「DATE」

 日付、年月日、期日、
 会う約束、
 あいびき(の相手)

 「犬飼くん。コレをどうぞ」
 なぜか上機嫌の辰羅川が差し出したのは映画のチケットだった。
 「・・・・・・これがどうかしたのか?」
 ご丁寧に2枚あるそれを目の前でピラピラ振りながら俺は訪ねた。
 「言っとくが、もうお前と恋愛映画なんて観に行かねーからな」
 過去に俺は辰羅川にT将来きっと役に立つはずですUとか何とか言われてラブストーリーをぶっ続けで3本も観せられた。
 どれを見ても代わり映えしないストーリーであれは完全に拷問だった。
 (周りはカップルばっかりだしよ)
 「ああ、これは違いますよ。それに犬飼くんに恋愛映画は馬の耳に念仏だと解りましたから」
 さらりと非道い事を言うなコイツは。
 「この映画、司馬くんが見たがってるらしいんです」
 「・・・・・で?」
 司馬が見たがっているなら司馬を誘えばいいだろう、なんで俺なんだ?
 「ほんっっっっっとうにバカですね貴方は。私が行っても意味がないでしょう。貴方が誘うのですよ司馬くんを」
 ・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・は?
 「幸い本日は兎丸くんが休みです。ちゃっちゃと行って誘って来て下さい」
 「ちょっちょっと待て!心の準備が」
 「貴方のそんな物を待ってたら来年になります」
 辰羅川はそう言うとぐいぐい俺を押して行った。
 なんでこんな時だけ力があるんだ。
 「さ。行ってらっしゃい」
 思い切り背中を押されて俺はケンケンのまま司馬の前まで行ってしまった。

 
 「あ、ガングロくんなのだ」
 「(ふりふり)」←こんちわ
 司馬の側にはなぜか鹿目先輩が居た。
 「どうしたのだ?何か用なのだ?」
 いや、アンタには用は無い。
 なんて言える訳もなく、俺は思わず口をつぐんだ。
 「いったい何なのだ?今からぼく達はUFO(アダモスキー型)の召還をするのだ。用が無いなら消えるのだ」
 ・・・・何してんだこの2人は。
 いや、司馬ならありえるか。
 ってそんな場合じゃない。
 UFOの召還が終わるまで待ってたら何時になるんだ?
 つーかこのテンションの内に誘わないとマジで来年になる。
 意を決して鹿目先輩に声を掛けようとしたら、
 「エクスキューズミー、鹿目先輩向こうでキャプテンがお呼びでしたよ」
 「牛尾が?何なのだ一体」
 辰羅川の伝言を聞いて、ぶつぶつ言いながら鹿目先輩は向こうに消えて行った。
 (サンキュー辰羅川)
 (ドンマイですよ。犬飼くん)
 ああ、持つべき物は親友だ。

 「・・・・・」←鹿目先輩が居なくなってしまった
 「・・・・・」←次の機会にしよう
 フト気づけば司馬はさっさと怪しい道具を片づけて立ち去ろうとしていた。
 ヤバイ、ヤバすぎる。
 ここで帰しては辰羅川の機転もパーだ。
 「司馬!」
 思い切って呼び止めた。
 「・・・・・・」←何?
 「あ、あああのな・・・・それで宇宙人呼べるのか?」
 ああ、俺は何を聞いてるんだ。
 「(こくこく)」
 司馬はご丁寧にもその変な道具(何だろうラジオの中身に似ている)について地面に字で説明してくれた。
 T今日はちょっと近くまで呼ぶからこの道具を持って来たんだけど、本当はコレより****(読解不可)の方が電波が強いのでとても宜しいU
 司馬の文脈はちょっとおかしい。
 「鹿目先輩と仲良いのか?」
 ついでに気になった事も聞いてみた。
 T鹿目先輩は宇宙線と波長が良いみたいだと思う。彼と居ると電波が強いのでラジオノイズが拾いやすい。良い事ですU
 ・・・・・よく解らん。

 
 コンッ

 
 後頭部に何か当たったので振り向くと辰羅川が(何してるんですか貴方はーーー)って顔して立っていた。
 そうだ、映画に誘うんだった。
 「司馬」
 まだ地面に何か難しい事書いてる司馬を止めた。
 言うぞ。
 言うぞ。
 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・
 言えねぇぇぇぇぇぇぇぇ。
 俺は三国一のヘタレだ。
 死のう。

 ジーーーーー
 何か凄い視線を感じるので見たら、司馬が俺の握りしめてるチケットをジッと凝視していた。
 「(ジーーーーーーーーー)」
 「コレ見たいのか?」
 聞いたらもの凄い勢いで頭を上下に振られた。
 「(こくこくこくこく)」
 Tその試写会取れなかった。犬飼取れて良いなU
 辰羅川がくれたのは試写会のチケットらしいとその時初めて気づいた。
 ジーーーーーーーーー
 司馬はジッと見ている。

 (言え!)
 (言え!)
 (今だ!!)
 脳の中でGOサインがチカチカした。

 「・・・・その、良かったら行くか?2枚あるし」
 「(にこにこにこにこ)」

 犬飼冥WINER!

 後ろを見たら辰羅川がプラトーンのラストの格好をして喜んでいた。
 (実際はアレは喜びのポーズじゃないが)

 
 「じゃあ、日曜。昼頃待ち合わせて行こうぜ。予定大丈夫か?」
 「(こくこく)」
 「んじゃ、日曜な」

 司馬がてくてく嬉しそうに歩いて行くのを見送って辰羅川にVサインをした。
 「やったぞ辰!」
 「グレイトです!思わず目頭が熱くなりましたよ」
 しかし、問題はある。
 「辰・・・当日邪魔が入ったらどうしたらいい・・・」
 「相変わらず心配性ですね貴方は。ノープロブレムですよ。運命の神もそこまでは手がまわりませんよ」
 ふふふふ・・・・と不敵に笑う辰に思わず背中が寒くなったがこうなれば出た所勝負だ。
 「モミアゲくん!なに僕を騙してるのだ!ちょっとコッチ来るのだ!」
 鹿目先輩が怒りながらこっちに走って来たが、俺は無関係を装った。


 そして日曜日。
 待ち合わせの場所に10分前に着いたがすでに司馬は待っていた。
 「悪い。待たせたか?」
 「(ふるふるふる)」
 司馬は俺と遊びに行くというよりは、映画が楽しみで楽しみでしょうがないといった感じだった。
 (まーしょうがないか)
 それはそれとして俺は頭を切り換えた。
 「・・・とりあえず、映画が始まるまだまだあるし、先にメシ食っとくか?」
 「(こくこく)」
 司馬は頷いて、持ってたメモに何か書いて寄こした。
 T映画が映画だから麺類は止めておこうU
 「・・・・・・?」
 なんか良く解らなかったが、とりあえず近場のモスに寄った。

 
 「今日晴れてよかったな」
 Tあんまり日差しがきついと困るU
 「ああ、日光苦手だったよな」
 T正しくは紫外線U
 「プールとかは駄目なのか?」
 Tたまにホテルのプールに行く。下姉が連れてってくれるU
 「・・・・・リッチだな」
 Tお金は知らない人が払ってくれるU
 「・・・・・誰?」
 T下姉が引っかけて来た奴U
 「・・・・・・」
 何かヤバイ会話になってきたので(丁度食べ終わった事だし)ここで終了。

 
 映画は何か古ぼけたビルの地下でやるそうなのでそこに向かった。
 会場のホールには結構な人が集まっていて混雑してた。
 「わりと人来てるんだな」
 T試写会しても劇場公開するかは解らない時があるから。ファンはチェックするU
 「ふーん」
 映画の事はよく解らないのでそんなもんかと思った。
 チケットを渡すと携帯ストラップを貰った。試写会用らしい。
 四角い透明ブロックにウネウネした白い糸みたいなのが入っていた。
 「なんだこれ?」
 T寄生虫U
 「・・・・・・・寄生虫?」
 T映画に出てくるヤツ。ココ限定。コレも欲しかったU
 「んじゃ、俺のやる」
 気持ち悪いし。
 「(にこにこにこ)」
 また凄い喜ばれた。

 
 T犬飼がこの手の映画好きで良かった。兎丸も嫌いだし。部員では自分だけだと思ってたU
 (・・・・・この手?)
 そこでやっと今日するのがどんな映画か知らずに来てた事に気づいた。
 (司馬洋画好きって言ってたから洋画だよな)
 座席に着いて、ジュース買うついでに何の映画か確認する事にした。
 「司馬、俺ジュース買ってくるわ」
 「(ふりふり)」←行ってらっしゃい
 (確か入り口に何かあったよな)
 小難しい政治物とかだったら嫌だなーとか思ってた。

 「・・・・・・・・・・」
 多分寄生虫で気づくべきだったんだ。

 −貴方の中をくらいたい
 
人知れず飛来した小さな隕石。その中から現れた宇宙よりの寄生虫(パラサイト)
 一人また一人と変貌していく町の人々
 只一人寄生を逃れた女教師の孤独な戦い

 消化器官の深淵に蠢く、蟲、蟲、蟲
 口から鼻から溢れ出す白いサナダ虫
 胎児と共に出てくる大量の回虫
 脳を食い荒らされ変貌した人々
 貴方はこの恐怖の映像に耐えられるか!

 本国ではあまりにショッキングな映像の為、公開中止も相次いだ話題作!
 スプラッタホラーの金字塔!堂々の日本上陸!
 ※心臓の弱い方は絶対に見ないで下さい※
 ※R−15※

 「・・・・・・・・・」
 ボタボタボタ
 ジュースのこぼれる音がする。
 そんな事はどうでも良かった。
 (ヤバイ、マジでヤバイ)
 俺はホラーが大嫌いだ!
 特にスプラッタはマジで駄目だ!

 「(こいこい)」←早く早く
 「・・・・・おお」
 Tもうすぐ始まる。・・・ジュースは?U
 「・・・・・ああ、こぼしたから捨ててきた」
 Tコレ飲む?U
 「いや、いいわ」

 
 ブーーーーーーー

 開始のブザーが鳴った。
 俺は覚悟を決めた。

 
 (・・・・・スイマセン。マジで吐きそうです)
 始まって30分。
 すでに俺は意識を飛ばしかけていた。
 冗談じゃなくグロイ。
 半端じゃなくキモイ。
 口の中が嫌に酸っぱい。
 (・・・・チラ)
 横を見たら目を爛々と輝かしてる司馬が見えた。
 グラサンを取ってるからその楽しげな目がばっちり見える。
 (ああ、これが普通の時ならば)
 今は横を向いてても視界の隙間に入ってくるあの吐きそうな場面に気を取られすぎてる。
 (なんで)
 (なんでこんなのが好きなんだぁぁぁぁぁ)
 俺は心の叫びと共にブラックアウトした。



 ・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・
 ・・・・あ?
 目が覚めたら、そこは劇場の前のホールだった。
 「(ひょこ)」←目が覚めた?
 いきなりドアップで司馬が居たのでビビッた。
 おまけに・・・・・
 (膝枕じゃねーか!!!!!!)
 俺は司馬に膝枕してもらってた。
 「しししし司馬、え?俺どうしたんだ???」
 確か途中で意識が遠く・・・・って失神したのか、もしかして!
 T犬飼が映画終わっても動かないから引っ張って来たU
 (ダセェ・・・最悪だ)
 思い切り落ち込む俺に司馬はにこにこしてメモを見せてきた。
 Tコレは失神しても仕方がない出来だと思う。まさかここまで見せるとは思わなかった。これぐらい凄いと劇場公開無いかもU
 ほとんど見てなかったが後半はもっと凄かったらしい。
 よく見れば他にも青い顔した奴らがホールで休んで居た。
 (良かった俺だけじゃなかったんだ)
 とりあえずホラーが苦手だとは思われなかったようだ。

 T次はもっと軽いのを見に行こうU
 「え?」
 思わず逃げ腰になったが、
 T今日は来れて良かった。犬飼ありがとうU
 ってニコーっと笑われたんでもうどうでも良かった。


 
 月曜日
 「どうでしたか、日曜は」
 朝、バス停で会った辰が勢いこんで聞いてきた。
 「どうって、まー普通にメシ食って、映画観て、買い物して・・・だな」
 失神した事は黙ってた。
 「そうですか、それは良かった。私も兄に頼んで試写会のチケットを手に入れたかいがありましたよ」
 どうやら辰もホラーとは知らなかったらしい。

 「おはよー、2人ともー」
 「・・・・・・」←おはよう
 正門の所で兎丸と司馬に会った。
 「はよっ」
 「グッドモーニング。兎丸くん風邪はもう良いのですか?」
 そう言えば兎丸は風邪で休んでたんだった。
 「もう完全回復。でも3日も寝てたから体ダルイよー」
 ダルイと言いつつも司馬の周りをグルグル走っている。
 どこがダルイんだか。
 「あ、そーだ」
 そのまま兎丸がツツツと近づいて来た。
 「僕が休みの間にシバくんと映画行ったんだって?犬飼くんも隅におけないよね」
 司馬に聞こえないように言う声はいつもの声と違って、そこら中にドスが聞いていた。
 「・・・悪いのかよ」
 「え〜〜?別に悪いなんて言ってないよ。僕あの手の映画全然駄目だし。シバくんも一緒に行ってくれる人が居る方が良いだろうし」
 言葉とは裏腹に笑顔は黒い。
 (絶対コイツ怒ってる)
 「でも、犬飼くんがスプラッタ大丈夫って知らなかったなー。てっきり駄目な方だと思ってたから。・・・・・って言うか駄目でしょ。ホントの事言いなよ」
 最後の言葉はマジでドスが聞いてる。
 お前将来は地上げ屋になれ。
 「・・・・別に嫌いじゃねーよ。お前の勘違いだろ」
 「・・・・ま、いいけどね。そのやせ我慢がどこまで続くか見物だし。シバくんてマジでホラーマニアだからね。今後が楽しみ〜」
 今更ながら兎丸の司馬への執着は恐ろしいと思った。

 「(とんとん)」←兎丸どうかした?
 「あ、シバくん何でもないよ。犬飼くんにシバくんとの映画はどうだった?って聞いてただけ」
 にっこりと黒いオーラを隠して笑う兎に、
 (お前の方がホラーだ!) 
 と思わず叫びそうになった。
 (もしかしてシバはホラー好きだから兎丸と付き合ってるのか?)などとつまらない事も思った。


 
 とりあえず去って行く司馬の鞄にぶら下がってる例のストラップを見ながら、
 (絶対ホラー大丈夫になってやる!)
 と決意を新たにした。

 「辰。TUYAYAの会員証貸してくれ」
 「その意気ですよ犬飼くん!」

 
 今日から特訓だ!
 司馬との明るい未来の為に!





 TかげふみUのこむぎ様よりリクエスト「犬馬でむくわれている犬飼」
 むくわれてない気がするのは気のせいでしょうか・・・・どうもスイマセンです
 しかも、バックをハート柄にしたら何か凄い事に・・・・・・


 ウチの司馬の趣味はホラー映画(特にスプラッタ物)鑑賞です←決定事項
 内蔵系が好きなんだと思います(何を言っているのか)
 調理実習で魚の内臓みて「(おおー)」とか思ってくれてると萌え(だから何を言っているのか)
 逆に犬飼はその手の事マジで駄目だと思います
 怪談話し聞いて夜こっそり電気付けて寝るタイプだと大変良い感じ
 合宿で怪談話し聞いて表面上は平気な顔して内面激ビビリだと萌え(辰にトイレついてきてもらったりとか)
 
 十二支&華武野球部で怪談話とかホラー物とか
 大変苦手な人→犬飼・鹿目・子津
 やや苦手な人→猿野・兎丸・三象・久芒
 全然平気な人→蛇神・虎鉄・御柳
 むしろ好きな人→司馬・朱牡丹
 その手の話しは信じて無い人→牛尾・猪里・辰羅川・屑桐

 ちなみに作者はホラー大の苦手です
 (中途にあるセンスの無いホラー映画はもちろんフィクションです)



 こむぎ様、さんざん待って頂いてこんな物ですが少しでも楽しんで頂ければと思います
 こちらの品は献上品ですので、どうぞお好きになさって下さいませ
 それではこれからもどうぞ宜しくお願いします

 

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