「フリーズ」
「司馬はきっと野球以外のスイッチが切れているのだ」
野球部の決して広いとは言えない部室でそう言い放ったのは、3年の鹿目筒良でした。
そしてその言葉で着替え中の部員達は黙り部室はシーンと静まり返りました。
なぜなら鹿目のすぐ前には当の本人司馬葵が居たからです。
そして当たり前の事ながら皆は司馬の反応を待ちました。
「・・・・・・・」
しかし、司馬は無言でした。
元々無口ではありますが、普通こんな事を言われたら後輩といえども何か言うものではないでしょうか。
「・・・・・・・」
でも司馬は無言でした。
「シバくーん。何か言い返しなよ!あんな事言ってんだよ」
黙りの司馬にこう言ったのは、普段から司馬の通訳をしている兎丸比乃でした。
「シバくんてばー。・・・・シバくん?おーいシバくーん」
兎丸はいつものように司馬に話し掛けたもののまったく反応が返って来ないので不審に思い呼びかけてみました。
「・・・・・・・」
それでも無反応でした。
試しに手を前でピラピラしてみましたが見えているのかも怪しいです。
「くくくく」
そんな兎丸の行動を見て黒く笑ったのは先程から傍観していた鹿目でした。
「無駄なのだ。ソイツはさっきからフリーズしているのだ」
『フリーズ!?』
鹿目の言葉にさっきから聞き耳を立てていた部員達が声を上げました。
それで司馬に注目してみると確かに制服の第二ボタンを止める動作で止まっているように見えました。
(・・・・固まってるよ)
(・・・確かにフリーズと言えなくもないですね)
(・・・・・とりあえず気づいて無かった)
(・・・・でも人に言う言葉じゃないっす)
一年の面々が何事か思っているようですが、それは無視して鹿目の言葉は続きます。
「きっとコイツは人間に見えるけどロボットなのだ。今日は練習がハードだったから熱暴走してフリーズしたのだ」
そして、壊れたテレビはこうすると直るのだっと言って自分の鞄で司馬の後頭部を殴りました。
ゴスッ!
『!!!!!!!』
子津が真っ青になる程それは鈍い音を立てました。
しかし当の司馬は二三度頭を振ると正気に戻ったようでした。
「直ったのだ。では帰るのだ」
鹿目はそれだけ言うと、帰ってしまいました。
なぜかその後ろを鞄を持った三象が追いかけました。
多分鹿目の鞄持ちなのでしょう。
「・・・・・・?????」
司馬は事態が良く飲み込めていないようでしたが、とりあえず途中だった制服のボタンをはめました。
そして何故自分がこんなに部員から注目を浴びているのか解っていないようで戸惑いました。
「シバくーん!僕は君がロボットでも友達だよー!!」
「とりあえず心配するから変な行動すんな」
「司馬くん。止まってたんすよーもう動かないかと思ったっす」
「・・・・物思いにでもふけってたのですか?」
「お前って本当はロボだったんだな。今度首外してみてくれよ」
更に一年の面々からこんな事を言われもっと戸惑いました。
後日
「今日はちゃんと動いているのだ」
部活の自由練習中に鹿目が司馬に話し掛けました。
「ところで司馬は何メガで動いているのだ?」
「?」
司馬は鹿目の言っている事がイマイチ解りませんでしたが、一応返答しました。
ガリガリガリ・・・・
T128メガU
「キチンと増設していたのだ。それは悪かったのだ。もっと少ないと思っていたのだ」
「?」
やっぱり意味が解りませんでした。
「今日も暑くなるのだ。だからなるべく冷やしておくのだ。コンピュータは熱に弱いのだ」
(ああ、コンピュータの話しだったのか)
と納得しかけた司馬に鹿目は何か渡しました。
「これでも貼っておくのだ」
それはケーキなどによく入っている保冷材でした。
「?(ペコリ)」
解らないながらも一応礼はしておきました。
「今度司馬の中に新しいソフトをダウンロードしてやるのだ。きっと楽しいのだ」
「????」
でもやっぱり鹿目の言う事が理解できない司馬でした。
「野球以外の事も覚えさせるのだ」
楽しみなのだーっと言って鹿目は行ってしまいました。
その後ろ姿を司馬はボーッと見送りました。
さらに後日談モおまけ
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