「村雨エンディング」
頭にポカンと浮んで来たのは
「華」
花じゃなくて華?
なんだこりゃ?
立ち止って考え始めた龍麻の周りを人がよけていく。
そんな中・・・
ボフッ
「よお、先生」
後ろから誰かが抱きついてきた。
「・・・・重い」
それでも驚きもせず考えに没頭している龍麻に男の苦笑が聞こえた。
「・・・ちっとは驚くとかしてくれると、可愛気があるんだがねぇ」
男の低い声と、前に周された白い服と腕には見覚えがあるような気がした。
「申し訳ないんだけど、僕は今探し物をしている最中なんでどいてくれないか?オンブオバケさん」
しかたなく男をくっつけたまま歩き出す龍麻。
大通りを男をしがみつかせたまま歩いているので、かなりの視線が集まっている。
しかし、当の本人は気にした様子もなくそのまま歩いていた。
「・・・・少しは周りを気にしろって」
後ろのオンブオバケは気になるらしく、抱きついたまま龍麻を細い路地へと引きずっていく。
「・・・後ろ歩きはツライやね」
とことんマイペースな奴である。
「で、オンブオバケさん。僕になんか御用ですかい?」
と言って振り向いた先には、白い長ランに身を包んだ背の高い男が立っていた。
頭に被った帽子が似合っているのか、いないのか・・・
「・・・・えーっと」
「最初に言っとくが、俺は留年した訳でもねえし、息子の制服を着た親父でもねえし、怪しいコスプレ男でもねえ。正真正銘アンタと同い歳の学生だ」
「・・・・・さいですか」
言おうとした事を全部言われて黙ってしまう龍麻。
確かにそう言われて見れば若くも見える。
「そんな事より、記憶喪失だってな」
「そうなんだよ。ロスト記憶なんだ。僕の記憶は櫂(かい)の無い舟に乗って心の大海原を彷っているんだ」
よく解らないたとえをする龍麻に男が笑う。
「その訳わかんねぇ所は変ってねぇな。安心したぜ」
こんな事で安心されるのも何か違う気がする龍麻である。
「で、アンタは記憶喪失にも関らず誰か探してるんだって?」
「そうそう、皆様よく御存じで。・・・僕は何も知らんのに」
最後の所はグチ。
「なんなら俺の強運で探してやろうか?」
強運?強運てなんぞや?
「・・・いい。華の人は自分で探すから」
「華の人?」
「そう、華の人。さっきから華の字が頭に浮んでいるから・・華の人」
そう言った途端男が爆笑した。
「ハハハハ。やっぱりアンタは強運だ。自分でたぐり寄せやがった。しかし、華の人とはねぇ。アーハハハハ」
「?」
頭にクエスチョンマークを付けて固まっている龍麻に男が背中を向けた
『華』
白い学ランの背中に咲く艶やかな華の字。
「・・・・・」
「どうした?声も出ない程嬉しいのか?」
「・・・て」
「て?」
「テメェかぁぁぁぁ!・・・・・なんつーか・・・なんちゅうか・・」
複雑な顔をしている龍麻に笑いを引っこめる。
「嬉しくねえのか?」
「うーん・・・嬉しくないわけじゃないけど・・・何かこー・・・解る?」
「解んねぇ。でも、俺はアンタに探してもらえて嬉しいぜ?
たとえ「華の人」でもな」
そう言って、にやっと笑った顔を見てなぜか背中がゾクッとした。
「・・・・・hh〜?」
「どうした?」
ふざけているように見えて、ちゃんと人の体を気づかう心使いも覚えている。
ああ、そういえばコイツは優しい奴だったな
「・・・痛むのか?」
龍麻が急に黙ってしまったので傷でも開いたかと心配する。
「雪も降るそうだしな・・・今日の所はさっさと病院に送るか・・・おい、歩けるか?」
そう言って腕を取ろうとした男の手を龍麻が掴んだ。
「・・・先生?」
「先生と呼ぶんじゃないよ。・・・華の人・・・・いや、村雨祇孔君」
「!」
にぃ人の悪い笑みを浮べているのは、見なれたいつもの龍麻。
「先生!思い出したのか」
「イエス、イエス。記憶の小舟がお前という塔台を頼りに港に帰って来たのだよ」
独特の言い回しは記憶とかでなく天然物らしい。
「塔台ねぇ」
「白いしデカイし、ピッタリだろ?」
にゃはははと明るく笑う龍麻に村雨も安堵の表情を浮べる。
「それじゃあ、帰りましょうかね。お姫様」
「・・・・・!
ひめぇぇぇ〜〜・・・なんじゃそりゃ」
「アンタ眠り姫だったろうが」
3日間の昏睡状態を指しているらしい。
「・・・それはそうだけど・・・姫って・・」
「自分から眠りを覚まして王子を探すとはアンタらしくて最高だな」
「おおじぃぃぃぃ・・・誰が?お前が?頭わいてんのか?」
姫の時より嫌そうに言う。
「そこまで言うか」
「うっさい。てめぇなんか塔台で十分だ。ボーっと突っ立ってろ」
「ヒデェな」
二人共、口調とは裏腹に顔は笑っている。
その時空からチラチラと白い物が降ってきた。
「おー雪だ。ホワイトクリスマス♪イエー」
「・・・喜んでる場合かよ。ホレさっさと帰るぞ。姫様」
「だーかーらー、その言い方やめい!」
「何ならお姫様抱っこで病院に帰るか?」
「バーカ!死ね!」
体の事も考えず走って行く龍麻を村雨が慌てて追っていく。
「馬鹿はどっちだよ。おい、先生。待てって」
「塔台なんだから僕が寝るまで側で見てろよ?」
「へいへい、仰せのままに姫」
「(怒)」【終り】
企画の所では「僕」でなく「俺」だったので苦労しました・・・・
気が付くと「僕」になってんだよ・・・・
コレを書くのに何がツラかったって「本命が村雨の龍麻」がツラかった。あとプレゼント・・・・
ウチの所の村雨と龍麻って兄弟なんだも
でも、いい経験でした。