「花ごよみ」

 朝、緋勇龍麻が玄関のドアを開けると、花束が置いてあった。
 何か剣に似た花。
 よくよく見れば束って程多くもなく。
 とくに気にせず頂戴した。

 そして、次の日もあった・・
 その次の日も・・
 また次の日も・
 そのまた次も・・・

 いいかげん部屋が花に侵略されそうなので(すでに花瓶が無い)これを贈って来た人物を探そうと思った。

 まず、この連日贈られてくる花は「グラジオラス」という花らしい。
 本数は決まって9本。
 それとは別にかすみ草が数本。
 (これの本数は日によって違うので意味は無いと思われる)


 
 さて、いったいこの花束は何が言いたいんだ?

 うーーーん
 うーーん
 ああ?
 解らん・・・・
 だいたい僕は花言葉とかには詳しくないんだ・・・
 こんな時は・・・

 ピポパ・・・
 トルルルルルル・・・・
 ガチャ
 『はい、比良坂です。あ、龍麻さん。何か御用ですか?』
 『グラジオラスの花言葉ですか?ええ、知ってますけど・・』
 『色によっても変るんですけど、一般的には、忍び逢い・用心・情熱的な恋って所ですね』
 うーん。
 何か、これを贈って来た奴の意図とは何か違う気がする。
 『あと、グラジオラスにはおもしろい話があるんです・・・

 午後9時。
 いつものように2人分のお茶を用意する。
 用意をしているのは壬生紅葉。この家の家主である。
 彼はここ10日ばかり、いつも同じ事をしている。
 でも、お茶を飲むのは彼一人。
 待ち人は来ない。
 それでも、こうしてお茶の用意をして待っている。

 きっと彼はあの意味に気づかない。
 それならそれでいい。
 こうして居る方が僕には似合うから。

 すこしだけ寂しげに、それでも満足そうに頬笑んで紅茶を口に運ぶ。

 ピンポーン

 その時玄関でチャイムの音がした。
 ハッと顔を上げる。

 ピンピンポーン

 今度は少し怒ったようにチャイムが鳴る。

 まさか、と思いつつも急ぎ足で玄関に向かいドアを開ける。
 しかし、そこに待ち人の姿は無く、代りに小さな花束が置かれていた。


 
 小さい菊に似た花の花束

 不思議に思いつつもその花を持ってリビングに戻ると、さっきまで自分の居た席に人が座って紅茶を飲んでいた。

 「龍麻」
 「・・・・解りにくすぎ」
 あきらかに不機嫌そうな待ち人の姿に思わず吹き出してしまう。
 「笑うな!誰の所為でこんなに不機嫌だと思ってんだ」
 「ハハハ・・・ごめんごめん」


 
 『グラジオラスの花は密会の花とも言われていて、贈る本数によって密会の時刻が決まるそうなんです』

 ―9本の花の意味は『今夜9時に貴方に会いたい』―

 「・・・誰が解んねん」
 あまりにも遠回しなデートの約束。
 「しかも、僕が気づくまで10日。毎日こんな事してたのか?」
 こんな事とはお茶の用意と毎朝の花の宅配。
 「最初は図書館で花の本を読んで、ちょっと面白そうだなっと思ったんだ」
 自分の分も入れて龍麻の横に座る。花はとりあえず机の上へ。
 「それで、花屋に寄って君の家に宅配を頼んだんだ。でも何日たっても君がこないから意地になって。自分でも、いつやめればいいのか解らなくなってたよ」
 そう言って笑う。
 「・・・・馬鹿者」
 「確かにそうだね」
 「その上。かすみ草がお前の誕生花なんて誰が気づくよ」
 「君。気づいてくれたじゃないか」
 壬生がそれは嬉しそうに答える。
 「・・・・・・・・」
 「本当は気づいてくれなくても良かったんだ。こうして君が来るかな?って思いながらお茶を飲むの楽しかったから」
 今頃、龍麻は僕の贈った花に頭を悩ませているかな?っとか。
 花の意味気づいたかな?っとか。
 色々と。
 「・・・ストーカー体質」
 龍麻が嫌そうに眉をしかめる。
 「悪かったね。でも、本当は面と向かってお茶に誘うのが怖かったのかもしれない」
 そんな龍麻から目をそらして壬生がポツリと言う。
 「・・・・何で?」
 「だって、僕が会いたい時に君が会いたいとは限らないだろ?」
 「・・・・・・壬生君」
 ちょっと目の座った龍麻。
 「僕達、付き合ってるよな?恋人同志ってやつだよな?」
 「・・・多分」
 「じゃあ、なんでお前はそんなに気ィ使っとんねん!!!!!!!!!」
 ガッシャンと派手に音を立ててカップが机に置かれた。
 「だー!もー!この不幸慣れした男め!そんなに僕の愛情を疑うかー!」
 いきなり怒り出されたので壬生はどうして良いか解らず茫然と龍麻を見ている。
 「ハァーハァー・・・」
 机に叩きつけてしまったカップから紅茶を飲んでクールダウンした龍麻が壬生に言った。
 「・・・ええがな、お前が誘いたい時に誘ったら。駄目な時はそう言うし。
  ・・・・だいたい、お茶に誘われて嫌な奴と付き合いますかいな。
  ・・・・本当、お前って臆病者」
 そこが好きなんだけど・・・っという言葉は飲み込んでおく。
 「・・何か言う事は?」
 「・・・ごめんなさい」
 しゅんとしてしまった壬生の頭を撫でてやる。
 こういう所も好きだったりする。

 でもね、龍麻
 疑いたくもなるんです
 君は皆に好かれているから・・・
 こんな(この表現も龍麻は嫌がる)僕でいいのかな・・・とか
 その他にも色々と・・・

 龍麻に頭を撫でられながらそんな事を考えていた壬生に龍麻が言った
 「今度から花は7〜8本な。9本だとあんまり長く喋れないだろ?」
 えっ?という顔をしている壬生に龍麻は
 「本当は花の誘い。面白かった」
 と言って笑った。
 でも、愛情は疑うな
 と念も押された。


  
 「あっ、忘れる所だった。僕の贈った花は宿題な。ちゃんと意味調べろよ?」
 「花?・・・玄関に置いてあった花束かい?」
 「そう、ヒントは『花の名前はアスター』。そんじゃーなー。バイビー」
 「え?龍麻?」
 クエスチョンマークを付けた壬生をほって龍麻は帰ってしまった。


 
 翌日。
 言われた通りに花言葉を調べる壬生。
 「アスターアスター・・・っと・・・・あった・・・・
  ・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・」
 ガバッ
 いきなりしゃがみ込んでしまった壬生に隣で本を探していた生徒が驚いた。
 「・・・あの?どうしたんですか?」
 「いや、何でもないよ・・・ありがとう」
 そうは言うがまったく動けない。

 ・・・・もしかして僕は幸せ者なんじゃないだろうか・・・・

 拳武館ナンバーワンアサシンが耳まで真っ赤にしてそんな事を考えていた頃・・・

 「だーーーー!やっぱりやめときゃよかったーー!!!!」
 っと新宿真神で黄龍が悶えてたりする。

 ※アスターの花言葉『貴方が思うより私は貴方を愛しています』※


 なんだかとっても馬鹿ップル・・・・

 多分付き合い初め。壬生の自信がまったくない頃。一緒に暮してないし(そういえば何で一緒に暮し初めたんだろう・・?)

 花言葉は調べていくと面白かった。アスターって結構地味な花なんですが、あの花言葉にはまいった。誰が付けたんだか・・・・

 面白いといえば「りんどう」の花言葉「悲しんでいる貴方が好き」ってのも何だかねぇ(ウチの龍麻の為にあるような言葉だ・・)

 しかし、リクエストの花これで良かったのかな・・・・・あと、シリアスなのだろうか・・・

 この子は初の里子という事で海星ひとでさんのHPに置いてもらってます。

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