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 今日も今日とて、白いゴーレムは忙しい。




  ++ シーソーゲーム ++




 『短すぎです』
 『あ?何だそりゃ』
 『任務についての説明ですよ!何ですかたった1行明日船着場に7時。詳細は追って話してやる≠チて!僕任務当日に内容知る訳ですか!』
 『そーだが』
 『さらっと答えない!僕だってエクソシストの端くれなんですよ!せめて先日に教えておいてくれたっていいじゃないですか。色々心の準備とかもありますし』
 『端くれだという自覚はあったか。新人』
 『もう2ヶ月たってますよ!そういえば何時になったら名前で呼んでくれるんですか?1ヶ月以上経ってますけど?』
 『不自由ねーんだからいーだろが』
 『僕の個人的な引っかかりです』
 『俺がそれに気遣う必要はない』
 『いや少しは気遣って下さい君の刀の半分くらいでいいんで』
 『そこまで優遇しろというのかお前は。図々しい』
 『それで優遇ですか!』
 『当たり前だ。俺の愛刀を馬鹿にするのかお前』
 『…じゃあせめて4分の1』
 『プライドないのかお前は』
 『言っときますが自尊心より生存本能で生き繋いできた人生ですよ。師匠との修行時代は特に』
 『………不憫だな』
 『今欲しいのは同情じゃないです労わりと思いやりと心配りとそれからそれから』
 『夢を見るならせめて実現可能なものにしておけと忠告してやろう』
 『とぉっても心に染み入るご忠告をありがとうゴザイマス』
 『………』
 『………』
 『………』
 『………』
 『………』
 『……ちょっと』
 『何だよ』
 『何か話題振ってくれたっていいんじゃないですか?』
 『そんな必要が何処にある』
 『言っておきますが、会話というのはコミュニケーション。コミュニケーションというのは双方向からの努力と誠意なんですよ』
 『ほぉ』
 『神田、キミ今この数分間を記憶から消そうとしたでしょう』
 『よく判ったな判るような阿呆極まりないモン寄越すな馬鹿』
 『えぇそーですねどーせ神田のことですから何の為にもならないだろーなーとは思ってましたよ。人には得手不得手ってありますもんね』
 『オイコラ何が言いたい』
 『神田が今推測した通りのことだと思いますねたぶん』
 『このモヤシ』
 『罵倒が単調になってきたら負けを認めたも同様ですよ』
 『あぁ!?誰が誰に負けたって!?』
 『今当事者と呼び得るのは僕と神田だけだと思うんですけどー』
 『……てめぇ今すぐ刀の露にしてやろうか』
 『君が全身全霊込めて磨き上げてるその刀で?僕を?うわー、やれるものならどうぞと言いたいですね』
 『明日の任務中は常に背中に気ぃつけとけ。うっかり怪我しかねねーぞ』
 『例えば神田がうっかり転んじゃって刀ごと僕に倒れかかってきたり?』
 『足場が悪けりゃ可能性はあるな。ちなみに行き先は鉱山だ。予言成就の時も近いな』
 『寸前で刀を避けて君の身体を支えてあげたら何かご褒美出ますかね』
 『不許可での接触につき殴打の刑』
 『じゃ殴られたら触っていいんですか』
 『変態かお前。今後寄るな触るな近づくな』
 『やだなぁ愛は盲目?って奴ですか?』
 『わざわざ疑問詞をつけなくていい!』
 『疑問詞つくと頭に来ます?腹立ちます?自惚れちゃいますよ…ってゴメンナサイ今絶対ゴミ箱に入れようとしたでしょ済みません調子付きましたごめんなさい許して下さいプリーズアロゥミィ』
 『…卑屈すぎ』
 『師匠曰く押して押して押してそれでも駄目なら引くと見せかけて押してみろ、でした』
 『それはどうかと思うんだが』
 『僕もそう思います。なので反面教師にしてみました』
 『お前ら師弟は極端に行き過ぎだ』
 『まだ師匠に染まってるよりは良いと思うんですけど』
 『………それは、そうだな』
 『でしょ』
 『あぁ』
 『……あ。本題忘れてました』
 『随分長々と忘れていたな』
 『神田に言われたくありません……えーと、僕の名前、どうして呼んでくれないんですか』
 『其処か本題は!』
 『他に何処に本題があるんですか!』
 『任務の詳細とか状況把握とか色々あるだろうが!というかソレでお前これ寄越したんだろう!』
 『前振りですよそんなもの!明日になれば嫌でも判ることですし!』
 『……あ、そーかそーか判ったもういい』
 『で、何で呼んでくれないんですか?いい加減呼んでくれたっていいでしょ?』
 『何で』
 『僕が窮地に陥った時にモヤシぃっ!≠チて叫んで助けに来られる日が来るかと思うと怖くて怖くてうっかり怪我もできません』
 『人を勝手に妄想内に出演させるな。あと助けに入らないから心配するな大丈夫だ安心して討たれて来い』
 『ご丁寧に捜索部隊の方々にまで僕の呼び名を定着させて下さいまして。いつでしたっけ、神田があのモヤシ何処だ≠チて訊いた時即座に部隊の人が食堂ですよと答えたのを目の当たりにした日には、結構食欲中枢にダメージ喰らったんですけど』
 『常人の10倍以上食べる馬鹿には丁度いいだろそれで。お前1人で教団のエンゲル係数幾つ上がったと思ってる。これで運営困難に陥ったら馬鹿馬鹿しいにも程がある』
 『イノセンスのせいですよ仕方ないじゃないですか。あれにエネルギー取られるんです絶対』
 『そうかそのせいか。銃火器型になって以降、料理長の顔色が更に青くなってたのはそのせいか』
 『やっぱりエネルギーを射出する分、消費が激しいんでしょうね』
 『お前もう迷惑だから前のに戻せ』
 『無理ですよー…武器の造形は無意識的にやってるんですから』
 『…使えんな』
 『あぁもうまた本題から逸れた。で、何で名前呼んでくれな…ねぇ神田。もしかしてもしかして何ですけどもしかして』
 『しつこい』
 『僕の名前知らないとか言わないですよね』
 『……………』
 『やっぱりですか!っていうかソレはアリですか!2ヶ月一緒にいた相手の名前を知らないって、冗談にも程がありますよ。同僚でもあり任務のパートナーでもあり人生のパートナーでもあるこの僕の』
 『待て最後のは流せねぇ』
 『あ。駄目。何だか本当に落ち込んだ。あえて呼ばないのと知らないから呼ばないのには雲泥どころか天国と地獄ほどの開きがありますね今実感しましたよ』
 『………てめぇ、それは俺を馬鹿にしてんのか挑発しようとしてんのか試そうとしてんのか、どれだ』
 『どれなら報復小さいですか』
 『その4、お前の目が節穴』
 『うわ明日殴られそう僕。加減宜しくお願いします』
 『氷用意しとけ』
 『でも、それなら何で名前呼びアウトなんですか。いいじゃないですか減るものでなし。減るからなんてベタな言い草は却下しますよ』
 『あぁもう面倒くせぇ。もう送ってくんな。寝る』
 『いいじゃないですか最後に。少しだけ。ほら、今なら声に出す必要ないですよ。ただ、君に名前を呼んで欲しいだけ』
 『……』
 『届いてないとか読んでないとかって言い訳はティムキャンピー使ってる時点で通用しませんからね』
 『…本当に暇だなお前』
 『あ、ちなみに綴りはA−L−E−N=…』
 『知ってる』
 『……え?』


 『………これでいいか俺はもう寝る!!

  Good Night , Alen=Walker!』


 『…えと、ありがとうございます。神田』
 『だから寝るっつったろ。邪魔すんな』
 『えぇ、僕も寝ますよ明日早いですもん。でも最後に一言いいですか』
 『何』
 『15分以上も悩んでくれる姿に愛を感じました』


 「〜〜〜っっ!!」
  思いきり奴の字をびりびりに引き裂いたら、それを返事代わりに白いゴーレムは持っていった。


 机の片隅には、単語から2、3行未満の短い手紙が山を作ってなだれかけている。
 その末尾にしつこくしつこく署名をつけてきている馬鹿は何処の誰だ。綴りなんざ既にソラで判るんだよ俺の記憶力を馬鹿にすんな大体そんな署名なんざ最初っから要らないんだよこの馬鹿。


 翌朝。
 やに下がった情けない顔で奴が小さな紙切れを懐にしまいこんでいるのを見かけてしまい、任務中奴が油断するのを待ち構えることにした。


 あんな阿呆らしいほど強張った字、さっさとこの世から消してやる。






>>>たまにありえない程に甘いアレ神です(笑)
実は奴らは延々と交換手紙してました。互いの自室から。
お前らは女子高生か。

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