「蛸とコスモスと猫と私」


 天気が良い日、洗濯物を干してたら、フト、親友が地雷で吹き飛ばされたあの瞬間を思い出す。
 目の前で一瞬にして上半身だけが宙を舞った。
 あの時、瞬間目が合った気もするが気のせいだろうか。
 それから地面に落ちたアイツの額を撃った。
 もう助かるまいと思ったからだし、そのまま生きてて苦しんだら嫌だったから。
 千切れて飛び出した腸が、まるで蛸の足のようだとぼんやり思った。

 クイクイ・・

 おや、誰かが私の服を引っ張っているな。
 見れば今年小学生になった私の息子だった。
 「・・・葵、学校はどうしたね?」
 行かないのはいつもの事、行ってサボって帰って来るのもいつもの事。
 行った事が無いのだが、学校というのはそんなに嫌な場所なんだろうか?
 娘達は割と普通に行ってたように思うが・・・
 それより問題は息子が持って帰って来た物だ。
 小さい手で大事そうに抱えているソレは、

 猫

 但し上半身だけ。
 「下半身はどうしたのかな?」
 聞けば、道路に張り付いてて剥がし切れなかったと、なかなかユニークな答えが返ってきた。
 飼ってもいいか?
 と首を傾げる息子は可愛い。
 ただし、小さい手も紫外線防護服も、猫のたらす肉と体液でベトベトになっているが。
 どうしてこの子は気持ち悪くないんだろうね。
 どうして肉片落ちてる猫を飼おうとするんだろうね。
 「葵。その子は死んでるよ」
 言えば、猫を顔の前まで持ち上げてマジマジと見ている。
 「埋めてあげようね」
 言うと、理解はしてない顔だが頷いた。

 
 庭の片隅に穴を掘って猫を埋めた。
 せっかくの有機肥料なので上に秋桜の種を蒔く。
 実のならない植物は嫌いなんだが、思い切りデカく育ててトンネルを作るのも悪くはないだろう。

 見ると小さい息子はすでに水まきに夢中で猫の事は忘却の彼方だ。
 そうやって半身の猫の事など早く忘れれば良い。

 私もこの洗濯物を干し終わったら、ずぶ濡れの息子に着替えを出して、帰って来る娘達のお八つを用意して、昔の事など頭の隅に押しやってしまう。


 「だーかーらーコレは猫じゃなくてコスモス」
 「・・・・・・・」←コレは猫だ

 あの日から結構な年数がたって、小さかった息子もすっかり大きくなり。
 何故やら1人家族も増え。
 また、あの日みたいな天気の良い日。
 目の前で息子とニュー息子が言い合ってる。

 「どうしたの?」
 「あ、おじさん。シバちゃんが猫だって言い張るんすよ」
 「・・・・・・」←猫だ

 
 息子が指さすのはコスモス。
 有機肥料が効いたのかもの凄い高さに育ったコスモス。

 「・・・・葵。これはコスモスだよ」
 言っても違うと首を振る。

 「・・・・・・・」←これは猫
 「・・・・・・・」←猫を埋めて
 「・・・・・・・」←そこから生まれたから
 「・・・・・・・」←これはコスモスの形をしてるけど猫

 そう言われると、そうかと思う。

 まあ、息子がいいならそれで良いかとも思う。

 「そう思うなら。それは猫で良いね」
 「・・・・・・(にっこり)」

 「・・・・・どう見たって草じゃん」
 「・・・・・・・」←黙れ

 
 どうやら息子の中で猫はコスモスに昇華したらしい。
 さて、私の中で親友はどう昇華したらいいものか。

 「じゃあ、この流れで今夜は蛸の煮物にしようか」
 「・・・・どんな流れっすか」
 「・・・・・・」←?

 「とりあえず、蛸から昇華していこうと思うんだよ」

 息子二人が変な顔をしてるけど、まあそれは大人の事情と言うものだよ。





 タイトルは「部屋とワイシャツと私」みたいな感じで
 司馬父の喋ってる親友は「お父さんのお話し」に出てくる人と同一人物
 司馬父には友人が四人居て、一番仲良しだったのが地雷踏んだ人
 四番目に仲良しさんは今は隣に住んでる
 三番目は時々一緒に旅行に行く
 二番目はどっかで元気に暮らしてる

 司馬はコスモスを猫だと思っている
 だから時々根元に門プチを埋めてあげる