「犬神先生と僕4」
どんなに長く生きていても予想のつかない事というのは起るものだ。
例えば、家に帰るとワンピース姿の人物が居て、しかもそいつが俺の生徒(男)だったりする事だ。
「いっ犬神先生!出張じゃなかったんですか!」
御丁寧にカツラまでつけた人物が叫ぶ。
「出張は明日だ。・・・・緋勇、お前人の部屋で何をしているんだ・・・・」
「ははははは・・・・・さいなら!」
ダッシュで逃げようとする緋勇を後ろから羽交じめにする。
「ふにー!離して下さいーーー!」
「何をしているのか話せば離してやる」
今日は満月だ、いくら緋勇といっても簡単には解けないだろう。
「・・・・・・・・・女装です・・・・・」
それは見れば解る。暴れるな、コラ!
足を蹴って座らせる。こっちの方が押えやすい。
「だから、何で女装なんだ?」
「トップ・シークレットです」
「ほう、・・・遠野は喜ぶだろうな・・」
「ギニャー!先生のイジワル!」
いつもお前が俺にしている事だろうが。
「・・・・僕なりのストレス解消法です」
「あと、義姉ちゃんが女物いっぱい送ってくれたんです。着ないともったいないでしょ?」
普通自分で着ようと思うか?
「・・・・・自分の部屋でしろ」
「誰か来たらどうするんですか!」
「やっぱり見られるのは嫌か?」
「いえ、見られるのは平気なんです。問題は・・・」
平気なのか?
「僕のこの姿に惚れるアホが居るんですよ。あとは、黙ってしまったり。で、そんなにが嫌なんでこの部屋を貨りて勝手に遊んでたんです・・って先生?」
「っっあ?何だ?緋勇」
「黙らないで下さいよ〜」
まさか、本当に見惚れるとは・・・・
・・・・・満月の所為だな。
「ところで、どうやって部屋に入った?」
「こんなショボイ鍵、針金でチョイですよ」
得意気にするな。
「とにかく何をするにしても、人の部屋を使うな」
「はい」
「素直だな」
「こんな恰好じゃあ、いつもの調子でませんよ〜」
なるほど。
「緋勇、その服の下は何を着てるんだ?」
緋勇が喉元のリボンを解いて中を見せる。
「普通のランニングか。下着は女物じゃないんだな」
「先生〜も〜離して下さいよ〜」
緋勇が足をバタつかせる。どうやら本当に嫌らしい。
そろそろ解放してやるか・・・
バタン
「ちょっと!犬神さん!静かにしてくださいよ・・・・アラごめんなさいね。お邪魔だったわね・・・」
バタン
大家が瞬時にドアを開けてまた瞬時に閉じて帰っていった。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
フト、壁にかかった鏡を見る。
緋勇を羽交じめにしている俺。
だが、第三者から見れば・・・
「脱げかけのワンピース姿の少女を後ろから抱きしめている中年オヤジって所でしょうか?」
「・・・・・・・・・」
なんて事だ・・・・・・
「・・・あの・・先生・・何とお詫びしてよいか・・・」
「・・・いい、何も言うな・・・」
俺は緋勇の肩に頭を乗せて盛大にタメ息をついた。
まったく、なんてこった。男の姿で戻るとさらに誤解を招く恐れがあるので、女装したままの緋勇を途中まで送ってやった。珍しく静かな所を見ると本当に反省しているらしい。
帰ってくると、思った通り大家が待ちかまえていた。
「犬神さん。さっきは悪い事したわね。恋人が来てるって解っていたら私も行かないけどさ、ホラ、床薄いでしょう?色々と聞こえちゃうのよ。でもホントにキレイな娘さんね。あれは、あと3年もすれば凄い美人になるわよ。ひょっとして生徒さん?アンタもスミにおけないわねぇ。この前は金髪の美人も来てたし・・・・」
一生かかっても終わりそうもない無駄話を聞き流しながら、
T何で俺はいつもこんな目にあうんだ?U
などと考えていた。
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