「幸せの連鎖反応」
「やっほー♪壬生、元気してたー?」
「・・・・・・・」
仕事を終えて家に戻ると龍麻がリビングのソファーに居た。
いや、それはいいんだが。
「君は今、意識不明じゃなかったのかい?」
そうだ、彼は3日前に敵に切られて瀕死の重症を負って病院に居るはず。
その彼がなぜこんな時間にこんな所に。
・・・・幽霊?
でも、そうだとしてもどうして僕の所に・・・
「いや、ついさっき目が覚めてさー。それで来たんだよ」
答になってない・・
「あ、幽霊じゃないぞ、ホレホレ」
ソファーの上で足をバタバタさせる。
「大変だったんだぞ、ここまで来るの。タクシーは止まってくんないし、この恰好じゃ電車はまずいし」
よく見れば、龍麻の服はパジャマだ。横にはオーバーが脱いである。
「あっ、この部屋入るのに窓割ったけどごめんな」
そう言って指さす方を見るとリビングの窓がちょうど腕の入る大きさに割られていた。
「外で待ってたんだけどお前帰ってこないし、寒いし。鍵の場所知らんし。まあ、弁償はするから♪」
「・・・・・・・」
「?窓割ったのそんなに嫌?」
「いや、そうじゃなくて。なんでここに?」
意識が戻ったのはわかった。でも、それでなんでわざわざ葛飾まで。
「いや、会いたかったから」
誰に?
「だーかーらー、壬生に会いたかったから。わざわざ、病院ヌケだして。タクシー電話で呼んで来たんだ」
つかれたのか、ゴロっとソファーに寝ころぶ。
顔色が悪いのは貧血のせいだろう。
「どうして、そんな無茶をするんだい!死んだらどうするんだ!」
会いたければ明日にでも行ったのに。なんで、こんな無茶を。
「だからだよ」
よっと、龍麻が体を起す。
言われた意味がわからない。
「明日、死ぬかもしれないから今来たんだ」
龍麻がまっすぐ僕の目を見ている。
「今まで死ぬかもって、思ってなかった。でも、死ぬんだよ。切られれば僕だって」
人は必ず死ぬ。
黄龍の器だって所詮は人だ。
「それで、どうして僕の所に?」
「好きだから」
「え?」
「好きな奴に好きだって言わないで死ぬのは、嫌だったから」
「だから来た」
目をそらさない。だから冗談じゃないとわかる。君って人は・・
あれだけ君の気持ちに悩んで不安になっていた僕はいったい・・・「フー、ああ、すっきりした。これで明日死んでも悔いはない」
さっさと寝ようとする龍麻をゆり起す。
「・・・なに?僕はもう寝むいんすけど」
「君は人の返事も聞かずに死ぬ気かい?」
あいかわらずマイペースだね、君は。
「・・・・聞かないとダメか?」
「ダメ」
「はー、幸せなまま死にたかったのに・・」
「じゃあ、もっと幸せにしてあげようか?」
「?」
ごろんと寝がえりをうつ龍麻に目線を合わせる。
「僕も好きだよ。龍麻」
「おや」
くくく、と笑う龍麻に口付けた。
「急に大胆になったな壬生」
「僕も明日死ぬかもしれないからね」
龍麻の横に体をすべり込ませる。
「我慢するのはヤメにするよ」
「くくく、上等」
そのまま龍麻の胸に口付けた。
血の味がした。