと塗りこめられていくのが判る。体温で緩くなったそれがつつ、と立てた太腿を流れ落ち、男の膝を汚した。卑猥な水音がぐちゅぐちゅと容赦なく立てられる。時折わざと前立腺の近くを掠めるように指が突き入れられ、その度にライトは膝を折りそうになるのを必死で堪えた。 「あっ、ぁあ、・・・や、今、何か・・・っ!?」 つるん、と滑るように何かが奥へと入るのを感じた。 僅かな違和感は一瞬で消えたが、しかし確かにその感覚はある。 「あぁ・・・何でしょうね。黄桃か、洋梨でしょうか?」 「っな・・・!!」 「クリームに混ざっていたようですね」 平然と応える男に、目の前が眩むような怒りが湧き起こる。 「馬鹿っ、取れ、今すぐっ!!」 「無理です」 叫びたて、男から離れようとするライトを押さえ込み、エルは淡々と告げる。 「終ったら、ゆっくり綺麗にして差し上げます」 そのままライトの反論を待たずに、おざなりに慣らした最奥へと自身を突き入れた。遠慮なしに凶器を飲み込ませていく。 「ひぃ・・・あぁぁああ―――――っ!!」 ぎしぎしと、自身の身体が軋む音が鼓膜に響いた。 男が。 肉が。 侵略しに。犯しに。 痛みと違和感と異物感は消えはしないが、身体は慣れた侵入者に反応を返し始めている。 それに気づいた時は、いつだったか。 「あぁっ・・・!あ、ん、ァ、竜崎ぃ・・・っ」 しばらく落ち着かせるようにじっとした後、おもむろにエルはライトの腰を掴むと揺さぶり始める。耐え切れない感覚に首を振ると、ぱらりと髪がしなやかに舞った。しがみ付き、縋るように彼の背へと爪を立てた。がりがりと男の皮膚がライトの爪先にこそぎ取られる。更にと、首筋に歯を立てた。歯型をつけるだけでは満足せずに力を込めると、甘い鉄の味が口内へと広がった。 甘い。鉄の匂い。 ふわりと香るそれに、自身がかき立てられていることを否応なく自覚した。 甘ったるい菓子などよりも、よほど甘い――― 「は・ははっ・・・あははははは・・・っ」 男に揺さぶられ、過ぎる快楽にのたうちながら。 ライトは己の内にある何かを、掴んだような気がしていた。 それは例えば、この行為やこの男やこの感情に対する答えであったのかもしれない。 けれど弱くて小さくて愚かな青年は、今は迫る絶頂の兆しにのみ神経を傾けるのだった。 その時己の手を見ていれば、恐ろしいまでに赤く染まった本当の欲に気づけたかもしれなかったが――― |
>>>某所にて開催された、月受エロ祭投稿作。 18禁になっているかすら怪しいですね。 エロ書くの苦手なので、今はこれが精一杯、と(笑) >>>Back |