「シバアオイホラーショー」
「こんばんは、インテリジェンス猿野です。今、私達は想像を絶する場所におります。元凶の沢松さんコメントをどうぞ。」
会議テーブルの下で猿野が横の沢松に空気マイクを手渡しました。
「沢松です。まさかこんな事になるとは予想してませんでした。我々はどうなるのでしょうか」
「どうなるのでしょうか、じゃねーよ!どーすんだ!」
キレた猿野がインテリジェンスの仮面を脱ぎ捨てて、胸ぐらをつかみかかりました。
「俺だって困ってるつーの!」
沢松も伊達眼鏡を脱ぎ捨てて応戦します。
「二人共うるさい。見つかっちゃうじゃん!」
そんな二人にロッカーの影に隠れてた兎丸が怒りました。
「そうです。仲間割れをしてる場合じゃありません」
「わかったか、単細胞」
「犬飼くんもです!」
オフィスデスクの下に隠れている、辰羅川が犬飼を注意し、
「ある意味仲間割れってお約束でいいけどな」
回転椅子をグルグル回して遊んでる御柳が可笑しそうに言いました。
しばらくそんな感じでガヤガヤしてましたが、
「みんな静かに!」
入り口近くに隠れていた子津の声に緊張が走りました。「・・・・子津。来たのか?」
猿野が静かな声で聞きました。
「・・・・多分。小さくっすけど、ドアの開く音がしたっす」
子津の返事に、御柳は回してた椅子を止めその影に隠れました。
他の皆もそれぞれの場所で息を潜めています。シーン
やがて、ドアが静かにスライドし一人の人物がゆっくり入って来ました。
司馬です。
寝巻きがわりのジャージを着た普通の司馬でした。片手にオノを持ってる事を除けば。
腹から胸にかけて何か赤黒い染みがある事を除けば。
サングラスの下の目が赤黒く光っている事を除けば。斧装備の司馬はぐるーっと室内を見回し。
皆の姿を探しましたが、見つからず。
グシャ
腹立ち紛れに電話機ひとつ斧でぶち壊し、部屋を去りました。・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
「・・・・・行ったか?」
「・・・・行った?」
「行ったみたいっすね」
「おーい。出てこい。行ったみてーだぞ」
「マジで怖えー」
「どうもあまり細かい所には注意をはらわないみたいですね。お陰で助かりましたが」
「そんな所は司馬だな」
脅威が去り、とりあえず皆で大テーブルの下に集まります。
「沢松。もう一回説明書読んでみろよ」
「・・・ああ」
沢松がポケットから折り畳まれた紙片を出して広げました。【夢丸薬 ーその使い方と効能ー 販売元・緋勇製薬】
《効果》この丸薬を飲めば、貴方が心の中で憧れてるシュチエーションの夢が見られます。更にその夢に他の人達も参加させる事が出来ます。《使用方法》
@まずタブレットを2つに割ります
A割ったタブレットの青い方を夢を見る人が食べます
B残りの赤い方を参加する人が食べます(複数の場合はその数割りましょう)
Cあとは、そのまま寝ます注意・一度夢の中に入ると見ている人が目覚めない限り出られません
効果の強い薬です。必ずお互いの合意の上で使いましょう
あくまで夢の中の話です。何が起きても現実世界に持ち込むのは止めましょう『はぁぁぁぁぁぁーーーーーー』
最後の注意を読んで、全員が溜息をつきました。そもそもの発端は沢松がネットでこの怪しい丸薬を手に入れた事でした。
手に入れたこの丸薬を、沢松と猿野が面白がって黙って司馬に飲ませました。
そして、それに興味をもった他のメンバーが残りを飲みました。
で、現在に至ります。そう、ここは司馬の夢の中なのです。
ホラー映画大好きの、クリーチャー大好きの、そんな男の夢の中なのです。
確実に掴まれば殺られます。「いくら夢の中でもなー・・・殺されるのは嫌だよな」
沢松の言葉に皆が頷きます。
「とりあえず、司馬の目が覚めるまで逃げ回るしかないか・・・」
犬飼の言葉に辰羅川が不安な表情で返しました。
「・・・・逃げ切れるんでしょうか。見たところ、司馬くんは息も切れてないようですし。歩いてるわりには移動速度も速いようですが」
「それがホラー映画のお約束っしょ」
どこか人を小馬鹿にした感じの御柳の言葉に犬飼の眉が上がります。
そんな空気にとっさにフォローを入れたのは子津でした。
「と、とりあえず司馬くんは行ったし。僕達も少し休もうっす」
「そうだね。夢の中で言うのも変だけど僕疲れたよ」
兎丸がゴロンとカーペットに横になりました。
他のメンバーも体を休めようかとした時、御柳が思い出したように言いました。
「あ、そっか。ここどっかで見た事あると思ったら。ゲームだ」
「なになに?なんのゲーム?」
ゲームという単語に兎丸が飛び起きて聞きました。
「何か言うホラーゲーム、ヒロインが机の下に隠れてて。安心した途端にFAXが動くんだよ」
ヴッヴヴヴヴヴヴ・・・・・・
その言葉に反応するように机の上のFAXが動き出しました。
「・・・・ちなみに、その後は」
全員が嫌な予感を感じつつ聞きました。
「・・・・FAXには『今、貴方の後ろに居るの』って書かれてて・・・見た途端にデカイハサミでグサっと・・・逃げろ!!!!!」
御柳の言葉に全員が机から転がり出ました。
その後ろで机が無惨に真っ二つにされました。
「司馬が出たー!!全員避難!!!」
後ろを見ずに全員が手近なドアにダッシュしました。
兎丸、御柳、猿野、犬飼、子津、辰羅川、沢松の順番でドアをくぐり。
先に続く不気味な長い廊下を走りました。
「どこまで続いてんだ。この廊下」
それはあまりにも長い廊下でした。
「・・・長すぎですね。先が見えませんよ」
「うわー、この灯り気持ちわるい・・・」
天井にぶら下がる電灯を見て兎丸が嫌そうに言いました。
風も無いのにブラブラ揺れてる電灯は確かに不気味でした。
それを言うなら、全体に薄汚れた壁も、隅に固まってるどす黒いゴミの固まりも、どこかベタベタした床もすべて薄気味悪い物でした。廊下を走って、走っていましたら。
「何かピアノの音が聞こえるっす」
どこからかかすかにピアノの音が聞こえました。
「あ、あの部屋だよ。誰か居るのかも」
そのドアを開けようとした兎丸を御柳と沢松が止めました。
「馬鹿。お前あの映画観てないのかよ」
「なに?あの映画って」
「いいからこの部屋は止めとけって。スプラッタな物見たくないっしょ?」
そのままピアノの音を無視してまた長い廊下を走りました。今度は突き当たりにエレベータがありました。
「なあ、これで別の階に行けるんじゃね?」
ボタンを押そうとした猿野を、御柳が蹴り、さらに沢松がラリアットしました。
「なにすんだ!!」
「この映画はお前も一緒に観ただろ!」
「血の海走りたいなら止めねーけど」
「あ?・・・・ああ!」
理解したのかそれ以上文句を言わずまた走り出しました。
「さっきの何だったんでしょうね」
「知らん。けど、ホラー映画の何かだろ」
ホラー映画の何かです。そのまま走り続けておりましたが、夢の中とはいえいい加減疲れてきました。
「疲れたー」
と兎。
「って言うか音符くん来てるか?」
前向いて走りながら松。
「遠ーくに居るっぽい」
後ろ走りで猿。
「油断してると前に来るけどな」
半笑いで柳。
「とりあえず、どっかドア入ろうぜ」
一生懸命走りつつ犬。
「では、あのドアにしましょうか」
一個のドアを指さして龍。『せーの!』
全員の体当たりで開けたドアの先にあったのは、
濁った水が満たされている大きな水槽があり、
子ヤギでも隠れてそうな置き時計が置いてある、
ゆるやかなスロープのついた階段に続く、
広い広い玄関でした。「・・・弟切草(ゲーム)だ」
兎丸の言葉に全員が頷きました。
「って事はあの先は外か?」
猿野が階段と逆の方向の扉を指さしました。
「外出たから助かるってものでもないよな」
犬飼が不安げに言いました。
「出ないよりマシ・・・いや、出た方がマシ・・・」
辰羅川がブツブツと呟きました。
「なーなーどうでもいいけどシバちゃん来たぜ」
「先に言えよ!!」
御柳の言葉に一も二もなく外に飛び出しました。
ザッと庭に降り立ち。
思った事は
(出るんじゃなかった)
でした。なぜなら、庭が全部お墓だったのです。
「墓ーーー!」
兎丸が泣きそうになりました。
「どうでもいいけど、基地と墓地って漢字似てるよな」
「本当にどうでもいいな」
猿野と沢松がくだらない事を言いました。
「とにかく行こうぜ。シバちゃんがドア壊して出てくる前にさ」
「ですね。あの扉では斧の攻撃は防げないでしょうし」
辰羅川の言葉通り、皆の後ろでドアが刻々と木片になろうとしてました。
「よし!行くぞ!!」
気合いを入れ足を踏み出した皆でしたが。
グンニャァ・・・「気持ち悪い〜」
「腐葉土を踏んでる感じですね」
「走りにくいにも程がある!」
口々に文句を言いながらも走っているメンバーでしたが、嫌な予感はつきまとい。
先頭を走っていた兎丸が派手に転けた時それが現実となりました。
「イタッ!」
「大丈夫か?」
「根っこにつまづいたんだよー」
と言って見てれば、それはもちろん根っこなどであるはずもなく。
「・・・・・・手」
「・・・・・・手」
「・・・・・・手だよね」
兎丸の足をがっちり掴んでいるのは、青い白い爪のバリバリに割れた手でした。「「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」」」」」
6名分の悲鳴が合図でもあるように、あちらからこちらから、墓の下で眠っていた(元)人間達が起きてきました。
「ゾンビ!」
「あーそいやーこの墓場。見た事あるわ」
「アニメだよな。顔四角の」
「そうそう」
どこか余裕のある、沢松と御柳です。
「そんな事言ってる場合か!」
「掴まる前に逃げるぞ!」
犬飼の言葉に御柳が突っ込みました。
「どこへ?」
「・・・・えっと・・」
「こんな場合はさっきの洋館しかねーだろ。コゲ犬もフーセンガムも走れ」
いざという時はリーダーシップを発揮する、流石はジャンプ系主人公の猿野の号令で皆はまた元来た道をダッシュしました。走って、走って、走って、
逃げましたが、途中で子津が掴まりました。
「あー!子津!」
「子津くんがゾンビまみれに!」
「助けて下さいっす!!!」
大勢のゾンビに群がられて必死の子津です。全員に助けたい気持ちはあります。
ですが、相手はゾンビです。
要は「腐乱死体」です。
正直素手で触りたい物ではありません。「・・・・・・・・・・子津。頑張れ」
猿野の言葉を皮切りにして、
「うん。子津くんなら頑張れるよ」
「何だかんだ言っても夢の中だしな」
「とりあえず、頑張れ」
「子津くん。ファイトです」
「まー頑張れよ」
各各、身勝手な言葉を置きみやげにそこから逃げ去りました。「ヒドイっすーーーーーーーーーー」
後に残る子津の叫びと、シャクシャク言う音は聞かなかった事にしました。
「セーーーーフ」
「良かったー。無事に帰ってこれて」
すでに一人欠けてるのでセーフではない気もしますが、とりあえず洋館に無事帰り着きました。「静かにな・・・・」
司馬が居るかと思い、恐る恐る中に入りましたが、玄関ホールは静かなものでした。
「シバちゃんどこ行ったんかな?」
「とりあえず出てくる前に場所移動するぞ」
「へいへい」
移動移動と水槽の前を通った時、何気なく御柳は横の水槽を見ました。
水槽には当たり前ですが、御柳の顔が映っています。
それがグニャっと歪みました、気付きました、(これもお約束だ)と。ガッシャァァァァン
次の瞬間には、水槽から飛び出してきたチェーンソーに左肩をもっていかれました。
流石は夢の中。
痛みはありません、ありませんが、床にボテっと落ちた左手は生々しく。
おまけに何故か切り口からはカイワレ大根が生えておりました。
よく見れば、赤い液体も血ではなくトマトピューレでした。
(夕飯!今日の夕飯のカイワレ大根と油揚げのサラダ風スパゲッティー!トマト味!)
下姉の力作です。
そして、そんな事を考えていた為、水槽から出てきた司馬に気付くのが遅れました。
「・・・・・・・・」←にんまり
「やあ、シバちゃん」
頭から汚れた水を滴らせ楽しげに笑う司馬はまさにクリーチャーでした。
グォン!
容赦のない一撃で、御柳の上半身と下半身がさよならしました。
そのまま床にダウンした御柳でしたが、意識はありました。
しかし、司馬の中ではもう獲物外のようで御柳はそのまま放置されました。「うわー!こっち来るな!司馬!」
「シバくんアッチアッチ!僕以外を狙ってよ!」
「上に逃げるぞ!急げ!」
二階に逃げる残りメンバーとそれをゆっくり追いかける司馬を、床にへばったまま見てる御柳でした。
「後は頑張れなー・・・ってシバちゃんの目が覚めるまで俺このまま放置?」
(それもちょっと退屈?)などと思っておりましたら、そんな思いを吹き飛ばすように玄関のドアがバン!と開きました。
「あ?」
何とか起こした上半身で見た物は先程のゾンビ集団でした。
「うーわー、マジかよ」
ゾンビ達は死体の御柳には興味が無いようでスルーして二階を目指しました。
ただ、顔見知りの彼は御柳に近づいて来ました。
「御柳くん。何のんびりしてるっすか。今度は僕達が追いかける番っすよ」
所々噛み千切られ、青白い顔をした子津がそう言って御柳を担ぎ起こしました。
「第二ラウンド開始?」
「そうっす」
死体特有の動きになった子津と、上半身のみになった御柳。
二人は笑って二階を目指します。
まだまだ夢は続きそうです。
ウチの司馬はホラー映画が好きです
私はホラー映画は怖くて見れません
でもパッケージの裏のあらすじを読むのは大好きです
作中に出てくるホラー映画の何かは、実際その映画観た事ないので聞いた話から(テキ◆スチェー◆ソーとシャ◆ニング)
タイトルは「グレゴリーホラーショー」から
これの二夜目を見逃しているのが心残り
またケーブルでやらないかしら
ちなみに、この話の中で司馬は普通に夢を見てるだけだと思っています
明日、学校で会っても普通です。話題にすらしません
この後、司馬とゾンビ子津と半分御柳に皆は殺されました
司馬は目が覚めるまで惨殺を続けました。多分チェーンソー持って躍ってると思います
人の欲望なんて見るものじゃありません(教訓)