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寄生型。 神の力たるイノセンスを己の肉体に受けて生まれし者。 それは使役ではなく、本能としてAKUMAを破壊する。 神に選ばれ、イノセンスに選ばれた少年に、賞賛を送る者は数多い。 ++ 御子 よただその 父 を呪え ++ 彼の足が滑り、シーツを蹴ると意図しない刺激が腰を起点に駆け抜けたらしく、びくりと背中が弓なりにしなった。 「…っ、あぁ…っ!!」 反射的に押さえた口元から、殺しきれなかった艶めいた声が漏れる。 ぐらりと神田の上体が傾き、目の前の均整の取れた両肩へと手をかけ、安定を図る。 少しばかり息を整えるように吐き、そして再び相手の肩から手を離して神田は1人、好き勝手にベッドの上で揺れていた。 「…っ、ン、はぁ……っ!」 「……っ、く」 若さ故か、かなりの傍若無人さで動いている神田の動きに、ベッドに座り込んだアレンは耐えるように眉を寄せた。 ベッドの背もたれに分厚いクッションを置き、アレンはそこに背を預けている。 ただ足を伸ばして座り込んでいるだけのその体勢で、彼の膝の上にのしかかっているのは神田だった。 衣服といえば彼は上しか身に付けていない。 そしてアレンは彼の手によって無理やりに上着やらを取り払われており、今は床にでも落ちて埃と仲良くなっていることだろう。 「……神田…っ、も」 「まだだ馬鹿…っ、黙ってろ…!」 一度律動を止められて、ぎっと睨みつけられる。 男としては確かに情けない話であるかもしれないが、それもこれも目の前の黒髪の少年が異様な色香を持っているのが悪いのだ。 「は……っ、ァ」 彼が腰を揺らめかせる度に、背にかかるまでの艶やかな黒髪がぱさりぱさりと綺麗な曲線を描く。 髪だけが別の生物かのように夜の闇に舞っていた。 閉められたカーテンの隙間から入り込む月光は淡く白く、神田の細身だがバランスの取れた体躯を照らし上げていた。 以前の任務で負った傷はまだ完治していないのか、白い包帯に包まれた上半身が痛々しい。 普段であれば平静と冷徹さと僅かばかりの怒気をまとっている神田の漆黒の瞳も、今この時ばかりは快楽と熱に蕩けている。 浮かされたような表情と薄く汗の滲んだ肌はアレンを魅了して止まなかったし、経験値の差か彼の技巧に翻弄されているのはむしろアレンの方だった。 自分の上で好き勝手に快楽を貪っている美しい同僚を見上げながら、どうしてこんな状況になっているのだろうと今さらながらにアレンは疑問に思う。 自分たちは一言二言会話を交わせば、一瞬の内に険悪な雰囲気を作り出せるというありがたくもない芸当ができる。 それをもう本部の人間たちはほぼ全員が了解しており、アレンと神田のどちらかががどちらかの視界に入るようであればそそくさと逃げる準備をしだす者まで出る始末だ。 たまたま、何かの用事で嫌々神田はアレンの部屋を訪れて(アレンが出向いても良かったのだが、彼にしてみれば自室にアレンを入れるくらいなら自ら出向く方がまだマシらしい)、用件は確か3分かからずに済んで。 そして恒例のささやかな応酬が始まって、その20分後には。 こうして喧嘩相手をベッドで抱いていた。 いや、確かに「抱いている」のはアレンの方かもしれないが、これは限りなく神田が「抱いている」のではないだろうか。 何故なら、アレンからは何もしていない。 後ろを取られたと思った時には脚を払われベッド上へと叩きつけられて、そしてどうするのかとしばし見ていればいっそ清々しいほどの早業で乗られてしまった。 正確に言うならば、こうして目の前で華奢な肢体が妖艶に踊り狂っているのをただ呆然と眺めているほど、アレンは甲斐性なしではない。 本当ならば今すぐにでも、この細い腰を掴んで突き上げて揺さぶって押さえ込んでやりたい。 それは男としての性である。 ただ、手を伸ばそうとしても伸ばせやしないだけだ。 「…神田、これを」 外して、くれませんか。 溜め息を吐くように、この時間の君臨者へと頼み込む。 アレンの両手はしっかりと、後ろ手に縛り上げられていた。 「駄目だ」 きっぱりと神田はアレンの頼みを拒否した。 そのまま皮肉げに笑って、見せつけるように白い咽喉を曝け出す。 思わずその咽喉元へと視線が集中する。 白く細いその場所に、思いきり歯を立てて己の印を刻み付けてやったら、どれほど気分が良いだろうと考えて、アレンは往生際悪くぎしぎしと手首に絡みついた布を軋ませた。 痕の残りにくい布きれを一応選んでくれたらしいが、この分では十分に痕が残ってしまうかもしれない。 それはそれで、いいのかもしれなかった。 少なくともこのひと時だけは、夢だと笑い飛ばせなくなる。 「…神田…っ」 「……ぅんっ、くぅっ…」 手は後ろ手に縛られて、更には柔らかなクッションで自由な動きは制限されて。 そんな状況で可能な限り深く突き込んでやると、神田は耐え切れないのかばさばさと首を振ってその快楽を逃がそうとしている。 あまりに手馴れた様子に初めは判らなかったが、どうやらかなり敏感な性質ではあるらしい。 「神田…ねぇ、1人だけで動くのも、辛いでしょ…っ?」 解いてくれたら、もっともっと好きなだけ悦楽に溺れさせてあげられるのに。 「…は、お前の好きにさせるか」 「どうし、て…?」 あくまでもアレンの手を拒絶する神田は、汗で額に張りついた髪をかきあげた。 心地よい疲労に掠れた目元が赤く染まっている様は、男を煽って止まないだろう。 そのままふぃとアレンの眼前にまで顔を近づけ、神田は唇の端を吊り上げて笑った。 「そんな呪われた手なんぞに、この俺の身体を触らせてやるとでも?」 はは、冗談は休み休み言え。 細めた黒の瞳はそう言って、アレンを嘲り笑っていた。 「…違いますよ…っ? これは、イノセンスです…」 この異形の手は、神より賜りしイノセンス。 AKUMAを破壊い得る力を秘めた、神の力だ。 そう主張するアレンを、今度こそ神田は馬鹿にした目で見下した。 律動を止め、火照った全身の中でただ1つだけ、氷点下にまで下がった漆黒で。 「はは…っ、それは冗談か? 笑ったほうがいいのか?」 「冗談じゃ…っ」 「呪われているさ」 薄い唇は笑みの形に弧を描き、アレンの鼻先1センチにも満たない場所で囁きを生む。 「呪われているとも。お前がそう、思っているように」 「…っ、な、にを」 お前がそう、思っているように。 アレンの過去を神田は知らない。恐らく一片の興味すらないだろう。 そしてアレンも、神田がどういう経緯を経てこの場所に立っているのかを知らない。 お互いがお互いに対して持っている知識など、僅かすぎて比較することさえ無意味だ。 それなのに。 「……僕、は」 神田の言葉は的確に、アレンが奥底に沈めた何かを貫通したのだった。 例えば、それは。 何の変化も奇跡もない、ループ状の日常を送れたり。 奇異な目で見られることを気に病まなくて済んだり。 そして生まれ落ちた瞬間に、世界の拠り所である親から見離されることはなかったり。 つまりは自分にこの神の恩寵がなければ、享受できたであろうありきたりの人生。 「僕は…」 「馬鹿が。どうでもいいことで脳みそパンクさせやがって」 「どうでもって…」 「あぁ? どーでもいいことだろーがよ。少なくとも」 がっと前髪を掴まれて、強引に上向かせられる。 触れるか触れないか、ぎりぎりの処にまで迫った神田の端正な顔がアレンの瞳に写り込んだ。 「…今は単に、俺に遊ばれてりゃいーんだよ」 にやりと言い捨てて、神田は再び自らの快楽を追い始めた。 ぎしりぎしりとベッドの悲鳴と時折洩れる彼の嬌声だけが部屋を満たす。 「…あは」 思わずアレンの口から、笑いが洩れた。 笑う以外何をしろというのか。 これまでで一番性に合わないと思っていた(否、進行形で思っている、だ)相手と閨事に勤しみ、そしてその相手は自分のことを何ら歯牙にもかけていないにも関わらず、ふっと真理を抉り出してくる。 彼の手にする、武器のように。 いつでも彼は、抜き身の剣のようにアレンの命綱を断ち切ろうと、虎視眈々と狙っているのだ。 「あ、はははは…っ」 「フフ、ははははは……っ」 2人して仲良しの子どものように、場違いに笑い合う。 自分たちはきっと、こんな事くらいしか何も共有できないのだ。 こうして笑う、ほんの数秒くらいしか。 ようやく、アレンは理解した。 どうして神田が自身を相手に選んだか。 彼にとって肉体の生理現象など、鬱陶しいものでしかないだろう。 生きていくための必然でなければ、彼は切って捨てたに違いない。 しかしそれが叶わぬならば、どうすればいいか。 簡単なことだ。 汚らわしい欲望は、同じく汚らわしいもので昇華してしまえばいい。 汚い存在に汚い本能を曝け出したとて、気に病む者はいやしない。どうせお互い同じであるのだから。 その意味で、アレン以上に相応しい人選はなかったろう。 白く色の抜け落ちた髪、刻まれた五芒星。 そしてその左手は、生まれ落ちながらにして神の祝福を受けたアレン=ウォーカー。 (いいよ…神田、利用されてあげる) ストイックな顔を取り繕う相手として、選ばれたことに少しばかりの幸運を感じながら。 アレンは神田の仕掛けた一方的な行為に、没頭することにした。 ぎりぎりと、彼の爪が鋭く肩に食い込んだ。 几帳面に切り揃えられてはいても、渾身の力を込めて爪を立てられるとかなり痛い。 「…ィ」 「ァ…、あぁあっ!!」 びくん、と大きく彼の身体が仰け反り、彼の限界を知らせた。 タイミングを計って、神田と同時にアレンも達する。白濁が2人の間を伝い落ちた。 何も言われなかったのでそのまま中に出すと、たぷりと溢れた白い体液がつつ、と彼の下半身を卑猥に濡らした。 「神田…」 「……ぁ、」 その囁きにも刺激されるのか、びくびくと脚が震える様に見惚れてしまう。 いまだ余韻に半ば自失している神田の上半身には、先ほど看護師によって巻きつけられていた幾重もの包帯。 痛々しさと同時に、駆り立てられるものを感じる自分は末期だろうか。 そんなことを考えながら、アレンは胸元部分に少し包帯の緩んだ箇所を見つけ、そこに歯を立てた。 しゅるり、と包帯が解け、まだかさぶたにも成りきっていない傷痕を見つける。 薄ピンク色の薄く柔らかそうな皮膚。 下に脈打つ血流すらも、見えそうな色だ。 「神田」 すっかり上体を支える力をなくしたか、ぐったりとアレンにもたれかかる彼の耳元で名を囁いて。 アレンは露になったその傷痕に、この夜で初めてのキスをした。 潔癖で淫猥な彼に呪われた接吻を。 |
>>>アレン×神田第3弾。 とうとう管理人の本性が出始めた…(苦笑) 神田くんは襲い受で誘い受だと思うのですが、 アレンも大概鬼畜っ子だと思うのです。 どんなCPだ(笑) >>>BACK |