「犬神先生と僕2」
「犬神先生〜。」
聞き慣れたというか嫌になるほど聞いた声に振り向く気も起らない。
「先生、先生、せんせー」
無視してコーヒーをすする。まずい。
「先生ってばぁぁ、巫炎!」
間一髪でよける。
ボオッ
向いの小林先生の机が燃え上る。・・テスト作り直しか・・かわいそうに・・
「何をするんだお前は!」
何か毎度このセリフを言ってるな・・・
「ははははは、まあまあ、それはさておき」
バサッ
目の前に一冊の雑誌。
『月刊 犬食い10月号 ありがとう50周年。』
・・・・なんだこの本は・・・
「先生、ココ見て下さい」
・・・なになに
『愛読者の皆様に感謝の意味をこめて、「第一回、あなたの愛犬写真コンテスト」を開催いたします♪ふるって御応募下さい♪』
『大償・償金30万円とあなたのワンちゃんをモデルに焼き物をお作りします』
あとは、つらつらと、償品が書いてある。
「・・・・・で?」
「いいですよね〜、犬の焼き物〜」
「・・・・・で?」
「ははは、先生、ナニ怒ってはるんですか?」
嫌な予感がする・・
「・・・・何を企んでるのかは知らんが、今日は新月だ残念だったな」
新月である事をこんなに有難く思ったのは初めてだ。
「ははははははははははは」
・・・・ブキミな奴だ。
「先生」
「何だ?」
とっとと飽らめて帰ってくれ。
「コーヒーおいしかったですか?」
・・・・?
「やっぱ、裏密は天才ですよね。まさか満月草を作れるとは」
・・・・・・まさか
「先生、コーヒー・お・い・し・か・っ・た・で・す・か。」
やられた・・・・
「ヴヴヴヴヴ」(甘い、甘かった)
「先生、うならないで下さいよ。さっきから恐い顔ばっかりじゃないですか」
緋勇の策略にはまった俺は完璧に狼になっていた。
白衣やズボンやらが絡まって気色悪い。
「・・・先生。まじめにしてくれないと服を燃やして新聞部の部屋に放り込みますよ」
デジカメを構えた緋勇がさわやかに怖い事を吐く。
「犬神先生、放課後のストーリーキング・・・杏子喜ぶだろうな〜」
「・・・ワン」(わかった)
「じゃあ、先生目線コッチで笑って下さい♪」
・・・・・できるか・・・
それから、小一時間はどしてやっと開放してもらった。
「クウウウウ?」(そういえばこの薬はいつ切れるんだ?)
「ああ、もう切れますよ。そんなに飲んでないでしょう?」
「グルルル」(よく俺の言葉が解るな)
「え?でも、ウチの犬とも会話してますし。普通そうでしょ?」
「・・・・・」(つっこむのはやめよう)
「?何か変な事言いました?」
「・・・・・」
数ヵ月後
今日は朝から調子が悪い。何となく原因はわかるが・・
「先生〜♪」
振り向きたくはないが、そうも言ってられまい。
「緋勇、何か用か?」
にこーっと笑う緋勇の手にはアノ雑誌が握られていた。
「入償したんです〜♪」
やっぱりそうか・・・
「何で暗くなってんですか?ああ、大償じゃあなかったんです」
「フー、欲しかったのに先生の焼き物」
・・・・いらん
「何かカワイクないのが受けたみたいです♪ラッキーですね」
大きなお世話だ。
「―で、何位だったんだ?」
「ははははははは、よくぞ聞いて下さいました」
また嫌な予感が・・・
「特別償・ペア温泉旅行(一泊二日)GETです♪」
・・・・・・・・・・・
「一応11月に予定組んどきました♪では、また」
てけてけと帰って行く緋勇をボーゼンと見送った。
「あっ、先生。その雑誌さしあげます♪二冊買ったんで。それじゃあ、さようなら♪」
緋勇が入口の所で叫ぶ、手を振っているので振り返してやる。嬉しそうだ・・
ハア・・疲れた・・
緋勇の置いて行った雑誌をペラペラ開くと俺の写真が載っている。
緋勇の付けたであろうタイトルが目に入った。
特別償・東京都 緋勇龍麻くん(18)
雑種 犬先生
『大好きな犬先生と僕』
何か笑えた。
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