「忘れるということ」
忘れるってどんな事?
と、唐突にシバちゃんが聞いてきた。
何の脈絡もなく、いきなりの質問。
本当に唐突だな、シバちゃんは。
いや、シバちゃんだけじゃなくて、この家の人は何をするにも唐突だわ。
例えば、今「俺」(あ、俺ってのは御柳芭唐。この家の居候)と「シバちゃん」(シバちゃんは司馬葵。この家の長男)はお揃いの作務衣を着て部屋の中央でだらしなく寝転がってる。
んで、なんで作務衣かってーと、昨日突然「中お姉さん」(シバちゃんの双子の姉ちゃんの上の方。そう言えば今だに名前知らねーや)が買って帰ってきた。
「・・・・なんで作務衣なんすか?」
「あー。何かお歳暮の売れ残りで安かったから・・・・・着ろ」
普通に命令だった。
別に嫌じゃねーけど、なんかどっかの居酒屋の店員みてーじゃねー?
まー楽でいいけど。(そしてシバちゃんは作務衣の濃い青が気に入ったようでご機嫌だった)
そんな事はどうでもいい、
「いきなり何事?シバちゃん」
「・・・・・・」←忘れるってどんな事だと聞いている
「どんな事って・・・・忘れてる事じゃねーの?」
「・・・・・・」←不満
シバちゃんの言ってる意味はわかるんだけど、聞いてる意図がわかんねー。
シバちゃんは俺がわかってないのにわかったのか、質問をかえてきた。
「・・・・・・」←忘れてた!って言う人は忘れてたのか?覚えてたのか?
「忘れてたって言ってたんだから忘れてたんじゃないの?」
「・・・・・・」←思い出した時点で忘れてないのじゃないか?
「・・・・要するにシバちゃんは完全な忘却の話をしてる訳ね?」
「・・・・・・」←それもちょっと違う
ごめん、訳わかんない。
ブゥゥゥゥゥゥゥゥン・・・・
どっから入ったのかデカイ蠅が部屋の中を飛びはじめた。
ブゥゥゥゥゥゥゥゥン・・・・
「・・・・・・」←虫も忘れるのか?
「そもそも虫って何か覚えてんの?」
「・・・・・・」←さあ
ブゥゥゥゥゥゥゥゥン・・・・
うるさいな・・・・。
そう言えば、蠅見てて思い付いた数学の公式ってあったよな。
何だっけ?
ああ、忘れてるわ。
ブゥゥゥゥゥゥゥゥン・・・・
「シバちゃん。蠅に関係した数学の公式ってなんだっけ?」
「・・・・・・」←そんなの知らない
「いや、習ったって。華武ではやったよ?」
「・・・・・・」←知らない
「・・・・さいですか」
ブゥゥゥゥゥゥゥゥン・・・・
ブゥゥゥゥ・・・・・ッタ
(あ、止まった)
「シバさん。司馬葵さん。俺から質問」
「・・・・・・」
「何忘れてたの?」
「・・・・・・」←全クラスメートの顔
「駄目じゃん」
「他は?」
「・・・・・・」←チームメートの顔
「もっと駄目じゃん」
「・・・・・・」←兎丸は覚えてた
「それ昨日遊んだからじゃん?」
「・・・・・・」
「単純にさー、シバちゃんの脳みそって長期休みに向いてないんじゃねーの?」
「・・・・・・」←そうかな
「そうだって。別にそうなんだから、それでいいんじゃない?」
「・・・・・・」←そうかな
そうだって、と言う最後の言葉は別に言わなくても通じてたみたいなので黙る。
(あと、俺の事忘れても別に怒んないから)
と言う言葉はどうせ明日には忘れてそうなのでこれも黙る。
(俺もいつかシバちゃんの事忘れると思うし)
この言葉は何か覚えられてそうなので、
やっぱりこれも黙る事にした。
「・・・・・」←お前はいつか思い出す
「・・・・心を読むのは反則っしょ?」
蠅はどっか行った
司馬は1ヶ月程間が空くと誰の顔でも忘れている
そして思い出すのにその半分くらいの時間がいる
だから頻繁に会っておかなくてはいけない
結構面倒
御柳は何だかんだ言って、司馬の事はちゃんと覚えてる気がする
んで、忘れられてたらそれはそれとしてまた新しい関係を作る気がする
この二人は仲良しです
そして作務衣は私が部屋着として着てるから着せてみた
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