「土曜日は塾の日」
司馬が公園でボーっとしていましたらそこに鹿目がやって来ました。
「そこに居るのはシバなのだ?」
(注・この場合のなのだ?は疑問を表します)
「・・・・(こくり)」
(注・この場合の頷きは肯定と挨拶を兼ねています)
「司馬の家はこの近くなのだ?」
「・・・・(こく)」
頷いて鹿目を指さしました。
「僕は塾の帰りなのだ」
そう言うと鹿目は持っていたカバンを振り回しました。
それを聞いて驚いた表情をしたシバに鹿目は意地悪く笑いました。
「僕が塾に行ってたら変なのか?」
「!(ぶんぶん)」
慌てて否定するシバに笑いながら鹿目は横に腰を下ろしました。
「気にしなくていいのだ。牛尾も聞いた時は一緒のリアクションだったのだ。ちなみに牛尾は家庭教師がついているのだ。奴はイメージ通りなのだ!ムカツクのだ!」
ああ確かにそんなイメージです、と司馬は思いました。
「ついでに言うと蛇神は父親が元学校教師だから教えて貰えるのだ。」
それは以外だ、と司馬は思いました。
「更に言うと、蛇神の家は喫茶店をしているのだ。T手作りケーキとハーブティの店・リトルカウUなのだ。ここのケーキはなかなか美味いのだ」
「・・・・・・・・」
司馬は・・・・マジですか?、という顔をしました。
「本当なのだ。蛇神はあの家族の異端児なのだ」
それは確かに、と司馬は思いました。
「三象の家は花屋で、虎鉄の家は寿司屋で、猪里の家は農家なのだ」
なんだか想像つくような以外なような組み合わせでした。
「で、司馬の家は何をしているのだ?」
聞かれて司馬はポケットからレシートを取り出すと裏にしゃかしゃかと書きました。
T父→主夫 母→TVU
「TVってのは何なのだ?」
司馬はうーんと首を捻ると自信なさげに書き足しました。
TTV→出ていますU
「TVに出て何をしているのだ?」
また司馬はうーんと首を捻りました。
司馬にとって母親とは年に1〜2度帰って来る謎の女性で、とりあえずTVをつければ写っている人物でした。
そして、写す度に、
演歌を歌っていたり、
司会者だったり、
ドラマに出てたり、
CMで躍っていたり、
といつ見てもバラバラで、未だに司馬は母親の職業がよく解らないのでした。
ちなみに昨日TVをつけたら、マペッターになっておりました。
「・・・なかなか司馬家も謎なのだ」
「・・・・(こくり)」
何となく会話が途切れ二人は黙ってベンチに座っておりました。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・暇なのだ」
「・・・・・・(首を傾げる)」
「暇なのだ!暇なのだ!司馬、何かするのだ!」
静寂に耐えられない鹿目がイキナリ切れました。
しかも命令してきました。
基本的に命令されると断れない司馬なので一応頭を捻って考えました。
スッ
「なんなのだ?」
またもレシートの裏に何か書いてありました。
T今現在出来る事
@UFOを呼ぶ
A歌う
B鳩を呼ぶ(日没まで)
C猫を呼ぶ(日没後)U
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
普通の人ならばここで「馬鹿にしてるのか」とでも言いそうですが、
「それじゃ、とりあえずUFOを呼ぶのだ」
まったく動じない鹿目でした。
「・・・・(こくり)」
そしてちゃんと出来る事を書いた司馬でした。
呼べと言われて司馬はおもむろに手を組みました。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
そして待つ事数分。
「・・・・・・!」
司馬は黙って空の一角を指さしました。
「ん?」
そこには光った物がひとつ。
鹿目が「星じゃないのだ?」と言おうとした瞬間、
いきなり真下に動きました。
そのまま90度に曲がるとジグザグ走行を経て、3回転半をかまして消えました。
「・・・・・UFOなのだ」
「・・・・・(こく)」
滅多に見れない物を見て鹿目の目が輝きました。
「凄いのだ。もっと近くには呼べないのだ?」
「・・・・(ふるふる)」
司馬は申し訳なさそうに頭を振りました。
Tワープ走行途中で寄って貰っているのであんまり無理は言えないのですU
「そうなのか。確かにガソリン代とかかかりそうなのだ」
はたしてUFOがガソリンで動いているかは謎ですが、鹿目は納得しました。
「それじゃあ、今度は歌うのだ」
「・・・・・・・!」
一応出来るので書いたものの人前で歌う事には抵抗が有る司馬でした。
「何を嫌がっているのだ。歌うのだ!」
しかし鹿目に強く言われ、観念しました。
「あと僕は英語の歌は解らないのだ。日本語の歌を歌うのだ」
「・・・・・・・!」
「さあ、歌うのだ」
更に苦手な事を強要されましたが、何を言っても(書いても)鹿目は引かないだろうと思い、司馬は小さい声でポツポツと歌い始めました。
「・・・・・ブラウン管の向こう側
格好つけた騎兵隊がインディアンを打ち倒した・・
ピカピカに光った銃で出来れば僕の憂鬱を打ち倒してくれれば良かったのに・・」
「もっと大きい声で歌うのだ」
鹿目に怒られ司馬は殆どヤケになって声を出しました。
「生まれた所や皮膚や毛の色で一体この僕の何が解るというのだろう
運転手さんそのバスに僕も乗っけてくれないか行き先ならどこでもいい
こんな筈じゃなかっただろ
歴史が僕を問いつめる
眩しい程青い空の真下で」
真剣に歌う司馬の横顔を見ながら鹿目は、
(今日は珍しい物を見たのだ、滅多に聞けない物を聞いたのだ、明日牛尾や蛇神に自慢するのだ)
と思いました。
そして、
(塾通いも悪くはないのだ)
とも思いました。
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