「おかえりなさい」

 「ぬわぁぁぁぁぁぁぁ」
 「・・・・龍麻、どうかしたのかい?」
 お久しぶりの魔人の世界。
 初っぱなから龍麻の叫び声が響きました。
 前に居るのは同居人(兼・恋人)壬生です。

 「壬生、落ち着いてる場合じゃないぞ!壬生!壬生寺!」
 「龍麻、最後のはお寺の名前・・・・」
 壬生がツッコミましたが、龍麻は無視しました。
 「兎に角!マズイって!作者の菓子くらいマズイって」
 「アレは物によってはマシな時もあるんだよ」
 「そうなのか!」
 「そうらしいよ」
 そうです。

 「まー、それはそれとして!大変なんやって!落ち着け!」
 「君がね・・・・」
 龍麻が壬生をガクガク揺すりながら言います。
 「墓参りを忘れててん!」
 「ふーん」
 「反応薄!!」
 壬生のお墓じゃないので反応は薄いです。

 「あー!どうしようー!お祖父ちゃんに怒られるーーー」
 パニくってる龍麻を余所に壬生はタンスを漁りました。
 何着かの服を鞄につめ、冷蔵庫から何やら取り出してそれもつめました。
 「今から行ったら?」
 「今からっすか?」
 「そう今から」
 はい、っと先程の鞄を渡しました。
 「留守番はしておくよ」
 「ん」
 「お祖父さんによろしく」
 「ん、いってきます」

 壬生に大きく手を振ってエントランスで別れました。

 「と言うわけで実家の墓参りに行って来ます」
 旅行鞄を持たされた龍麻は、何故か駅に向かう前に犬神のアパートに寄りました。
 「何で俺の所に来るんだ?」
 出迎えた犬神も不審気です。
 「だって、僕の実家の墓参りですもん。先生最愛の加代ママはもとより、息子さんの龍斗も入ってますから。何か言付けありましたら伺いますぜと・・・」
 「・・・・・・」
 犬神は黙って、龍麻の頭をどつきました。
 「痛いですがな!!!何するかこの犬は!!」
 「五月蠅い。それを、俺をおいて逝った二人に持って行け」
 龍麻は、ああ、と思いました。
 「後、これもな」
 言って龍麻の頭をいつものように、グシャグシャとかき混ぜました。
 「にっひっひ」
 嬉しそうに笑う龍麻に犬神も口の端だけ笑って、
 「さっさと行って来い。気をつけてな」
 と送り出しました。
 「はいさ、いってきます」

 ついでなので拳武館にも寄りました。
 「ヒゲー。祖父ちゃんと父ちゃんに会うけど言づてあるかー?」
 足でボーンとドアを蹴り開け、開口一番そう言いました。
 「・・・・・・龍麻。足でドアを開けない、私の事をヒゲと呼ばない」
 「へいへい。で、言付け無いんかい?」
 「・・・・・・・・聞き入れてくれるなら、頼むから個人的な用事でうちの生徒を使わないでくれと!・・・・・いや、やっぱりいい、先生には何を言っても無駄だ・・・」
 龍麻の祖父は弦麻と鳴滝の武術の師に当たります。
 そして拳武館創立の時に資金援助もしています。
 ゆえに、鳴滝は師匠に頭が上がらないのです。
 「ご愁傷様」
 龍麻の大して同情もしてない声に、はぁーと長い溜息をつきつき言いました。
 「・・・・言付けは、私も元気にやってますと」
 「はーい」
 「それと、弦麻に・・・・・いや、いい。気を付けて行って来なさい」
 「はいよ」
 
 拳武館を後にして、やっとこ東京駅に向かう龍麻でした。

 龍麻の実家は神戸です。
 「のぞみーのぞみー。増発しました、のぞみー」
 「新大阪ー。新大阪ー。出口と入り口別れてるので待ち合わせには注意」
 「JRで行くかー阪急で行くかー」
 「阪急電車ー。急行なのに何でかのんびりー。そこを優雅とみるかのろまとみるかー」
 「あ、お迎えの車だー。運転手さんお久しぶりですー」

 と言うわけで、実家に着きました。
 龍麻の実家は代々黄龍の恩恵で栄えてきたので、大変立派なお屋敷です。
 言ってしまえば、小国家みたいなものです。
 そのお屋敷のずーっと奥に現当主、緋勇弧空(龍麻と九龍の祖父)が住んでます。

 「お爺様。お久しぶりでございます」
 直線二百米走も出来そうな大広間で、龍麻は祖父に深々と頭を下げました。
 間近に見える畳からは良い香りがして、龍麻は「ああ、無駄に金かけとるな」と思いました。
 その前で、着物に真っ白な仮面をつけた男が煙管を吹かしています。
 この仮面男が祖父です。
 「一年ぶりといった所か・・・それにしてもお前はちっこいなあ」
 祖父が龍麻の頭をポンポン叩きながら言いました。
 「身長の事は言わんとってくれますか。祖父ちゃん」
 「身長伸ばしたかったら、T身長ノビ〜ル19××EXU飲め」
 「お祖父ちゃんの作った薬は怪しいからいりまへん」
 祖父の趣味は実験です。有り余る財力を使い、己の楽しみの為だけに研究を繰り返すマッドサイエンティストでもあります。
 「前にも体中の毛が伸びる薬とかわけわからんのん作ったがな」
 「あーあれは失敗やった。ハムスターがモルモットになったしな」
 京一も毛虫になりました。
 この話は、初めて作った魔人の本に収録されてます。
 持っててこれを読んでくれてる方がいらっしゃいましたら、心から感謝します。
 閑話休題。
 
 「んじゃ、墓参りに行って来ます」
 「おう」
 祖父に見送られ、だだっ広い家を後にし、裏山に登ります。

 「今日も暑いな、ぽんぺけぺん」
 「ソウデスネ」
 難聴になりそうなセミの声を聞きながら墓に向かう龍麻の横を、いつの間にかトルーマンが歩いています。
 「トルーマンは見た目が犬だから公共の乗り物は乗れないんよな」
 「故ニ、龍麻様ノ影ニ入ッテ付イテ参リマシタ」
 「影の中は広いから、トルーマンの一匹や千匹軽いのですよ」
 ーだそうです。
 どっちでも良い話です。
 「ヒドッ!」
 そんなこんなで墓に到着しました。

 墓は、一般的に想像される御影石の立方体ではなく、一言で言うならば変わったオブジェでした。
 「しかしながら、コレが緋勇家の墓っすよ」

 その墓は沢山の物で出来てました。
 時計、ネクタイピン、眼鏡、靴、鞄の金具、ベルトのバックル、人形、コップ、花瓶、果ては原型を止めていない着物、帽子。危険な所で、銃、鞭、刀、剣。
 「全部、死んだ誰かが大切にしてた遺品」
 それらが、糸のような物で固定されて円柱を作っています。
 「中心の芯には龍の宝が眠ってます。もちろん元々は僕のね」
 それから墓の周りをグルグル回って。
 目当ての物を見つけると手を合わせました。
 「お父さん、お母さん、今年はちょっと墓参り遅れてすまんでした」
 そこには、ボロボロの手甲と綺麗な細工がされた簪が一緒に結わえてありました。
 「あと、ヒゲから「弦麻love・加代kill」と」
 言ってません。
 「いや、心の声で言ってた、僕には聞こえてた」
 そうなんですか。
 「それと、犬神パパから「置いていかれて寂しい」だそうです」
 手甲と簪が光って笑いました。
 
 終わると、またグルグル回って探します。
 今度のは少し見つかりにくいのでトルーマンにも手伝ってもらいました。
 「見付カリマシタ」
 「流石はトルーマン。偉い」
 他の遺品に隠れた奥の奥に、見付かりました。
 小さいわ、汚れてるわ、他の遺品が邪魔だわ、で、とても見難いのですが、そこには革紐のついた狼の牙がありました。
 龍斗の遺品です。

 「龍斗、久々。えー、犬神パパから殴っておいてくれと、撫でておいてくれを同時に
賜りましたが、色々無理なので報告だけ。暇なら先生とこ顔だすように、以上。あと、今年は墓参り遅れてすまない。生者は忙しいのです。では」
 言ってしまえば自分なので墓参りも適当です。
 
 「さーて、今年の墓参りも無事終了」
 この墓、形が複雑なので、掃除も出来ず、花を飾る場所も無く、墓参りは簡単なのでした。 
 「そうそう、掃除できん上に隙間が多いもんだから。こうやって覗くと虫とか巣作ってて結構キモイよな。奥とか絶対変なの住んでるよ」
 元々作らせたのは自分のくせに酷い言いぐさです。
 「お祖父ちゃんは、「この墓は大木だと思え。木も変なの住んでるし、近づけばキモイ」と言ってたけど、それでいいんかしら」
 良いんですよ。
 「そう?まーいいか。問題なのは代々死体も残らんような死に方してきたご先祖が悪いわけやしね。埋める物無いからこんな形になりましたし」
 緋勇家は皆、波瀾万丈なのです。
 「ソレデハ、帰リマショウカ」
 「そやねー、いい加減、僕とナレーションと犬ってシュチエーションも飽きるしな」
 そうですね。

 「そうそう、僕が死んだら壬生の靴と共に手甲を納める予定です。ホモのカップルですが虐めないでね」
 嫌な子孫です。
 「しかし、龍斗は本命のロザリオ以外に刀とか爪とか色々括り付けてたな・・・・よーし!ラブハンターの直系として僕も負けられません!靴の他に忍者刀とか花札とか式神とかガンガン結びつけるよ!いつかお参りに来る次世代ラブハンターの為に!お前の先祖は飛ばしてました!」
 「・・・・ソレハ死ンデカラモ壬生ノ心ガ休マラナイノデハ・・・」
 トルーマンの言うとおりです。
 
 「まー、それもまだまだ先の事だからええんすよ。今はマンションで寂しく待ってる壬生のお土産を考える方が先ですよ。神戸だからパンか!犬先生には肉!神戸牛!!」
 「鳴滝ニハ?」
 「ヒゲなので無し!!!」
 無茶苦茶な理由です。

 「そいでは帰りますよ!っと・・・大事な事忘れとるがな」
 龍麻は墓の前に立つと深々と頭を下げて言いました。

 「沢山の僕と、僕を産んでくれたお母さんお父さん、僕が好きだった人達」
 「ただいま、帰りました」
 「そして、いってきます」
 
 墓が答えました。

 おかえりなさい
 いってらっしゃい

 
 お墓が、にーーっと笑ったように見えました。
 龍麻も、にーーっと笑って去りました。
 

 後は、セミの声だけが響きます。
 


 龍麻は墓参りとかは欠かさない人だと思います。というか数多くの自分への参拝
 緋勇家の墓はオブジェ。遺品で作られたオブジェ。誰かが死ぬとその遺品をひとつ紐で結わえます。ので、年々でかくなる
 死体がある時は別の場所にある専用の墓に埋めます(緋勇家は土葬。希望で鳥葬も可)。でも遺品はコッチ
 元々は中心部の「黄龍の秘宝」を守る為の結界
 そのうち、某トレジャーハンターが狙いにきそうな一品
 
 余談ですが、龍斗の遺品の牙は犬神先生の牙です
 江戸歯車四のおまけで書きました
 とりあえず、犬神先生が息子の為に折った自分の歯です