「新宿コロボックル」
2000年・新宿
壬生紅葉20歳。
暗殺者家業からなぜか退魔師家業にトラバーユ。
日々堅実に仕事をこなしておりました。
昔取った杵柄か仕事は良好。
それなりに順調な毎日ではありましたが。
「はぁーーー・・・・・」
口をつくのはため息ばかり。
それはなぜかと申しますと。
さかのぼる事1年前。
1999年・春。
「えーそれでは大陸でもまれて2cm大きい人間になって帰ってきます!」
(身長168cm、激コンプレックス)
「壬生ー。1年たったら帰ってくるから良い子で待ってろよー」
「んじゃーにー」
と、大変あ軽い挨拶をして壬生の恋人(?)の緋勇龍麻氏(オス・18歳・黄龍)は中国へと旅だって行ったのでした。
それから1年間、会いに行きたい心を押し殺し、今か今かと待っていたのですが。
「全然帰ってくる気配もないんです」
と言うのが落ち込みの原因でした。
出会ったのが18歳の冬、つきあい始めたのがその年明け、そして別れたのがその年の春、そして待つ事1年間。
はっきり言って付き合っている期間より、別れている期間の方がずっと長いのです。
それは落ち込みもするでしょう。
しかも壬生にとって龍麻とはまさに生涯の恋人と言い切っても良いほどの惚れ込みようなのでその辛さは言葉にできません。
しかしこの言葉を聞いて、眼前に居る店主は冷たく言い放ちました。
「・・・・・ま、それは仕方が無い事だろう」
「・・・・如月さん」
涙目の壬生を無視して、店主=如月翡翠はお茶を入れ直すと言いました。
「龍麻は今や完全な黄龍だ。器とは訳が違う。彼が居るだけで龍脈は自然と彼の元へ集おうとする。それがどういう事か君にだって解っているだろう?片寄った龍脈はまた悲劇を生む。だから黄龍は流浪の人生を強要される。龍麻の嫌いな言葉を使うなら、黄龍は死ぬまで彷徨う宿命を背負っているんだ」
如月はここまで一言で言い切ると入れたままのお茶を飲みました。
「・・・・でもあの時は1年で帰って来ると言ってました」
「そうでも言わないと君は彼を離さないだろう?」
「・・・・・・・・・・」
黙ってしまった壬生の湯飲みにも新しいお茶を注いで、如月は出来るだけ優しい口調で言いました。
「まぁ、その内にまたひょっこり帰って来るだろう。今は彼の体の中の黄龍が落ち着くまで待ってあげたらどうだい。とりあえず仕事中は彼の事は考えない事だ」
「・・・・・・・・・・」
壬生は黙ってお茶を飲み黙って帰って行きました。
「・・・・・・まったく」
如月はその後ろ姿を見送り、完全に見えなくなると店に戻り奥から何やら引っ張り出して来ました。
それは昔懐かしの黒電話でした。
ジーコジーコ・・・・
慣れた風にダイヤルを回し、繋がった先は、
Tはーい、今日も元気な黄龍でっす。アナタのお名前は何かなー?U
話題の主、黄龍こと龍麻でした。
「龍麻。ふざけてると切るよ」
Tわー待ってって。いいじゃん暇してんだからU
「暇なのは結構。君が忙しかったらまた何か起こったのかと思うよ」
Tまーねー。で、何?もう駄目そう?U
「ああ、ハッキリ言って死にかけ5秒前といった所だ。そろそろ何とかしてやったらどうだい」
Tうーん。でもまー1年間は持った訳だ。うんうん頑張ったねー壬生くんU
「・・・・・はぁ。君が恋人でさえ無ければアレももっと幸せな人生が待っていただろうに」
T・・・・・酷いね。僕は僕なりに愛してやってるっての。でなきゃこんな物をお前に預けて行かないってU
「それもそうだね」
こんな物=黄龍直通黒電話。世界中どこにいても繋がるミラクルなお電話。
龍麻が中国に行く前如月に託していった物。
なぜ託して行ったかというと。
「壬生の様子が気になるから」
なぜ如月かというと。
「壬生だとしょっちゅう電話してきそうだから」
と言う事です。
「とにかく壬生をあの状態で放っておくと仕事で命を落としかねない。大切なら何とかするんだね」
Tへいへい。つーかもう何とかしてるよん♪U
「え?」
T多分2〜3日中に航空便が届くと思うから、それ持って御門の所行ってくれる?あっちにはもう話ししてあるからU
「・・・・こんな時だけ手回しが良いね」
Tお褒め頂いてありがとう。ま、恋人ですからーU
「・・・・・はぁ」
T如月色々ありがとねー。久しぶりに声が聞けると嬉しくてねー。そん内黄龍も沈静するからそしたらまた会おうなU
「・・・・・・待っているよ」
Tんじゃ、バイバーイU
「ああ」
ガチャン
「・・・・はぁ」
この日最後のため息は、結局の所彼に甘い自分に対してでした。
そして数日後。
手元に届いた物を持って御門の元へと出向く如月の姿がありました。
「・・・・・・はぁー」
変わってこちらは退魔師壬生。
ため息つきつつお仕事中でした。
シャギャー!!
《この人間風情がぁぁぁぁぁ》
月並みなセリフを吐く敵さんを無視して壬生はすっかり引きこもりモードに突入中でした。
(はぁ、淋しい。龍麻に会いたい。会いたいったら会いたい。会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい)
つい仕事中だと言うのにどっぷりストーカーモードになってしまった壬生は隙だらけでした。
「!」
そして気づいた時には敵の爪が目の前にありました。
「チッ」
咄嗟にガードしましたが間に合いませんでした。
(せめて最後には龍麻の声を聞きたかったな)
などと考え衝撃を待ちましたが、思った衝撃は来ず変わりによく知った気が飛び込んで来ました。
(この気は・・・・・)
気は化け物の爪を弾き足下へと落ちました。
「やれやれ、無様としか言いようがないですね。ここで死んだら彼に何と言うつもりですか」
「壬生言っただろう。仕事中は彼の事は考えるなと」
振り返った先に居たのは、呆れた顔をした東の陰陽師御門清明と渋い顔をした如月でした。
「・・・・今龍麻の気が」
「それより早くあの醜い化け物を倒してしまいなさい。話しはそれからです」
御門が扇子を優雅に扇ぎながらそう言い放ちました。
壬生は何が何やら解らぬまま、目の前の化け物をうち倒しました。
「鎮魂歌を聴くがいい」
ゴスッ
ギャァァァァァ・・・・
芸の無い断末魔を上げて化け物は溶けて消えて逝きました。
「今のが決めの言葉ですか・・・また陳腐な」
「華麗な技に比べればまだマシになったと言えるな」
「・・・・・・・・・(真っ赤)」
基本的に決めの言葉なんて身内に聞かせる物じゃございませんので、壬生は大変照れました。
「そ、それよりさっきの気は?」
「話しをそらしましたね。ま、よろしいでしょう。私も暇では無いですしね」
御門は意地悪く微笑み、足下に落ちている物を拾い上げ壬生の鼻先へ突きつけました。
「先程の気はこれが勝手にやったのですよ」
それは黄金の鱗で出来た人形(ひとがた)でした。
真ん中に一寸程の大きな鱗があり、それを胴体を見立てて、小さい連なった鱗が両手両足首頭を作っておりました。
「これは龍麻の鱗ですよね」
龍麻と暮らしていた頃、何度と無く踏んづけては痛い思いをした物でした。
今となっては非道く懐かしい思い出です。
「ええ、龍麻さんの鱗で作りました」
「今朝、龍麻からこれが航空便で届いてね。色々と作業をしててこんな時間になってしまったんだ」
「しかも組み立てた途端に飛び出して行くのですから、まったく本体と同様に手が掛かる物ですよ」
言って御門は持っていた扇子で人形の頭を叩きました。
「壬生の危機を感じて頑張ったと言ってやったらどうです?」
変わって如月が叩かれた人形の頭を指で撫でてあげました。
その光景は龍麻が居た時、よく如月の家で見られた図でした。
(厳格な祖母と躾にうるさい母親)
壬生はこの二人をこっそりそう呼んでました。
ちなみに祖母が御門で母が如月です。(村雨は子煩悩な父)
「あの、それでコレは何ですか」
すっかり二人(+1個)の世界に入ってしまっているので壬生が声を掛けました。
「ああ、そうだった」
「ふ、私とした事が」
御門は優雅に扇子で口を隠すとそう言いました。
彼なりの照れ隠しのようです。
「では壬生さん。これに貴方の気を吹き込んで下さい」
御門はそう言うと手に持っていた人形を壬生に渡しました。
「吹き込むんですか・・・?」
「その大きい鱗に息を吹きかけるようにするんだ」
よく解っていない壬生に如月がそう言いました。
壬生は解らないまま言われた通り、人形に口を近づけると静かに吹きました。
ふぅーーーーーー
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
待つ事数秒。
「失敗かな」
如月が言いました。
「私のする事に失敗などありませんよ」
御門がそう言って笑いました。
「・・・・・・・」
壬生は人形を持ったままどうしようかと思いました。
と、その時。
人形がピクピクっと動き。
「わっ」
壬生の手の平で形を変えました。
「・・・・・ぅうううん。あー・・・・成功かな?よ、壬生元気ー?」
そこに居たのは手の平サイズの龍麻でした。
「龍麻!!!!」
「耳元で騒ぐなー。声響く」
壬生はいきなり出てきた龍麻(まっぱ)にただ驚きました。
「成功か」
「当たり前ですよ」
如月と御門は静かに見てました。
「あの、コレは?」
壬生はまだオロオロしてましたが、龍麻はその手の中で
「ピース!大・成・功♪」
Vサインを出してにこにこしてました。
「服が要るね龍麻」
如月はそう言って笑いました。
「相変わらず考える事が突飛ですね貴方は」
御門もそう言って笑いました。
「ふっふっふ、二人共協力大感謝♪愛してるよー。
で、壬生。何か体に巻く物頂戴」
「あ、ああハンカチで良いかい?」
龍麻に言われて壬生は慌ててポケットからハンカチを出しました。
「んしょっと」
白い綿のハンカチをくるくるっと体に巻くと、何となく風呂上がりを連想させます。
「説明入り用?」
「ぜひ」
「んじゃ、如月ー」
「はいはい」
如月を呼ぶと壬生の手の平から飛び移りました。
「如月骨董品店に集合な。僕らは先行ってるから。ホラ、さっさと依頼者に報告してこい」
ちっこい手がピラピラ振られて、壬生は何がなにやら解らないままその場を後にしました。
ちょっと行って後ろを振り向くと、如月と御門の後ろ姿と如月の肩に乗っかった小さい影が見えました。
(何がなんだか解らないけど、龍麻が帰って来た)
そう思うと足は自然と速くなり、止めようとしても口元は笑ってしまい。
(もういいや)
開き直って笑いながら風のように走る黒い影がおりました。
タイトルの元ネタは「東京コロボックル(高野文子)」です
妖都鎮魂歌ネタ
あのタンビーな壬生を見てたらムラムラ書きたくなりました
チビ龍麻。文字では表現しにくい事この上ない
まー鎮魂歌ベースの「南くんの恋人」「女神様のちいさいって事は」って思って頂ければ(ミもフタもなく)
とりあえず続きます
少なくともあと2回は
迅とかあづさとか出したいねー
それでは2でお会いましょう
こういうのも全然OKって方は感想お願いします!
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