りんごん、りんごん、と澄んだ美しい音が空に響く。 幸せの、象徴が。 ふと気づけば、僕はきっちりとしたスーツ姿で雑然とした部屋の所在なげに佇んでいた。 見渡せば白い壁に囲まれたこの小部屋には、大きな姿見があり、木製の小さな間仕切りには白のヴェールが無造作に投げ出されていた。 「アル!」 呼ばれ、振り返ればそこには満面の笑みで駆け寄ってくる兄の姿。 いや、正確にいうならば、最愛の人の姿。 「兄さん」 「うわぁ、アル!お前めちゃくちゃ格好良い!」 俺とお前、本当に血ぃ繋がってんのかぁ?と心底訝しげな彼の顔はもっともで。 僕の顎の下辺りに、彼の頭頂部があたる位置関係にある。 ちょうど抱きしめるのにいい感じだよね、と言ったら殴られたんだっけ。そういえば。 もっとも、口にしないでも実行はし続けて今に至るわけだけれど。 「兄さんこそ、凄く綺麗」 「…おぅ」 ふぃ、とそっぽを向いてしまう彼の肢体は、今や真白の布に包まれているわけで。 上質の光沢を放ち、シンプルな形に仕立てられたドレスは見事に彼のためにあつらえたかのように彼に映え、しかし主張しすぎることはない完全な引き立て役になっている。 うーん。贔屓目じゃないけど、本当に美人なんだよねこの人。 今度は僕の台詞だけど、本当に血が繋がっているんだろうか。 血が繋がっていないなら好都合。繋がっているならそれは断ち切れない永遠の絆。 僕と彼とを繋ぐもの。 「ん」 ちゅ、と可愛らしい音を立てて、僕は彼の両頬にキスを落とした。 親愛のキス。家族のキス。 彼からも、お返しに柔らかなキスが降って来る。 幸福のキス。未来のキス。 「…そろそろ、時間だな」 「あ、そうだね。行かないと」 慌てたように彼は放っていたヴェールを引っ掴み、無造作に頭へと被せた。それを「駄目だよ、ちゃんとして」と直してあげるのは、僕の役目。 昔から何も変わらない。 何が変わっても、僕たちだけは変わらなかったんだ。本当に。 教会には、リゼンブールの皆も、お世話になった軍部の人たちも来てくれていた。 皆、にこにこと嬉しそうにしてくれている。 何故かこの間昇格したマスタング准将は、妙に不機嫌だったのだけれど。 そして一瞬空気が静まると、ゆっくりと新婦姿の彼が現れる。 ゆっくりと、新婦は歩み。(ヴェールを持つのはウィンリィだった) そして祭壇の前に佇む、新郎の元へと辿り着く。 新婦も新郎も、ともに似通った金の髪。 それを僕たちは、とても好ましい表情で見守っていて――― 僕たち=H あれ? 何故に僕は長椅子にいるのに、彼の隣にはすでに新郎がいるんでしょうか。 ちょうど僕からは新郎の背中しか見えない。けれど確かにあそこには新郎がいて、そして僕は家族としてここに座っているというわけで… え? どういうこと? 僕が状況を飲み込めず、おたおたしている間にすでに式は2人の誓いまで進んでいた。 わ、え、ちょ、え、んん????? 新郎がゆっくりと花嫁をヴェールをめくり上げると、僅かに紅潮した兄の顔が覗いた。 綺麗!綺麗だよ兄さん!ビバ兄さん!ってそんなこと言ってる場合じゃないから!! そして憎むべき新郎が身をかがめ、兄の方へと囁いた――― 「…幸せに、なりましょうね。エディ?」 「トーゼンじゃん、リザ姉」 ――――――、中……っっ!!!!??? 「うわぁぁぁぁぁぁっっっ!!?」 からくり人形もかくや、という勢いで僕は跳ね起きた。 見渡せば、そこは確かに前日宿を取った部屋。僕はベッドの上で身を起こし、汗ばんだ額を軽く拭った。 心臓の鼓動がいま多分限界値。 室内はまだ薄暗く、そして兄は隣室で同じく眠りについているはずで。 「……夢?」 ―――そして翌朝。 「中尉。是非とも中尉にお聞きしたいことがあるんですけど」 「あらアルフォンス君。真面目な顔で…なあに?」 「『新郎の心得』を是非…」 「…はい?」 |