「四角い空」

 単に気になったから聞いてみた。

 「なあ、お前なんでいっつもサングラスかけてんだ?」
 
 例によって週末の鳩の餌やり。
 俺は隣りに座っている司馬にそう聞いた。
 司馬は生米(鳩のエサ。今回はコレしか無かったらしい。ちなみに俺はクロワッサンとフルーツ牛乳。無い物は仕方が無いがあんま好きじゃない)を蒔くのを止めていつものように地面に答えを書いた。

 T光が眩しいからU

 眩しい?
 ひょいっと空を見上げると今日は雲が多くてどんよりしていた。
 司馬は俺のそんな造作を見て書き足した。

 T光が眩しいからU←T目の色素が薄いからU

 矢印が司馬らしいなと思いつつ、重ねて聞いた。

 「病気か?」

 T生まれつきU

 「ふーん」

 相槌を打ったもののあんまり理解してなかった。

 (目の色素が薄いとサングラスがいるのか?)
 (それは絶対外せないのか?)
 (治らないのか?)

 聞きたいような聞いてはいけないようなそんな質問が頭をぐるぐるした。
 ぐるぐるしながら横を見たら司馬が少しサングラスをずらして、それから「あーやっぱ駄目だー」って顔してまたすぐかけ直していた。

 よっぽど眩しいんだなーと思った。

 鳩だけが相変わらずグルグル言っていた。

 日曜が終わって、いつものように1週間が始まった。


 なんとなく司馬を目で追ってしまう自分がいた。
 (正確にはサングラスをだ)
 
 正直同情とかじゃなくて、なんというか気になった。
 
 「犬飼くん。どうしました?ぼーっとして」
 「ああ、なんでもねー」
 「そうですか、ところで放課後空いてますか?ちょっと買い物に付き合って欲しいのですが」
 「いいぜ」

 って事で辰と駅ビルに行った。

 辰は駅ビルのデカイ本屋に用が有るとかでついて行った。
 
 辰が本を選んでいる間暇になった俺は向かいの雑貨屋を冷やかしに行った。


 インド雑貨の店のくせになんでか入り口の所にサングラスがあった。
 
 (なんて名前だ?あのよくメガネとかが引っかけてあるクルクル回る台)を回して司馬の持っているのと似たのを探した。

 (・・・これが似てるな)

 見つけたソレをそっとかけてみた。


 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・
 ・・・・・・・
 ・・・・・薄ぐれー

 今まで白かった物が全部薄暗く見えた。
 急に日が暮れたみたいだ。


 (あっ)

 思い立ってソレをかけたまま外の見える所まで行った。
 (今思えば万引きだよな・・・)

 渡り廊下の所から空が見えた。

 今日はピーカンの青空だった、でもサングラスを通してみる空は暗かった。

 (アイツいっつもこんな空見てんのか・・・)

 そのまましばらくぼーっとしてた。

 よくアイツがしてるみたいに。

 

 結局そのサングラスを購入して俺は本屋に戻った。

 レジの所に辰が居た。

 「あ、犬飼くん。どこに行ってたのですか?」
 「・・・・向かい」

 辰がレジで会計している間、なんとなく周りを見渡せば、レジの横にたくさん絵葉書があった。
 1枚手にとるとそれは猫の写真だった。
 並べてある棚の上に『たまにはハガキを送りませんか?癒し系ポストカード』と銘打ってあった。
 他にも犬やら花やらの写真が並べられていた。
 その中に青空の写真が何枚かあった。


 
 夏の入道雲が写っているやつ
 ウロコ雲が写ってるやつ
 雪の降りそうなやつ
 ただただ青い空だけのやつ

 その中の1枚。

 真っ青な空を切るみたいに走るヒコーキ雲

 (ああ、キレイだな)
 と思った時には買ってた。

 辰が「珍しい物を買ってますね」とか言ってたような気もするが無視した。

 「それじゃあ、犬飼くん。また明日」
 「おう」

 辰と別れて帰る途中、鞄から買ったサングラスを出してかけた。

 んで、さっき買った絵葉書をどうしようかと考えた。

 本当は買った時にどうするか決めてた。

 (司馬に送ってやろう)

 俺がこんな物送らなくてもTVとか本とかで見てるわけだし、もしかしたら同じ様な物を持ってるかもと思った。

 思ったけどアイツに見せたかった。

 とりあえず、ただ何となく。


 
 (住所はクラブの名簿に載ってたよな)

 (50円切手買わねーとな)

 (中身何て書くかな・・)

 (コレ見てアイツ何て思うだろ)

 
 気が付いたら早歩きになっていた。

 顔が笑ってた。

 なんでか走った。

 凄いワクワクした。

 
 

 この時の絵葉書はまだ俺の机の引き出しの中にある。

 サングラスと一緒に入れてある。

 アイツともうちょっと仲良くなったら送ってやろうと思う。

 それか鳩達の居るあの公園で渡してやろうと思う。

T司馬へ 
      とりあえず、空U

 

 そう書かれた絵葉書は結構長い間引き出しで眠っていた。

  
 

一言で言うなら犬飼キモ!

まだ恋にもなってないホモの話し(と書くと身も蓋もない)

とりあえずウチの司馬は目に色素がほとんど無いのでサングラスは外せません

良くは知らないのですが色素が無いと光が全部入って来て凄い眩しいらしいです

間違ってたらすいません

ちなみにウチの犬はかなり奥手です

アレはきっとずっと引き出しの中でしょう

次の誕生日くらいには出すかな?

出した後のもの凄い後悔したり恥ずかしがったりするんでしょう

犬はそんなイメージがあります

永遠の片思いが似合ってます

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