「ダイヤモンドの作り方」
久芒白春の特技は「自分の好きな夢を見れる事」ですが、夕食後のうたた寝などは夢のセレクトなど出来る筈もなく、普通の人と同じように夢を見ます。
これはそんな夢のお話し。
コトコトコト・・・・・
「・・・・・・・・・・んん」
久芒が目を覚ますとそこはだだっ広い空間でした。
上も下も右も左もただただ白く、端は地平線が広がっておりました。
「・・・・・・何だろなーここは」
とりあえずここは夢の中で、多少何かあってもそれはすべて夢だと解っているので大して驚きもしませんでした。
ただいつまでも周りを見てるだけというのも芸が無いので、ひょいっと腰を上げるとそのまま歩き出しました。
「んん〜ん〜〜〜んんん〜♪」
適当にハミングしながらてくてく歩いて行くと道(と言うか空間)の真ん中にチョンとちゃぶ台が置いてありました。
そしてその上には、卓上コンロと鈍く光る文化鍋が置いてありました。
鍋は、
コトコトコト・・・・・
と規則正しく音を立てておりました。
「・・・・・・・・・鍋ング」
鍋です。
コトコトコト・・・・・
久芒はしばらく鍋を見ていましたが、フイに中身が気になって蓋に手を伸ばしました。
ガシッ
蓋まであと1cmという所でその手は誰かに阻止されました。
「・・・・・・・・・」
横を見るといつの間にか青い髪の少年が座っており、久芒の手をガッシリと握っておりました。
「・・・・・・(ふるふるふる)」
少年は鍋の方を見たまま頭を振りました。
そしてちゃぶ台の下から砂時計を取りだし久芒の前に置きました。
砂の対比は、上6:下4といった感じでした。
「砂が落ちるまで蓋開けたらたら駄目ングな?」
久芒がそう聞くと、少年は手を離して頷きました。
コトコトコト・・・・・
二人は黙って鍋を見ていました。
鍋はやっぱり規則正しく蓋を揺すっています。
久芒は鍋をじーっと見ながら頭の隅で横に座る少年の事をちょっと考えました。
(どっかで見た事あるング)
コトコトコト・・・・・
(サングラスで)
コトコトコト・・・・・
(青い髪で)
コトコトコト・・・・・
(誰かが最近話してたング)
コトコトコト・・・・・
T先輩聞いて下さいよー。最近俺バリバリ調子良いんすよー、やっぱコレってストレス無くなったからっすかねー?ホラあのイヤーな家おん出て隣の▼◆ちゃん家で厄介になってるっしょ?それがねー良いんじゃねーかと思ってるんすけど・・・聞いてますー?久芒先輩?U
ヴヴヴヴヴヴヴ・・・・・・
「!!!!」
目を開けると目の前にはけたたましく揺れる携帯電話が見えました。
“着信1件・朱牡丹禄”
ディスプレイにそう表示されるのをまだ覚醒しきれてない頭でぼんやりと眺めました。
壁の時計を見ると、寝入ってからまだ数十分といった所でした。
ピッピッピ
とりあえずリダイヤルして友人の所にかけます。
トゥルルルルル・・・・ガチャ
「良い夢見てたのに何で起こすング」
T・・・・・・あのねー、今日は絶対観たい映画があるから電話してくれって言ったの白春じゃん!
そんな言い方されたらいい加減怒る気 (`ヘ´)/U
「・・・・・・・・ゴメン忘れてたング」
T・・・・・別にいいけどさー(ー_ー)!! でも、白春が良い夢言うなんて珍し気(・o・)U
「んー何かおもしろい夢だったング」
T好きな夢見れるんだからまた見たら良いじゃん(^_^) んじゃ、これから風呂気なんで(* ̄ω ̄*)ノ”U
「ありがとングねー」
朱牡丹に言われてそれもそうだと思った久芒は、見たい映画を予約すると早々にベットに入りました。
もちろんさっきの場所に戻る為です。
「1、2、3・・・・・グー」
コトコトコト・・・・・
さっきの場所に来ました。
しかし、ちゃぶ台や鍋はそのままに少年だけおりませんでした。
(・・・・・??どこ行ったングか?)
久芒は周りをグルッと見ましたが少年の姿は見えませんでした。
(そのウチ戻って来るングか?)
とりあえず待ちました。
コトコトコト・・・・・
少したちましたがまだ少年は戻って来ませんでした。
(遅いングねー)
手持ちぶさたの久芒がなんとなしにちゃぶ台の下を覗いてみると、なにやら1冊の本が置いてありました。
(何ング?)
ハードカバーの本の表紙には、綺麗な飾り文字でこう書いてありました。
『家庭で簡単に創るダイヤモンド』
(????)
パラパラとページをめくると図入りのダイヤモンドの作り方が載っておりました。
|綺麗なビィ玉を沢山用意する
}それを鍋に入れてコトコト煮込む
~金鹿印の砂時計の砂が落ちる寸前に蓋を開ける
※注意・決してお鍋からお湯を溢れさせてはいけません※
「金鹿印の砂時計・・・・・」
久芒がちゃぶ台の上の砂時計を見ると、砂はとうの昔に落ちて終わっておりました。
あ、っと思って鍋の蓋を取ろうとしましたが、時すでに遅く鍋からは大量の湯が溢れコンロの火を消してしまいました。
散々な体になった鍋の蓋を開けると、沢山のビー玉が入っていました。
そして、外気に触れたビー玉はビシビシとひび割れていきました。
久芒はそれを見ながら、
(ああ、これじゃダイヤにならないング)
と思って悲しい気持ちになりました。
そして夢は終わりました。
朝練。
昨日の夢を引きずっていて、どこかぼんやりしてる久芒の所に御柳がやって来ました。
「おはようございまっす。先輩どしたんですか?ぼーっとしてません?」
「んー、夢が消化不良ング」
「?はぁ、そっすか。ま、そんな事はおいといてコレ、シバちゃんから預かってきたんすよ」
と言って御柳が出してきたのは真っ白い封筒でした。
「・・・・・これ何ング?」
「さあ?今朝シバちゃんが久芒先輩に渡してくれって」
パリパリ・・・
よく解らないまま封筒を開けると中から出てきたのは1個のビー玉でした。
「あ、」
「?ビー玉?」
続いてメッセージカードが出てきました。
そこにはクセの強い字でこう書いてありました。
“失敗したダイヤモンドあげます。 司馬葵”
「・・・・・・・」
「はぁ?ダイヤモンド?つーか先輩いつからシバちゃんと知り合いになったんです?」
久芒は御柳の言葉を無視してコロコロとビー玉を手の平で転がしました。
「久芒せんぱーいー?」
御柳が久芒の顔をのぞき込もうとした時、向こうの方で呼ぶ声がしました。
「御柳!グランドの整備を手伝わんか!」
「あ、はーい。今行きまっす」
呼ばれて御柳は立ち去り、代わりに朱牡丹がやって来ました。
「おはよー(^o^) って何持ってる気?(・・?」
久芒のビー玉を見て言いました。
「禄ー」
「ん?(゚゚)」
転がしていたビー玉を指でつまんで太陽に透かしました。
「俺、夢に関しては一番だと思ってたング」
「普通人は自在に夢なんて見れないからね( ̄ω ̄)=3」
ビー玉は太陽の光を浴びてキラキラ光りました。
「でも上には上が居るングよー。夢と現実を混ぜっこする子が居るングよー」
「・・・・頭おかしくなった気?(-_-)」
朱牡丹の言葉に苦笑しながらも久芒は指に挟んだビー玉を見て笑っていました。
ビー玉には夢で見たヒビがしっかりと入っておりました。
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