「初まりの時」

 私の名前は「月読加代」という。
 ツクヨミカヨと読む。
 しかし今は「神夷加代」である。
 カムイカヨと読む。
 ゴロが悪いったらない名前。
 それもこれも先日私の両親が揃って他界したから。
 そして両親共に天外孤独だった為、彼等の親友だった神夷家に引き取られたというわけ。
 なんというか昨日まで近所の幼なじみだったものが1晩あけたら兄妹というのも不思議な話だと思う。


 
 そんな事はまぁどうでもいいのだけど、問題はその後の事。
 最初に言っておくと私は菩薩眼なる物を持ってて、この菩薩眼なる物は大変便利な物で欲しがる輩は数多く存在するらしい。
 しかも嫌な事にその欲しがる輩というのがどうもこの世界の者では無い。
 そして亡くなった両親もこの人外の者達から私を守る為に死んだのだ。

 死んだ者はこの際置いておいて、問題なのは死んだ両親に代って私を守るようになった元・幼なじみ、現・兄の「神夷京士浪」と共通の友達「龍蔵院鉄州」である。

 はっきり言って私は人に守られるのが大嫌いだ。


 
 両親はまぁ許そう。
 しかし、それが他人でしかも男友達なんて最悪。

 「どーした加代機嫌悪いな」
 五月蠅い
 「ちょっと待ってろもう1匹で終るからよ」
 そう言って哀れな小鬼の首が飛んでいった。
 見物としてはなかなかだと思う。
 でも、なんでこの私がまるで姫のように男2人の背中に隠れてないといけないのか・・・
 考えただけで腹が立つ。


 
 「やっと終ったな。さてと帰るか。鉄州も家に寄ってくか?」
 「あーいいな。・・・・加代なんだよさっきからイラついてんな」
 「・・・・・・別になんでもないわ」
 なんでもあるけど・・・・
 「私ちょっと寄る所あるから先帰ってて」
 今日こそはアレを試してみないと。
 「・・・1人で大丈夫か?」
 「・・・・・大丈夫よ」
 なにが大丈夫だと言うのか・・・自分でもおかしいわ。
 「じゃあね」
 何か言いたげな2人を残してさっさとその場を後にする。

 やって来たのは町外れの神社。
 別に神頼みに来た訳ではない。
 とにかく人気の無い所が良かったのでココを選んだのだ。


 
 さて先日死んだ私の両親は、元々はハンターであったらしい。
 それがどういう物かは知らないがとにかく人外の物と戦う術を持っていたのは間違いない。
 そこで両親の遺品を探してみるとなるほど出るわ出るわ。
 怪しげな魔道書に初まりサタニストと間違えんばかりの品がわんさと出てきた。
 その中から、とりあえず自分で解りそうな物を持って今日はこうして試しに来たのである。

 今日試そうと思っているのは、
 「尸童―よりまし―」
 という術だ。
 これは自分の体に神や悪魔を乗り移らせて戦う咒術らしい。
 ヘタをすると自分の体を乗っとられるらしいが・・・・
 試してみる価値はあると思う。

 そもそも女の体というのは戦いには向いてないのだ。
 月経はあるし、所々出っぱってるし。
 筋肉とか骨とか、男に負ける要素はいくらでもある。
 それでも戦いたいと思えばこんな方法しか無い。
 私の考え方は間違ってるだろうか。
 ・・・・間違ってても自分の命。
 掛てみるのもまた一興かと思うんだけど・・・・

 「それでは初めますか・・・・尸童・阿修羅」

 失敗した・・・・と解ったのは意識を乗っとられた後だった。

 「・・・・・あっ、気がついた?」
 目を開けると真近に、同い歳くらいの男の顔があった。
 よく日に焼けて「健康優良児でーす」っといった感じの顔だ。
 でもどこか品があってこの顔は嫌いじゃないと思った。
 「大丈夫?ちょっと強く入れたからすぐには起きない方がいいよ」
 何を言っているのか解らなかったが、すぐに先程の自分の失態を思い出した。
 (体乗っとられて・・・・で?)
 周りを見ると凄い事になっていた。
 神社はキレイに下半分になり、その周りの木々も平行に切り倒されていた。
 どうやら私を中心に阿修羅が切りさいたらしい・・・・
 「・・・・そういえば・・・阿修羅は?」
 「ああ・・・・あの子なら倒した。今頃は元の世界だと思うよ」
 倒した・・・・そう言ったのだこの男は。
 「・・・・・・」
 「トーゴとランニングの途中でココに来たら君が暴走してたんで・・・戦った。ごめんね、ちょっと本気出したから多分痣になってると思う」
 痣・・・・
 なっているのだろうか・・・・
 どうも体が上手く動かなくてよく解らない。
 「とりあえず君の腹に1発と首の所に1発入れたから、帰ってから鏡で見るといいよ」
 その後もう一度「ごめんね」と言って男は私を立たせてくれた。
 足がフラついてお腹に力が入らなかった。
 しかたがないので男の腕にしがみ付いてなんとか立ち続けた。
 「無理しない方がいいって。家解るなら送って行くけど?」
 「・・・結構よ」
 体に痣作って更に男に送ってもらったとあっては京士浪やら鉄州やらが何て言うか、想像できるだけにうっとうしい。
 「そう?じゃあもう少し休んでるといい」
 そのままドンと下に座らされた。
 「おい、弦麻どーするんだ?私はもう帰るぞ」
 声のした方を見るとこの男とそう歳の変らない男が呼んでいた。
 紳経質そうな感じの男だと思った。
 「あートーゴちょっと待っててくれ。んーじゃあ帰るわ。本当に大丈夫?」
 「大丈夫よ。そう言ってるでしょう?弦麻」
 さっきの男がそう呼んでたので真似して言ってみる。
 弦麻と呼ばれて男はちょっとビックリしたみたいだけど、すぐにニーっと笑って背を向けた。
 そしたらトーゴ(どんな漢字?)がホッとした顔をして、それから私を思いっきり睨んでから二人で帰って行った。
 まーなんというか弦麻はしらないがトーゴはそういう事なのだろう。


 「くされホモめ」


 
 それからしばらくして京士浪と鉄州がやってきて、この神社の事を口五月蠅く聞いたけど知らぬ存ぜんでやり過した。


 
 帰ってお風呂の中で見てみると確かにクッキリと痣が出来ていた。
 首とお腹に出来た赤黒いソレをなんとなく指で撫でてみた。
 それからコレを付けた「弦麻」について思い出してみた。
 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・明日もアソコに行かないとね
 ・・・・・・・やられっぱなしは私じゃないもの
 ・・・・・・来るかしら?「弦麻」は?

 それが恋なのか復讐なのか今はどっちでも良かった
 ただもう一度会いたいとそう思った
 これが私達の「初まり」だった


 本来「尸童」は神をおろせる子供を指すそうですので使い方は間違ってます。

 加代さんの技のイメージは「仙木の果実・八房龍之助」に出てくるジュネな感じです。もしくはペルソナの降魔。

 阿修羅とか言ってますけどイメージ剣持った千手観音。名前勝手に作りゃー良かったかなーと思ったり。

 ナルがホモだったり色々してますけど、まー親世代はこんな感じで。

 歳的には皆15、16くらい。   

 

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