「千年メダル」
龍麻が寝ている。
おもいっきり朝型の先生が徹マンの途中で寝ちまうのはいつもの事だが・・
「壬生、そんなに先生の寝顔が愛しいか?」
まあ、キレイな顔はしてるがな・・
「村雨さん、からかわないでください」
・・・マジで睨むんじゃねーよ。相変わらず冗談が通じねえな。
「・・・・龍麻、泣いてませんか?」
は?
そう言われて先生の顔を覗きこむが、なんせ顔の半分は前髪なもんでよくわからねえ。
「二人共、何をしているんだ?」
振り向くと盆の上に銚子と御猪口をのせた如月が立っていた。
気がきくじゃねーか。
「あっ、如月さん。いえ・・」
「先生が泣いてんだと」
そっと、先生の前髪をかきあげる。確かに目尻に涙が溜まってるみたいだが・・
「あくびでも出たんじゃねーか」
そう言った途端・・
ツゥ・・と一滴垂れた・・
後は次から次へと流れ始めた。
あっつー間に畳にシミができた。
「泣いているね」
盆を置いてきたらしい如月が俺の横にしゃがむ。
「・・・何の夢を見てるんでしょうね」
壬生も卓から離れて寄って来た。
「しっかし、器用なもんだな」
声も出さずに涙だけがどんどん流れている。機械仕掛けの人形みてーだ・・
「…‥」
ん?
先生がナンか言ったような・・
「……‥」
やっぱりだ。ナンだ?耳を近づける・・
見ると如月と壬生も同じことをしてやがる。
まったく男が三人で何してんだか。
「ヒ・・ラサ・・カ」
・・・・ヒラサカ?誰だ?
壬生に目で問うが知らないか・・ん?
「おい、如月何コムズカシイ顔してんだ?」
「hh〜ん…」
如月が何か言う前に先生が起きたらしい。hhー?ナンか目の感じが・・・―ってなんじゃこりゃーーーー!
泣いてたんか僕!
・・・・・・・・
しかも、めっちゃ見られてたなコイツラに・・・・
不覚!一生の不覚!ピット星人にウルトラアイを盗られたセブンくらい不覚!
ああああ、もう!
「如月!」
「何だい?」
涙目の龍麻が僕の方を睨む。
「フトンひいてあるよな!」
「ああ、離れの方に」
「寝る!」
それだけ言うと、疾風のごとき速さで部屋を出て行ってしまった。
しかし、襖は開けて行ってほしかった。
「おい、如月。さっきのヒラサカって何者だ?」
村雨がいつの間にか手酌で酒を飲んでいる。
その酒は高いんだ、味わって飲め!
「ああ、僕も詳しくは知らないんだが」
仲間になりたての頃、蓬莱寺が口を滑らして聞いたのは・・・龍麻を庇って
死んだ
少女が居た
しかも
龍麻は
その少女を
愛していたhh、恥かしいよー、よりにもよって・・・・あの三人・・・最悪・・
・・・・でも、比良坂が死んでから初めて泣いたな・・・
あの後いろいろあってちゃんと泣いてなかったもんな・・・
ゴメン。比良坂。こんな男で・・
『夢の中の比良坂』
・・もう会えないんだもんな・・・
・・会いたいな・・・一緒に行きたい所いっぱいあんのに・・
・・・話したい事もあんのに・・・
・・約束したじゃん・・・・
・・・hh我ながら女々しい・・・
でも、初恋だったんだよ・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・沙夜襖をそっと開あけると、龍麻が布団を蹴り飛ばして爆睡していた。
今は夢も見ていないのかぐっすりと寝ている。
・・・・・さっきの如月さんの話。
君を庇って死んだ少女。
比良坂さん。
「君は今でも彼女が好きなんだね」
今まで、泣いた事の無い君が夢で涙するほど。
「僕が死んでもそうやって泣いてくれるかい?」
できれば君の前で死にたいよ。君が僕を忘れてしまわないように。
「・・・我ながらバカだね」
死んだ少女に嫉妬するなんて。
「今夜はもう夢を見ないといいね。おやすみ、龍麻」
龍麻の布団を掛け直すと、静かに襖を閉じた。【おしまい】