ばら色の指で弾を撃て



「あれ?」
 いつものように司令部の図書室で資料をあさっていたエドワードは窓の外に見知った顔を見つけた。
(不本意だが)自分の上司であるところの「雨の日無能」の補佐官である彼女は、いつもであれば、大佐の執務室で上司のシリを銃でひっぱたいているはずなのだ。
 だが、図書室から見えるその通路の先に大佐の執務室はない。
 気になったエドワードはあとを追った。
「中尉!」
 行儀が悪いが、窓から出たエドワードはすぐに見慣れた後姿へと追いついた。
 シンプルな髪留めでアップにまとめた髪と、軍人らしくしゃんと伸びた背中。
 その背中がくるりと振り向く。
「エドワード君?」
「窓から見えたから、追っかけてきた。どこ行くの?」
 こっち、執務室じゃないだろ?と言うと、にっこり微笑まれる。
「今日、大佐はお休みなの。大佐がいないと、私もすることがあまりないのよ。だから、銃の練習をしようと思って」
 射撃場へ行くのだと告げられ、ああ、とエドワードは納得した。
「見に行っていい?」
「ええ、いいわよ」
 二人は連れ立って射撃場へと向かった。


 リザは弾を込め終わった銃を人型をしたターゲットに向け、立て続けに発射する。
 エドワードは思わず耳をふさいでしまったが、目はターゲットを睨むように見据える横顔に見とれてしまう。
 2セット目の弾を込めているリザと目が合うと、先ほどの真剣な目と違ってやわらかく微笑まれてしまい、エドワードは少し頬を染めてうつむいた。
「やってみる?」
 銃を差し出され、うなずいてしまった。
 手に取った銃が思いのほか重くて、感心してしまう。
 よくあの細腕でこんな重たいものを支えられるものだ、と。


 女性は射撃に向かない、と言われる。特にリボルバーは、手だけで銃身を支えるので、筋力が男性に比べて劣る女性は標準が外れやすいのだ。
 それだけに、リザの射撃の腕はすばらしいものだと言えた。


 結局、エドワードは撃たないまま銃をリザに返した。
「中尉、殺すために銃の練習をするわけ?」
 リザは少し困ったような、複雑な表情で笑った。
「・・・違うわ、エドワード君。殺さないために銃の練習をするの。殺す銃なら誰だって撃てるわ。けれど、殺さないためには訓練が必要。わかる?」
 最小限の弾丸で、相手に最小限のダメージで最大限の自由を奪うのは訓練をつんだ者でないとできない。


 かっこいいな。
 エドワードはそう思った。
 あの焔の上司なんか太刀打ちできない。
 こんなにかっこよくて、きれいな人を他に知らない。
 再びターゲットに向かうリザを見ながら、エドワードはすでに自分の胸を射抜かれていたことを知った。








>>>お花畑推進委員会会員bO19、こずか様より賜りしお花SS♥
中尉は意識的でも無意識でもどっちでも、豆を落とせると信じてます(笑)
可愛らしいお花畑を、有難うございました!

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