「鳩」
花の日曜にする事も無くて、だからと言って家でゴロゴロしてるのもつまらなくて、中学からの親友に電話してみれば、
“・・・アラ久しぶりね、犬飼くん。ごめんなさい、信二図書館に行ってるのよ”
と言っておばちゃんにやんわり断られた。
「・・・・・つまんねー」
寝転がった俺の目には嫌に成る程青い空が見えて、行くあては無いけど出かける事にした。
日曜が晴れてるのはイイ事だ。
でも出かけるあてが無いときはちょっとうっとおしい。
(せめて雨なら家で寝てんのにな)
ブラブラと歩いているとわりあい大きい公園に着いた。
(こんな所に公園あったんだな)
そのままブラッとそこに入っていった。
(定番)親子連れ、(トリアエズも連れて来てやれば良かった)犬連れた人、(金無いのか?)カップル、(光合成でもしてるのか?)老人、(今時フリスビーか?)若者達、んで青い頭の鳩に囲まれてるチームメイト(・・・は?)。
「・・・・・司馬?」
司馬葵。クラブのチームメイト。ショートで子津曰くT守備の鬼U。
間違えようもないトレードマークは青い髪の毛とサングラスとイヤホン。
でも今は目の前でどこぞの銅像みたく鳩に囲まれている。
正直あまり喋った事が無いので、そのまま無視しようかとも思ったが、司馬の現状があまりにおもしろかったので近づいた。
バサバサバサバサ!!!!
俺が近づいた所為で鳩が1羽残らず飛んでいったが司馬は別段気にも止めていないようだった。
「よう」
「・・・・」
声を掛けると軽く手を上げた。
手にはポップコーンの袋が握られていた。
「鳩にエサやってんのか?」
「(こくこく)」
隣りにドッカと座ったが司馬は別にコッチの方を見ようともせず、鳩が去っていった方を眺めていた。
「鳩逃げちまったな」
「(ふるふる)」
司馬が頭を振ったのが合図のように1羽鳩が戻って来た。
あとは、なし崩し的に先ほどまでの鳩がやって来て、また周りは鳩天国になった。
司馬は当たり前のように手にしたポップコーンを蒔いてやる。
図々しい何匹かは直接司馬の腕に乗って袋に頭を突っ込んでいた。
(前に見た映画でこんなシーンあったな)
それはアニメ映画で主人公とヒロインが鳩に囲まれて餌をあげているシーンで。
(その時は微笑ましいシーンだと思ったんだけどな)
実際目の前で行われると、微笑ましいというよりは鳩に襲われている印象を受ける。
とくに司馬は無表情で楽しいのか嫌なのかも解らない為余計にそう見えるのだろう。
「鳩好きなのか?」
「(首を傾げる)」
「・・・嫌いなのか?」
「(首を傾げる)」
(・・・・・わかんねぇ)
こんな時、コイツの通訳のスバガキが居たらと思う。
ガリガリ・・・ガリ・・・
見ると司馬が地面に字を書いていた。返事らしい。
T鳩は騒がしいU
書かれた司馬の言葉に犬飼は一瞬あっけにとられた。
確かに今自分達の周りは鳩の鳴く声で一杯だ。
しかし、この状況にしたのは他ならぬ司馬自身なのだ。
(変な奴)
と思ったが、少し司馬に興味も出たのでそのままソコに居る事にした。
クルックー、クルックー、ク、ク、ク、ク・・・・
(鳩って本当にクルクル言ってるな)
勝手にポップコーンをつまみながら(司馬もやりながら食べている)司馬と鳩を観察した。
司馬は完全に無表情で、頭に鳩が止まっても素知らぬ顔をしていたし、鳩も鳩で無表情なもんだからなかなかシュールな図だと思った。
「なあ、司馬。何で餌やってんだ?」
聞いてみると司馬はまた地面にゴリゴリ書き始めた。
TぼーっとできるからU
「・・・・・・ふーん。お前って暇人だな」
ちょっとムッとされたようだったが、無視。
そしてコイツらしいと思った。
つんつん、と肩をつつかれて見れば司馬がコッチを指さしていた。
想像するにこれは「じゃあ犬飼は何でココに?」って感じだろう。
「俺はまぁ、暇潰しだな」
そう言ったら司馬が笑ったので、「自分も変わらないじゃないか」って事だと思う。
で、また二人でぼーっと鳩にエサをやった。
夕方になると鳩はどっかに飛んで行った。
鳥目だからもう巣に帰るんだろう。
司馬も腰を上げたので帰るのかと思ったら、まだどこかに行くみたいだった。
ついて行く事にした。
向かった先は小さな噴水のある場所で、司馬は今度は噴水の縁に腰をかけた。
「また何か来るのか?」
「(こくこく)」
聞いても頷くだけなので、自分も腰掛けて待つ事にした。
いい加減暇人だと思う。
待つ事数分。
尻尾と髭を持つ客人が多数やって来た。
ニャー・・・
頭をスリ寄せてくるソレに司馬はまた無表情で煮干しを蒔いてやる。
俺の手にも数匹乗せてくれたので、ソレも猫にやった。
それから司馬と俺は煮干しの袋が空になるまでソコに居た。
「あの程度の煮干しでたりんのか?」
帰り道に司馬にそう聞いたら、自分の他にも餌をあげる人は居るから大丈夫と紙切れに書いた。
「毎週行ってるのか?」
「(こくり)」
暇は時はいつも行っているらしい。
「餌とか決まってんのか?」
「(ふるふる)」
T適当に。家にある物U
この辺が司馬らしいと思う。
T雀も来るし、慣れると楽しいU
こっちから見る限り楽しそうには思えなかったけどな。
「ん?」
見ると司馬がジッとコッチを見ていた。
サングラスの向こうの目が、
Tお前もする?U
と聞いていた。なんでか解った。
(・・・ああ、スバガキはこうやって話してんのか)
家の犬と会話するのと似てるなと思った。
こっちが色々考えてるウチに司馬は諦めたというか「ま、いいか別に」みたいな気になったらしくもうコッチは見ていなかった。
自分で振っておきながら非道い奴だと思った。
だからこんな提案をしてやった。
「餌を蒔く方じゃなくて、蒔いてくれる方だったらいいぜ」
「(首を傾げる)」
「だから俺に餌を寄こせって事だ。コーヒー牛乳と食パン。そんくらい有るだろ?
だったら行ってやる」
もちろん冗談で言った。
でも司馬は少し考えて、オッケーサインを出して来た。
んで、笑った。
ちょっと親近感が沸いた。
「雪印のやつだぞ」
司馬は大丈夫だと頷くと自転車に乗って帰って行った。
次の日練習で会った司馬はいつもの司馬で昨日の事など忘れているかのようだった。
でも、週末には公園でちゃんとコーヒー牛乳と食パンを用意して鳩に餌をあげていた。
どうやら俺は司馬に餌付けされたらしい。
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