「上野のパンダ」

 1年前拳武館
 春
 壬生紅葉が仕事の報告をする為に館長室を訪れました。
 ノックしようと戸に近づいた途端。
 ドアが内側から吹き飛びました。
 「なっ!?」
 思わずバックステップで距離を空けた壬生の前に小柄な影が飛び出しました。
 「テメー覚えてろ!絶対お前のその髪ストレートパーマにしたるからな」
 小柄な影はそう部屋の中に叫ぶと窓から飛び出して行きました。
 「待ちなさい!話しはまだ終わっていない」
 壊れた戸から館長である鳴滝が叫びましたが少年はもうどこかに行ってしまってました。
 「ハァ、私の言い方が悪かったか・・・」
 溜め息をつきつつ部屋に戻ろうとした鳴滝はやっと茫然と立って居る壬生に気付きました。
 「壬生、居たのか」
 「・・・は、はい、昨夜の報告に参りました」
 「ああ、解った・・・・すまないがその前にひとつ頼まれてくれるか」
 「はい」
 壬生の返事を聞いて鳴滝は部屋から学生鞄を持って来ました。
 「これを先程この部屋から出て行った子に渡して来てくれ
  あと、私の言い方が悪かったとそう伝えてくれ」
 「はい」

 渡された鞄には明日香学園高等学校と印字されており、持つ手の所にマジックでTM78星雲よりの使者Uと書いてありました。
 それを見て壬生は
 (内容はともかく奇麗な字だな)
 と思いました。


 「パンパン♪パンダパンダ♪パンダの心〜♪」
 壬生の目当ての少年は御機嫌で歌いながら、鳴滝の愛車(黒ベンツ)に白ペンキを塗りたくってました。
 「・・・・・・・・・・・」
 あまりな風景にしばし壬生は茫然と立ち尽くしました
 「完成〜パンダカー♪・・・ん?誰?ナルの狗か?」
 (・・・・・狗)
 イヌ呼ばわりされて流石に壬生は不快な顔をしました。
 「僕は狗じゃない」
 「んじゃ狂信者」
 「・・・よっと」
 壬生の射るような視線を軽く流して少年はボンネットから飛び降りました。
 「人殺しには理由が要るだろ?アレに言われただけで殺せるなんて、狗か狂信者だけだ」
 カラン
 軽い音を立ててペンキの缶が転がりました。
 それを壬生は何となく目で追いました。
 「それを知っているという事は・・・・君も暗殺組に入るのかい?」
 「ふっふははは・・・・・入らないってんな所」
 少年はポケットから極太の白マジックを取り出してまたしゃかしゃか描きました。
 「人を殺さずに済むならそれにこした事はないよ」
 壬生は少年の背中にそう言いました。
 「んー人じゃないのは殺すかもな」
 「は?」
 「あー人も殺すか」
 「とにかく沢山殺す事になるだろうなー」
 少年は背を向けたまま淡々と言いました。
 あまりにも淡々と言うから一瞬意味が解らず、少しして聞き返しました。
 「・・・何の話しだい?」
 「ん?詳しくはヒゲに聞け。詳しいから」
 (・・・ヒゲ)
 「ヒゲヒゲヒゲ、ださいソバージュのヒゲ親父〜♪
  僕の嫌いな言葉を使ったから〜自慢の車はパンダカー♪白と黒が美しい〜♪」
 (嫌いな言葉)
 言われて壬生は館長の伝言を思い出しました。
 「そうだ館長から伝言があるんだ」
 「あに?」
 「言い方が悪かったすまなかったと」
 「ふーん」
 キュッキュッキュ・・・
 「完成っと」
 満足そうに立ち上がる少年の前には完全にパンダと化したベンツがありました。
 「謝るくらいなら言うなってんだ」
 「館長は何て君に言ったんだい?」
 「んーヒミツ〜」
 少年は意地悪く笑いましたが少し考えて言いました。
 「あのさー、君はなんで暗殺組に入った?」
 「え?」
 突然の質問に壬生は戸惑いました。そして自分の境遇を言うべきか悩みました。
 少年は壬生の答えを気にせず続けました。
 「何か理由があんだろ?でもさーそれを運命とか言われたら腹立たないか?僕だったら腹立つよ。そう思わん?」
 もし、誰かが自分の母の病気をそれが彼女の運命だと言ったら。
 「腹が立つね」
 「な」
 「僕はそう言われたんだ。ヒゲにね」
 「これから起こる事は皆僕の宿命だと。腹立たないか?」
 少年は壬生の返事を待たずに続けました。
 「何が起こってもねー、それはしゃーないと思うんだわ。我ながら面倒な体質だと思ってるし。でもな、それが運命だと言われたら嫌なんだ。運命とか宿星とかなんでそんな見た事も無い物に人の人生左右されなあかんねん。僕の人生は僕のものだろ何が起こってもそれは自分の選んだ事だ。・・・・・・思わん?」
 「・・・君は強いね」
 壬生は嫌味でなくそう思いました。
 少年は振り向いてにっと笑いました。
 「そーでもないよ。ただ頑固で我が儘なだけ。
  そして上野のパンダも奴は自分で選んだのさー。あの人生をー」
 壬生はそれは違うんじゃと思いましたが黙ってました。

 「そうだ、鞄」
 ずっと持ってた鞄を少年に渡しました
 「あ、ありがとう」
 「字、奇麗だね」
 「あーうん。字は綺麗だけど心まで綺麗とは限らないのであった」
 少年はにーっと笑ってそう言いました。
 「さーって帰りますか。あー帰ったら転校手続きとらな。面倒ーー」
 少年は鞄をグルグル回し裏門から出て行こうとしました。

 壬生はその背に、
 「また会えるかな?」
 と問いかけました。
 少年は、
 「会えるだろ、運命に流されて行けば」
 と言って笑いました。

 それから少し歩いて振り向くと、
 「やっぱーさっきの無しー。僕も会いたいからまた会えるって事にしとこう。
  次あったら名前教えてやるなー」
 と大きな声で言って手を大きくブンブン振りました。



 この半年後に壬生は仕事のターゲットとして少年とまた会いました。

 
 「運命かな?」
 「うんにゃ。言ってみれば力業」
 「名前聞いてもいいかい?」
 「勝ったら教えてア・ゲ・ル。」


 運命ではなく力業。
 この二人にはそんな言葉が似合います。


 前に書いた過去話「逆光」とは別物
 龍麻・壬生共に高一
 しょっぱなから鳴滝にケンカを売る龍麻さん
 とにかくウチの龍麻は「運命」とか「宿星」と言った言葉が嫌いです
 ので、龍山に「お主の宿星伝々」の話しがあった回はキレそうでした(第20話龍脈)
 と言うかウチの龍麻はキレてました
 その話しもありますので、またそのうち書きます
 私自身もあの龍山の話し嫌いなんで怨念入りまくりですが・・・・宿星を信じる仲間って胡散臭いと思う
 思えば龍山自体嫌いでしたね・・・聞き分け良すぎて裏で何考えてんだかこのジジイと思ってた。そして今も思っている・・・・

 中途で龍麻が歌ってるのは、ハイロウズの「パンダのこころ」です
 ライブでしか歌わないのであんま聞いた事ないですが、好きな歌。歌詞、頭悪そうで
 
 なんつーか久しぶりの魔人でした
 ああ、魔人が好きだ(だったらさっさと更新しなさい)

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