「お姉ちゃん3」
私の弟、司馬葵は喋らない。
喋れないではなく喋らない。
面倒くさいのだ単に。
そして現代では喋らない子と言うのは・・・・(よく考えれば時代は関係ないか)
とにかく親が学校に・・・・
呼ばれる呼ばれる呼ばれる呼ばれる呼ばれる呼ばれる呼ばれる呼ばれる呼ばれる呼ばれる呼ばれる呼ばれる
幼稚園から始まって小中と・・・・呼ばれて呼ばれて呼ばれて呼ばれて呼ばれて呼ばれて呼ばれて呼ばれて呼ばれて呼ばれて呼ばれて呼ばれて呼ばれて呼ばれて呼ばれて・・・・・・
とにかく呼ばれる。
んで生活指導。
これが11年。
ここまで放っておく親も凄いし、そこまでされて喋らない弟も凄いと思う。
まったく誉められた事ではないが・・・・
そして今年。
高校一年生。
「それじゃ、行ってきます」
「・・・・・・いってらっしゃい」
「・・・・・・(手をふりふり)」
またです。
いい加減父も手慣れた感じで・・・・更にイヤ。
(ちなみに我が家では母が働いて父が主夫なのでこんなのは父の担当)
横を見るとボヘーとした弟。
・・・いいのか。
・・・・由緒正しい(らしい)司馬家の長男がこんなのでいいのか!
(いいよなーゆく末財産全部コイツの物だよ)
・・・・・っていうかそれを許してきていいのか?
いや良くない。(反意語)
父も母も許してきたが(単に面倒だから。なんで我が家はこう面倒くさがりが多いんだ。その癖変な所で皆努力家だし・・・)やはり姉として、ここは弟を教育し直さないと。
「って事で葵・・・・葵?」
・・・居ない
・・・・・・こんな時だけ行動早いじゃねーか
てな訳で私の部屋。My Room・
え?なんで葵追いかけないかって?
いや、居るから。中に。
と言うか私の部屋からクィーンが流れてるから!
「ホモの歌が好きかね葵くん!」
バーンとドア開けてそう言ったらイヤーな顔した葵が人の幕箱で遊んでいた。
(つーかネットすんだったらテメーの部屋でやれよ愛幕が居るだろが)
「何?なんなのかなー?その不満そうなお顔は?って言うかホモじゃんよマーキュリーちゃんは」
って言いますか私がこんな知識を持ったのもアンタが(無理矢理)見せてくれた「フレディ・マーキュリー特集」の所為なんですけど?
あーでもあのEDの歌は良かった。
思わずブライアン・メイに惚れる所だったわ。
(葵は悦に入ってたが・・・・ホモじゃねーだろなコイツ)
って今はそうでなく。
「何よ。何か文句あるなら言い返しなさいよ」
そうコレがメイン。
ここで少しでも喋ればねー、社会復帰も早いと思うんだけど・・・・
「・・・・・・・・(フイッ)」
カチャカチャカチャ(キーボード打つ音)
(無視しやがった、無視しやがった!ムキー!!!!!)
こんの野郎・・・・・
「ところで葵」
「・・・・・」
おう、こっちは見たな。
「あんたの愛しのブライアン・メイ。ピンクのネグリジェに兎スリッパなんだけど、コレはどうなのよ?ファンとして」
って言いますかマジで外人は凄いな・・・・マーキュリーが一番エグイけど・・・
と言うかマーキュリー!なんかどの写真も人として遠いぞ!大丈夫か?大丈夫なのか? ・・・・・落ち着け自分。今問題なのは力技のマーキュリーでなく。目の前で問題の写真を見てる葵だ。
さて、何か言い返しますかな?
「・・・・・・・・」
カチャカチャカチャカチャ・・・・・
・・・また無視かい。CD割るぞコラ。
と思ったら私の携帯電話が振動しておりますね・・・・あー展開読めた気がする・・・
「口で言え!!!!!!!!!!!!」
「アンタの口は物を咀嚼する為だけの器官かコラァ!!!!人類は言葉でコミュニケーションとって発達してきたっちゅーのにアンタ一人その文化から外れんな!!イルカだって喋ってるっつーの!!大体喋らないでどうやって周りと理解仕合うのよ?って言うかブライアン・メイの髪型はなんじゃコレ!アフロだけど伸ばしましたーってか?夏場暑苦しいんじゃ!あとあのオペラ歌手絶対歳とってないぞ!」
ハーハー・・・あー疲れた。・・・・なんか最後違う事言ってたような・・・・。
まーいいか・・・・。ん?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・殺すよ?
「あー疲れた。本当にお疲れさまだよ」
ベットにバーンと寝転がる。
まー解ってた結果だけどねー。
この程度の説得で喋ったら11年も引きずらないって。
いや解ってて言ったのもあるけど・・・そろそろ喋るかなーという淡い期待も合った訳だよ。
あー喉乾いた。歳食ってから叫ぶもんじゃないわ。
(・・・・なんか飲み物持って来ようかなー・・・・)
と思ったら葵がペットボトルの紅茶を飲んでおりました。
(アレでいいや)
「葵。アンタの紅茶頂戴」
疲れたんで天井見たまま声を掛けた。
ボスっと手に重い感覚。
「はい。姉さん」
「ん。あんがと」
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・って、まて。
「・・・・あーおーいー。あんたねー」
喋ってたよな今。
しかも普通に!
なんで人がキチンと聞いてないような時に喋るんだ!
んで、葵を見たら顔は幕箱の方向いてたけど肩が笑っていた。
(絶対コイツ『喋らない自分』を楽しんでやがる!!!)
あー畜生。むかつく。
性格悪いぞ!この野郎!
笑ってるな馬鹿。
葵を部屋に残して居間で悶々(つーかイライラ)してたら元凶の父上ご帰宅。
「お父さんお帰り。聞きたいんだけど、なんで葵をあのまま放置すんの?」
「・・・?だってアレが葵の個性じゃないか。それに」
「それに?」
「たまにしか聞けない方が価値が上がるだろ?」
「・・・・・・・・・・・」
「葵はあのままが一番だ。先生にもそう言ってきた」
この世に生を受けて21年。
初めて父を本気で馬鹿だと思った瞬間・・・・・
いいのか?この親で?
父よそれは放任じゃないぞ放棄だ!
「葵はあんな生き物だと思えばどうだろうね?」
「・・・・いや、聞かれても」
あー頭痛い・・・・
「・・・・・・」
「・・・何?お父さん」
「いや、お姉ちゃんは葵が本当に好きなんだと思って。家族で一番心配してあげてるのはお前だな
って事で今夜の夕飯は葵への罰も含めてキムチ鍋にしよう」
「・・・・・・・・・」
そうじゃないだろうこの馬鹿親父!!!!!!!
拝啓 神様
どうもこの家に居る限り葵はずっとあーみたいです。
いいんでしょうか?
個性と言い切るこの親はどうなんでしょうか?
開き直っている弟はもっとどうなんでしょうか?
私の弟、司馬葵は喋らない。
喋れないではなく喋らない。
面倒くさいのだ単に。
しかも好きなのだ『喋らない自分』が。
馬鹿だ。大馬鹿だ。
そんな弟が大切な私もかなりな馬鹿だ。
そんな息子を溺愛してる父も馬鹿だ。
馬鹿ばっかしだ。
でも出来ることならどうかこのまま葵が『喋らない自分』を満喫できますように。
傷つきませんように。
お願いするよ神様。
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