「散歩道」
二人で散歩していてフト横を見ると龍麻が居ない。
こんな時は十中八九電信柱の上だ。
「ハズレ」
訂正電線の上でした。
「・・龍麻、降りてこないと人来るよ?」
「ネコバスの真似」
そのままタタタと電線の上を駆けて行く。
それを下から追いかける。
「龍麻」
「ていっ」
呼ぶと電線を蹴って降りてきた。
重力や空気抵抗というものが無い動きだった。
最初の頃はビックリしたりしたけれど今ではもう慣れっこになってしまった。
「壬生。知ってるか?宮崎駿の飛ぶシーンが凄いのはちゃんと飛ぶ物の重さを考えて作ってあるからなんだぞ」
「じゃあ君は出れないね」
「まったくだ」
心底残念そうな龍麻の手を握ってまた歩き出す。
「・・・最近隠さなくなったよね」
月を見上げて首が痛そうな龍麻にそう問いかける。
「あ?コレか?」
金色の髪の毛と金色の目を指して笑った。
笑った口から少し長い犬歯も見えた気がした。
「もう隠してもしゃーないしな。それにココでする事は終わったし」
だから怖がられてもいいんだよーと呑気に言う。
「別に怖くないよ」
「・・・・じゃあ、最初の頃のあの顔はなんだ」
「・・・あれはちょっと驚いて・・・・」
「鳩が豆鉄砲くらった顔してたよな・・・ショックだわ。やっぱり人と人外は一緒に暮らせないのね・・・」
「だから・・・・ごめんなさい」
「・・・・いや、冗談だから・・・つっこめ、バカ」
初めて龍麻の黄龍化(龍麻命名)を見た時、情けない話しだが腰が抜けた。
というか力が入らなくて座り込んでしまった。
(龍麻はそれを見てげらげら笑っていた)
「ビビリ」
「・・・普通いきなり恋人が(半)龍になったら驚くよ」
「自分が暗殺家なのを棚に上げて偉そうに言うねー壬生くん」
・・・・暗殺家と黄龍。世間一般ではどっちが非常識なんだろう・・・・
「・・・でも今は大丈夫だし。・・・・好きだよその姿も」
「センキュー♪」
笑って繋いだ手を握り返してくれた。
「明日。行くんだね」
「そうだって、お前今日何度目だ?」
「・・・・・寂しい・・・・」
あー本当に寂しい。
しゃがみ込んでしまおう。
あの時みたいに。
「だー。駄々っ子か貴様は。立てって、ホラ」
あー嫌だ嫌だ嫌だ・・・・・
立ちたくない。
「まったく。急に餓鬼になるなーお前は」
だって・・・明日君は居なくなるんだ。
僕を置いて中国に行ってしまうんだ。
寂しい。
サミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイ・・・・・・さみしい
「だーかーらー。向こうで劉と京一に会って両親の墓参りしたらすぐ戻るって言ってんだろうが!」
「でもその後すぐにラスベガス行くんだろう?」
「うん。村雨が来いって手紙くれたからな」
「その後は?」
「ブラックが電話くれたからフランス行く」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
もういいこのまま土に還る。
「だー!また拗ねる!いいだろうがちょっとくらい世界を飛び回ったって」
そうだね、勝手にすればいいよ。
君が日本に帰った時には枯れたサボテンが一つ転がってるだけさ・・・
「・・・・どないせーっちゅーねん。大体お前が行けないって言ったんだろうが。僕は誘ったしちゃんと許可も貰ったぞ。なんで今日になって言うか!」
「・・・・なんで?なんでって言っていいの?本当に?」
「・・・おう(ちょいビビリ)」
「今日は僕の誕生日だから」
「・・・・・・」
「だから我が儘言ってもいいんだよ」
でも明日は違うから君は行ってもいいんだよ。
「という訳で行って欲しくないよ本当に。寂しいし。明後日からこうして散歩する事も出来ないし。目が覚めても君は居ないし。きっと寂しくて死んじゃうよ」
本当に兎は寂しくて死んでしまうんだろうか?
ま、僕は兎じゃないけどね。
「憎しみで人は殺せんし。寂しくて人は死なん。もう気がすんだろ?立て」
龍麻が手をグンっと引っ張ったのでなんだか半端な形で宙ぶらりんになった。
龍麻はいつでも僕には冷たい。
「冷たいんじゃなくて対等でいたいのだよ。壬生はそこん所を解ってないよな」
対等?対等って何?
対等=2つの物の間に優劣・高下の区別の無い様子[新明解国語辞典]
「・・・・少なく共僕達の間だと優劣はあると思うんだけど?」
「なんで?」
「なんでって・・・・」
君は王様だし。黄龍だし。皆に好かれてるし。僕より友人は多いし。僕が一番じゃないし。どこにでも行けるし。自由だし。余裕だし。我が儘だし。傍若無人だし・・・
「・・・・最後の方は悪口だろ。コラ」
「・・・とにかく行って欲しくない」
「いや行くし」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
やっぱり土に還ろう・・・さようなら母さん。
「だー!ホントお前はしょうがないな」
ヒョイっと体が軽くなって・・・・もしかしてこれはオンブ?
どうやら僕は龍麻にオンブされているらしい。
「龍麻。重くない?」
「・・・・重くは無いがうっとい」
「・・・・下ろしてくれてかまいませんが?」
「いや、このままでいい」
いえ、足引きずってるんですけど。
言おうかと思ったけどせっかくなので黙った。
胸の所やお腹が龍麻の体温で暖かい。
この暖かさも明日には無くなるんだと思ってまた泣きたくなった。
17年間もお互いを知らずに暮らしてたのに、出会ったとたん1日も離れたくないのです。
これが双龍という物なのでしょうか?
それとも恋なのでしょうか?
とにかく僕は寂しいのです。
明日からの生活を考えると寂しくて寂しくてどうしようもないのです。
贅沢でしょうか?
「贅沢です」
我が儘でしょうか?
「我が儘です」
会わない方が良かったのでしょうか?
「会えて僕は嬉しかったがな」
はい、それは僕もです。
君に会えて本当に嬉しかったです。
「筆無精やけど手紙・・・いやハガキも頑張って書くし」
「うん」
「電話有る所では掛けてやるし」
「うん」
「時々帰るし」
「うん」
「多分お前の事忘れないし」
「・・・多分?」
「浮気は・・・・・えーっと」
「なるべくしないで下さい」
「・・・お前もしたら?」
「絶対無理」
「とにかく今生の別れじゃないんだからな。そこん所解れ?いいな」
「うん。そうだね」
なんとなく今生の別れでも君とならまた会える気がするんですけど。
これって双龍だからですか?
「違います」
「アイシアッテルカラデス」
「ぎゃはははははははは」
「くっくくくくくくくく」
龍麻の言った言葉はあまりにも陳腐で二人して大笑いした。
笑いながら本当にそうだったらいいなと思った。
「いつか一緒に行こうなー」
「うん。そうだね」
「死出の旅かもしんないけどな。きしししし」
「別に君とだったらそれでもいいよ?」
「悪趣味な奴」
無敵の黄龍様とだったら地獄の道を散歩するのも乙じゃないかな?
ダッテボクラハアシシアッテイルンダカラ。
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