「電脳魚遊戯」
「葵、これあんたのヨーグルトだっけ?」
と言って入った部屋には固まったPCと固まった・・・・・弟?
キーボードに手を置いたままどうも固まっている気がする。
大変、する。
「おーい?」
肩を持ってガクガク揺すってみたらキーボードから手が落ちた。
「すぅぅぅぅ・・・わぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
耳元で大声出してもウンともスンとも。
ガクガクガクガクガク・・・・・・・・・
(肩を揺すり続けている)
「さーってどうしたもんか」
ガクガクガクガクガク・・・・・・・・・ゴテン(椅子から落ちた)
落ちても固まったまま。
「だめだこりゃ」
「お父さーん。葵が変よー」
階段の上から父を呼ぶ。
ドドドドドドド・・・・・・・
「なんだとぉぉぉぉぉぉ」
「えーーー葵ちゃんどうしたのーーーー」
葵キチが二人でやって来た。
葵キチ=葵キチガイ
「葵がフリーズしてる」
床に転がる葵を指さして答える。
「おや」
「わー」
二人して葵の手やら足やらブラブラして遊んでいるがやっぱり反応無し。
「どうしたんだコレ?」
「知らない」
と言うか知ってたら呼ばない。
「わーい。リボン着けちゃおー」
妹は呑気だ。
「ふーーむ。葵が固まるのはいつもの事だけど。今回は少ーし変でないか?」
「変。凄く」
今回はフリーズっちゅーより完全に死体。
「お姉ちゃんー。発見ー。あたしー発見しましたー」
「何?」
「コンピューターの画面ーー」
葵の頭にリボンを巻いて遊んでいた妹がPCの画面を指さした。
「ん?」
見てみると、
エラー番号・6013
システム作業中にユーザーの精神がLOSTしました
至急サポートセンターに連絡して下さい
サポートセンター・TEL**-***-****
『・・・・・・・・・・・』
なんじゃこりゃ。
「・・・・とりあえず電話してみるか」
お父さんがイマイチ納得出来ない顔で電話を掛けた。
と言うか本当に何だコレは。
「・・ええ・・はい・・・番号は6013です・・・はい、はい・・・えー15歳、男・・・好きな物ですか青い色が好きですね・・・はい解りました・・・娘を行かせますので・・要る物とかありますか・・・はいはい、バケツと・・・解りました」
電話を切ったお父さんがこっちを見て言った。
「お姉ちゃんS。膝まで水に入っても大丈夫な格好に着替えて、バケツ持ってココに葵を引き取りに行って来なさい」
「はい?」
何ですと?
「はい、メモ」
渡されたメモには
持ち物・バケツ
服装・水に入っても可のもの
場所・電脳迷子センター埼玉支部
と書いてあった。
「ねーこれってーセパレーツの水着の上に短パンとカットソーで良いのよねー?」
「良いんじゃない?」
「早く行って来なさい。お風呂に水張って待ってるから」
言ってる意味は解らないけど、聞いても無駄なので身支度整えてそのT電脳迷子センターUやらに向かう所にした。
わりと近くだったので妹と歩いて向かった。
だだっ広い敷地の奥にその建物は建ってた。
見た目地味な3階建てのビル。
所々剥げたペンキが貧乏臭い。
門の所に看板が出てなければ多分見過ごしていた。
と言うかこの道、大学に行く時よく通るけど気にした事なかった。
「地味な建物ー。この道よく使うけどーこんな建物あったっけー?」
「同感だけど口には出すな」
もう敷地内に入ってると言うに。
入ってすぐの受付で名前を言ったらすんなり通してくれた。
「通路を奥に行って頂きまして。A-03と書かれた扉の中に係りの者がおりますので、詳しい説明はそちらでお聞き下さい」
言われた通り通路を奥へと進んで行く。
建物の中は以外と綺麗で壁にお知らせとか新聞とかが貼ってあって市役所みたいだった。
「A-03発見ー。お邪魔しまーす」
「コラ!ノックしなさいって」
勝手にドアを開けて入ってしまった妹を追いかけて私も中に入った。
「わー」
「うわっ」
中はとにかく広くてだだっ広くて、隅に机と椅子がポツンと有る以外は何にも無かった。
否、真ん中にポカンと空いたプールがあった。
「プール?」
のぞき込むと浅く水が張ってあって、魚が沢山泳いでいた。
「生けす?」
(にしては見た事無い魚ばっか)
「ははは、どっちも正解で間違いですねー」
後ろから爽やかな声がして振り向いたら地味な色のつなぎを着た係りのお兄さんが立ってた。
「えーっと司馬さんですね?」
係りの人は手元のカードを見ながらそう聞いた。
「はい、父が電話をしてたと思うんですが」
「ええ、お伺いしてますよ。説明ご入り用ですかねー?」
「お願いしまーす」
「出来れば」
部屋の隅の椅子に座って説明を聞いた。
「よくネットとかしてると自分で感じてるより異常に沢山時間が経ってる事ってありますよね。ちょっと10分のつもりが1時間とか。そんな時精神がLOSTしてるんですよ。簡単に言うとT電脳の海で迷子Uになってるんですね。普通は自力で戻ってるんですけどたまに戻れない人が居てね、ここはそんな人達を保護してる場所なんです」
言ってさっきのプールを指さした。
「あそこで魚の形してる物ね。あれがそのユーザー達の精神なんですよ。なんで魚なのか解らないんですけどねー。大きさとか色もバラバラだし」
はははと何が楽しいのか軽く笑った。
「とりあえず引き取りに来て貰えると助かりますよ。たいがいの人はそのままでねー。体の方はどうなってるのか、他人事ですけど気になりますしね」
そうは言うが全然気にしてる感じじゃなかった。
「じゃあ、さっそくですけど入ってもらいましょうか」
プールの端の短い梯子を降りて中に入った。
膝下までの水で何やら肌にピリピリする。
「なんかー弱い電気風呂みたいー」
妹がピッタリな表現をした。
正にそんな感じ。
「あー電脳ですからー。ははは」
係りは上からそう言って笑った。
さっきから思うがなにか胡散臭い人間だ。
魚は私と妹の周りを好き勝手に泳いでいる。
こんな中からどうやって探せばいいのやら。
「この後どうしたら良いんですか?」
「あー適当に捕まえて下さい。じゃあ、僕は仕事してるんで終わったら声掛けて下さい」
「「・・・・・・・・・・・」」
言ってどうやら隅の机に行ってしまったようだ。
「・・・・お姉ちゃん。言っちゃなんだけど・・・適当な仕事よね」
「・・・・考えるな。これがお役所仕事ってやつよ」
(くそー年金高いクセにちゃんと仕事しろよ)
赤・青・黄・緑・黒・白・銀・金・虹色・パール色・スケルトン・・・・・。
熱帯魚のように派手な魚、川魚みたいな地味な魚。
マグロみたいに大きい魚、メダカくらいの小さい魚。
速く泳ぐもの、平目のようにじっとしてるもの。
魚、魚、魚、魚・・・・・・・。
「この中から葵を探せって言われてもねー」
そもそも葵は魚で無いし。
魚の顔など同じに見えるし。
「コイツー!私の足噛んだー!」
妹は向こうの方で網を振り回してるし。
(本当に見つかるのか?)
「はぁーーーーー」
思わず壁に向かってため息なんぞを付いてしまった。
「あー見つかりませんかー」
頭上から爽やかではあるが腹の立つ声が。
「コレどうやって見分けたらいいんですか?」
むかつくが聞いてみる。
「解らないならどれでも好きなの持って帰ってもらって構いませんよ?何入れても体は動きますし」
(・・・・・・・待て)
「動けば良いのか!そんな問題か!」
「葵はねー。確かに性格良いとも言えないし、喋らないし、何か頑固だし、野球の守備しか取り柄ないけど、私の弟なの!見た目だけ葵の物体なんか要るか!」
「そうよー!」
「ははは、良いですねー姉弟って」
パチパチ手を叩かれた。
(本当に言う事なす事腹立つ男だ)
「じゃあ、さっきからずっと貴方の足下で八の字運動してる魚を持って帰ったらどうですか?」
(・・・・足下?)
のぞき込んだら確かに私の足の間をグルグル回ってる魚が居た。
鮮やかな青い、尾の長い魚だ。
「・・・・・・・葵?」
呼んだら今度は逆方向に泳ぎ始めた。
「YES」のサインだろうか・・・・。
・・・・・と言うか、
「さっきからっていつから!」
「え?お嬢さん達がプールに入ってからずっと」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
「もっと早く言えや!!!!!!」
チャポン・・・・
葵(らしき物)をバケツに入れてやっとプールから出て来れた。
「・・・・どうもお世話になりました」
「お嬢さん声にドスが効いてますよ」
「気のせいっすよ」
「家に帰ったらそのお魚と体をお風呂にでも一緒に入れて下さいね。その内中に戻りますから」
最後まで適当な説明だ。
「質問ー。ここの職員さんて皆貴方みたいに不真面目なんですかー?」
(ナイス!妹)
「あー僕だけですよーははは。当たり悪かったですねー」
ドコ!ガス!ボカ!(鉄拳制裁中)
建物から出たらすっかり日も落ちて真っ暗だった。
「あー疲れた」
「葵ちゃーん。もう迷子になったら駄目よー」
妹がバケツをのぞき込んでそう言った。
返事の代わりに魚がパシャンと中で跳ねた。
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