「チョコの海に沈め 2007」
その頃、十二支高校野球部。
朝から女子生徒に追い回され、正カバンから副カバンまでチョコを詰め込まれた犬飼が(どうせなら司馬から欲しい)などとホモ臭いことを考えながら部室に来ましたら、その司馬がなぜか裃を着てにこやかに居りました。
「あ、犬飼くん、ヤッホー」
司馬の横で同じく裃を着た兎丸が持ってた箱を犬飼の方に突き出しました。
「くじ。引いて引いて」
「ああ?」
訳がわかならいながらもクジを引きました。
クジには「鬼」とマジックで書いてありました。
「??」
「じゃあ、はい」
渡されたのは節分の豆パックの中によく入っている安物臭い鬼の面でした。
「それでは、最後の鬼も決まったし始めようか」
牛尾がにこやかにそう言いました。
よくよく見れば、牛尾も裃を着ており。
他のメンバーもそれぞれ、裃か犬飼と同じ鬼の面を着けてました。「何が始まるんだ?」
犬飼の言葉に兎丸がにっこり笑って言いました。
「司馬くんの提案でね。節分の豆まきしようって」
兎丸の言葉に司馬が「うんうん」と頷きました。
「・・・・節分て、今日は14日だぞ」
「うん。だから、節分とバレンタインを一緒にする事にしたんだ」
「は?」
言われて見れば、裃を着たメンバーは皆四角い枡を持っており。
通常であるなら豆が入っているそれに、今はチロルチョコがみっちり詰め込まれておりました。
「・・・・チロル」
「司馬くんのアイデアなんだ。昨日、二人で買いあさったんだよねー」
「(うんうん)」←凄く楽しそう
「じゃあ、いくよ・・・・・鬼は死ねぇ!!!!」
「(ワクワク)」
すっかり黒くなった兎丸と、やる気満々な司馬が犬飼めがけてチロルを投げつけてきました。
たかが、チロル。されど、チロル。
野球をやってる人間の肩から繰り出される四角形は意外と凶器です。ゴスゴスゴス!!!!
哀れ犬飼は顔面に角をくらい床に伸びました。
「こっちも始めるのだ!くらえカミソリカーブ!!」
「痛い!ほっぺ先輩マジ痛いって!!」
「食べ物を投げるのは感心せんっちゃ」
「言いながら投げるなYO!」
「みんなー、足腰の鍛錬もかねてるから頑張って逃げるんだよ」
「やはり、終わったら歳の数だけ食べるんですかね」
「当たり前だよ!ねー司馬くん」
「(うんうんうん)」←かなり楽しそう周りの歓声を聞きながら、犬飼はひっそりと面に刺さったチロルを握りしめ、
(こんなでも・・・司馬からのチョコだよな・・・・)
と思い幸せな気持ちになりました。
「・・・何でコゲ犬笑ってんだよ」
「さあ、チロル好きなんじゃないっすか?」