「夏の監禁」
窓から海が見える綺麗な別荘。
緋勇龍麻はそこに監禁されている。
「うーーーーっ。あー朝ですねー」
当の本人は呑気なものである。
目を覚ましベットから起きると台所へと向かう。
足にはお約束のように鎖がつながれている。
さて、この鎖と言う物体。
字で書けば甘美な物であるが、実際足につけて生活するとなるとなかなか厄介な代物だ。
まず、当たり前ではあるが行動が抑制される。
今龍麻が足に着けてるのはかなり長い鎖であるのでそんなに制限はされないが、長いとそれとは別の問題も発生してくる。
一、重い
機会があればホームセンターなどにある鎖を持ってみると良いが、鎖と言うのは想像以上に重い。
鉄の紐な訳だから当たり前と言えば当たり前の事。
しかし、龍麻は結構な力持ちなのであまり気にしてはいない様子。
二、冷たい
鉄なので冷たい。
まだくくってある部分が首輪などの革製なら良いが、現在の龍麻の鎖は足首で巻いて錠前が付いてるだけの物なので直に鎖である。
「むー、冷たくて気持ちいい〜」
しかし、現在は夏なのであまり問題では無い模様。
三、とにかく邪魔
長いと特に邪魔。
例えば、普通の場合。
冷蔵庫に行く時に机を経由するとしましょう。
右から回って冷蔵庫に行ってそのまま左を回って元の場所に戻る。
簡単に出来ますわ。
しかし、鎖があると、
右行って、左に行ったら、
「あ、足が動かねー・・・」
鎖が机に絡んでにっちもさっちも。
オマケに非常に長い物だから、ベットルームから台所まで、雑誌やらゴミ箱やらを絡ませて大変な事に。
「あーーーー面倒クセーーー」
龍麻は自分の後ろを振り向いて、ウンザリと言い放った。
「御門。この鎖邪魔!」
流石にウンザリして監禁した張本人に直談判。
「おや、気に入りませんでしたか」
リビングで雑誌を読んでいた御門はあっさりとそう言った。
「いやー見た目はTこれぞ!監禁!!Uって感じで良いんだけど、日常生活では激!邪魔。見ろいこの僕の惨状を」
と、言って指さした先には鎖に巻かれた、雑誌・ゲーム機・ゴミ箱・ケロッグの空箱・イヤホンのコード・ぬいぐるみなどが群れをなしてた。
「それは貴方が床を片づければ良い話しでは?」
御門は嫌そうに一瞥するとまた雑誌を読み始めた。
「・・・・・・いいけどさー。このまま生活続けたらこの別荘の床ボロボロになりやすよ。それでも良いならいいけどねー」
龍麻はそう言っておもろい集団になった鎖を引き連れて冷蔵庫へと向かった。
その鎖を御門が踏んだ。
「お待ちなさい。それは少し困ります」
「っすよねー」
龍麻はニンヤリ笑った。
この別荘はそもそも秋月マサキ(カオル)の夏の休暇の為に建てられた物。
そして敵の多い秋月家が安全に暮らせるように、先に下見として送り込まれたのが御門である。
しかし、たった一人で1ヶ月間も別荘暮らしと言うのも暇なので、暇つぶし+別荘の安全性確認の為に選ばれたのが現在監禁中の龍麻であった。
御門曰く「黄龍の器が何事も無く1ヶ月過ごせるようならマサキ様も安全でしょう」との事である。
その龍麻への誘い方。
「龍麻さん」
「あに?」
「監禁されてくれませんか?」
「あえ?御門ーあにかおっはって?」
「羊羹を飲み込んでから喋りなさい」
「んー・・・・。っで、何っすか?」
「監禁されませんか?私に」
「御門に?」
「ええ」
「なして?」
「してみたいからですよ」
「ふーん・・・・・」
羊羹二切れ目。
「いいよ別に」
「そうですか」
「そこ環境良い?」
「周りは静かですよ」
「窓大きい?」
「ええ、それなりに」
「光沢山入る?」
「入りますよ」
「風通し良い家が好き」
「貴方の望むように」
「3食出してね」
「美味しい物をでしょう」
「昼寝とおやつも付けてね」
「好きなだけ」
「あとはー・・・・」
「貴方注文多いですね」
「だって長期監禁されんなら居住環境良くねーと」
「成る程」
「あ、まだあった
壬生付けて」
「・・・・・・・壬生さんですか」
「通いでも可。壬生居ないなら行かねーっす」
「そうですか」
と、こんな会話。
常人が聞けば涙しそうな会話である。
「壬生居るって約束したのに居ないしー。帰るー、お家に帰るー」
「壬生さんは仕事が入ってるようでしたから。とりあえず鎖を外しますから来なさい」
チョイチョイとソファーに手招きして来た龍麻を横に座らせる。
「そいやーどこからこんな小道具ネタを?」
「ネットで色々見て回ったら監禁には鎖が付き物のようでしたから」
(どこを巡ってんだコイツ)
ちょっと友を見る目が変わった龍麻。
御門はそんな龍麻に気付かずカチャッと足の鎖を外した。
「おー自由だー」
「大体邪魔なら引きちぎれば良かったのでは?貴方なら動作も無い事でしょう?」
御門の言葉に龍麻はワザとシナを作って言った。
「だって〜監禁されてる身でそんな事したらご主人様にお仕置きされちゃうし〜」
「床を痛める方が怒りますよ。そんなポーズしてないで朝ご飯でも食べてしまいなさい」
「はーいっと」
あまり乗ってくれなかったので龍麻は渋々冷蔵庫に向かう。
「しっかし、静かですなー」
「当たり前です。五月蠅い場所に静養に来ますか?」
「来ません。はい」
コプコプと龍麻がコップに牛乳を注ぐ。
「御門。牛乳飲む?」
「結構です」
「あそ」
チンとトースターが音をたてる。
「御門」
「結構です」
「へいへい」
モシャモシャと超熟ロールを食い、ゴクゴク牛乳を飲み、ぼんやりと御門を見る。
「御門」
「何ですか?」
「何読んでん?」
「科学雑誌ですよ」
「ふーん」
モッシャモッシャ
ゴクゴク
「御門」
「はい」
「僕は御門の事が好きですよ」
「そうですか。私もですよ」
「そうですか?」
「そうですよ」
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
「御門。作ってないし」
「そうですね」
カチャカチャと皿を洗っていたら、首筋に軽く電気のようなものが走った。
「おう、壬生がやって来るな」
「そうですね」
御門も気付いたようである。
御門はわざとらしく音をたてて雑誌を閉じると言った。
「これで私達の蜜月も終わりですね」
それを聞いて龍麻がニヤっと笑った。
「おや、蜜月でしたか」
「ええ」
「そうでしたか」
「そうだったんですよ」
言って御門もにっこりと笑った。
とりあえずはそれだけの事。
やがて壬生がやって来て、
「どうして別荘の下見が監禁に繋がるんですか・・・・」
と非道く常識的な事を言った。
それに対して御門は、
「御希望なら今度は貴方込みで監禁してさしあげますよ。それもなかなか楽しそうですし。お揃いの首輪を買いましょうね」
と笑って言った。
龍麻も、
「壬生居るならも少し監禁されててもいいっすな。首輪は僕が黄色で壬生青な」
と言ってニーッと笑った。
壬生は、
(何でこの二人はこうなんだろう)
と思って肩を落とした。
そして何とか絞り出した言葉に、御門と龍麻は顔を見合わせて吹き出した。
何と言ったかは三人だけの秘密である。
確か、いやらしくない監禁ネタを書こうとして、数年前に書いた物
なので夏です。たとえアップしたのが冬でもここは夏です
御門と龍麻は仲良しで、意地が悪いのが理想
お互い他に好きな人居るし、でも貴方の事も好きですよー、あー僕も僕もー
みたいな感じ
御門がちょっと茶目っ気出して、手足の健とか切って監禁しても龍麻は笑って許す。そんな関係(そして御門は謝らない)
そんな二人が壬生は結構本気で怖い
久々魔人楽しかった。やっぱり龍麻は良いなー