「うぇぇぇぇぇぇぇん・・・・」
「泣かないで、ね?ホラ私達が付いてるわ」
「・・・・・(頭痛てぇ)」
泣きじゃくる龍斗とソレを慰める美里と、なんでか龍斗の手を引いてあげている京悟は仲良く(?)内藤新宿に着きました。
「だー!いい加減泣きやめよ!」
京悟の我慢にも限界が来てました。
でも手はつないであげてる所がイイ人です。
「蓬莱寺くん。そんな言い方ってないと思うわ。彼にはきっと何か悲しい過去があるのよ。もっと優しく受け止めてあげないと。ねぇ、緋勇さん」
そう言って美里は龍斗の涙を拭いてあげました。
この美里藍という人物。これだけ見てるとかなり慈愛に満ちた人物に見えますし、正にその通りなのです・・・が!
言い方を変えればこの人、不幸な人間大好きなのです。
不幸万歳!幸薄カモン!益々輝く私!
そんな人でした。
その為完全に不幸で可哀想な龍斗は正に美里の好みのタイプなのでした。
ついでに龍斗は結構いい男でもありました。
ここの所もポイント高いようです。
「・・・・ありがとう」
そんな美里の思いも知らず龍斗は素直にお礼を言いました。
ズギューーーーーーン!!!!!
その幼子のような言動と動作が更に美里さんのハートをゲッチューしました。
(ハァ・・・・いいわ・)
「・・・なぁ、そろそろ宿探さねーか?日が暮れるしよ」
京悟が至極当然の事を言いました。
「それもそうね」
三人は宿を探す事にしました。
「・・・やっぱり内藤新宿は人が多いねー」
「あら?緋勇さん。ココに来た事あるの?」
「・・・・・いいや」
それは陰での記憶でしたので、ココで言う事はできませんでした。
「・・・なんだよそれ」
「・・・・聞かんでくれ。また泣きそうになるから・・・」
「・・・すまねぇ」
とりあえず三人は宿のある所にやって来ました。
「部屋がありゃいいがな」
京悟がそう言って宿屋に入ろうとした時中から女の人が出てきました。
「おっと、ごめんよ」
「いや、大丈夫だ」
なかなか綺麗な女の人でした。
その女の人は半泣きの龍斗を見てこう尋ねました。
「・・・・そっちの子大丈夫かい?」
この大丈夫というのは「体」の事でしょうか「頭」の事でしょうか・・・・
「・・・大丈夫です・・グス。心配してくれてありがとうございます」
「大丈夫ならいいのさ」
と言って女の人は龍斗に微笑みかけました。
それを見て龍斗もちょっと笑いました。
はい、ここで説明しておきましょう。
じつは外法帖の龍斗はちょっとオバコンというか、年上の女性に弱いのです。
ですから彼の好みのタイプは式神の葛葉さん(激色っぽい狐の姉さん)だったりします。
ちなみに剣風帖の龍麻はロリコンです。好みのタイプはマリイとサラでした。
ピッキーーーーン!
そしてこの会話と雰囲気に金属音を立てているのが我等が美里嬢です。
もちろん黙って見過ごす訳にはいきません。
さっと龍斗の前に立つと女性にお礼を言いました。
「どうも、私の緋勇さんに優しくしていただいてありがとうございます。でも、せっかくお知り合いになれたんですけど私達これから食事に行かないといけないんです。名残惜しいですけど、これで失礼致します。さあ、行きましょうか?緋勇さん」
言うが早いか、そこに京悟を置いてさっさと龍斗の手を掴んで行ってしまいました。
「「・・・・・・・」」
置いて行かれた京悟と女性は黙ってその後ろ姿を見送りました。
「・・・・・困った事があったら龍泉寺においで」
「・・・・・・ああ」
心底同情した声でそう言われ京悟は泣きたくなりました。
蕎麦屋。
「・・・つーか置いていくなよ!町中探したろうが!」
店の戸を開けるなりこう叫ぶ京悟を誰が責めれるでしょうか。
というか探してしまう辺り彼の今後のポジションが決まそうです。
「あら、蓬莱寺さん。来たの?」
「・・・うーん。蕎麦よりうどん食べたかったなー」
助けて貰った分際で「来たの?」呼ばわりする美里と、完全にお品書きに心を奪われている龍斗。あまりと言えばあまりな光景でした。
「・・・(俺も泣きてーーー)」
とも、思いましたが美里に介抱されるのは死んでも嫌だったので我慢しました。
「あ、蓬莱寺くん。遅かったねー何してたの?」
やっとお品書きから目を上げた龍斗がのほほんと聞きました。
どうも食事にありつけて少し元気になったようです。
「・・・・・別に何もねーよ」
「あーそうそう、美里ちゃんがご馳走してくれるんだと、何頼む?」
ホイとお品書きを京悟に渡しながら嬉しそうに言いました。
しかし京悟にはその「ご馳走」が完全に一名限定だと解っていたのであまり嬉しくありませんでした。
「うふふふふふふふふふふふふふふふ。蓬莱寺くんも遠慮しないで?お礼なんだから」
その後、お礼参りにもきそうな感じで美里さんは言いました。
京悟は聞かないフリをしてさっさと酒と蕎麦を注文しました。
「お前も一緒でいいよな?緋勇」
「んー」
龍斗の分もついでに頼んであげました。
はっきり言って完全にお人好しです。
少ししてとりあえず酒がやってきました。
「そう言えばお前飲めるのか?」
見た目がちんまいので念のためそう聞きました。
「・・・・・・」
しかし龍斗は酒を持ったまま固まっておりました。
回想シーン
「酒は良い。酒は茶の変わりになるが、茶は酒の変わりにはならんからな。
お前もそう思わんか?緋勇」
・・・・天戒。酒も茶の変わりにはなんないと思うよってあの時馬鹿にしてました。
ゴメン・・・・・つーか・・・会いてぇぇぇぇーーー!!!!!!
「・・・・・ふぇ・・・」
いきなり涙ぐんだ龍斗に京悟は「ヤバイ!」と思い、美里は「チャンス!」と思いました。
と、その時・・・・・・
ガラガラガラ・・・・・
戸が不機嫌な音を立てて開きました。
そして更に不機嫌そうな男が入って来ました。
「・・・酒あるか?」
ボサボサの不良中年。犬神杜人でした。
「・・・へ、へい。ございます」
「じゃあ、コレにつめてくれ」
そう言うと犬神は持っていた酒瓶を店主に渡しました。
「いつも行ってる酒屋が休みでな」
ついでに聞かれてもない事も言いました。
そして自分の方を不審な目で見てる二人を睨みました。
「・・何だ?何か用か?」
「・・・・いえ、別に」
「・・見てねーよ」
実は入って来た時からかなり不審な目で見ていましたが、言わないで目を反らしました。
「・・・・ふん」
そして、机の上でさめざめ泣いている龍斗を見ました。
「・・・・・・」
その姿は何か言いたそうにも見えました。
「お待たせしました」
その前に奥から酒を詰め終わった店主が帰ってきました。
「ああ、金はそこで泣いてる奴が払う」
「・・・・・は?」
いきなり言われた言葉に店主と京悟と美里が驚きました。
しかし驚いている三人を尻目に犬神はさっさと出ていこうとしました。
そして去り際に一言。
「龍斗。払っておけ」
「はいはい。飲み過ぎないでね、お父・・・・は?」
正気に戻った龍斗が身を起こした時にはもう犬神の姿はありませんでした。
「・・・僕今何か言いました?」
「・・・・・いや、つーかお前かなり自然に返してたぜ?」
「・・ええ。お知り合い?」
「・・・・・・いや、知り合いじゃない・・・と・・思うんだけ・・ど」
言い切る自信の無い龍斗でした。
「・・・とりあえずお代は払って下さいよ」
そして店主の心配はココでした。
釈然としないまま、犬神の酒代を払った龍斗はしばらく頭を悩ませていましたが、答えは見つかりませんでした。
「とりあえず、考えんのは後にして飯食おうぜ」
「そーだーねー」
いつの間にか来ていた蕎麦を前にさー食べようとしたその時・・・・
「ぎゃぁぁぁぁ!鬼だー!」
外から叫び声がしました。
「なにぃ!鬼だと?おい緋勇行ってみようぜ」
鬼の言葉にいきり立った京悟が振り返った先には、
「美里ちゃん。醤油取って」
「はいはい」
外の声など完全に無視して蕎麦を食べる二人がおりました。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ガク」
「?蓬莱寺くん食べへんの?」
「あら。せっかくご馳走して上げたのに食べないつもりかしら?」
「そうじゃねーだろ!ちょっとは慌てるとかしろよ!」
京悟ブチ切れ。
「だって蕎麦勿体ないじゃないか」
「そうよ、食べ物を粗末にしちゃ駄目よ?」
まったく動じてない二人の言葉に京悟はまた泣きそうになりました。
「それにココは私の馴染みの店だし。そんな勿体無い事したら・・・ねぇ?」
最後の「ねぇ?」には何か背筋を寒くするニュアンスが含まれておりました。
「まーまー、とりあえず蓬莱寺くんも食べなよ。ほら座って」
龍斗が椅子を進めたので、京悟も腹を決めて蕎麦を食べ始めました。
もくもくもくもく(大丈夫なのかさっきの奴)
もくもくもくもく(やっぱうどんの方が好きだなー)
もくもくもくもく(食べてる姿も可愛いわ・)
三者三様に物思いにふけながら蕎麦を食べ終わりました。
「御馳走様でした。おじさんお代ここに置いて行きますね」
「ごっとーさん」
「ごちそうさま」
内藤新宿通り
「さっき声がしたのってココだったっけ?」
あれから結構な時間が経っていたので場所の判別が難しくなっておりました。
主人公グループがこんな事でいいのでしょうか・・・・
「だから!あの時行っときゃよかっただろ!」
京悟は叫びましたが無視されました。
「あら、あそこに人が倒れているわ(喜)」
一瞬美里の顔がほころびましたが、それに気づいた人は居ませんでした。
(・・・・・今あいつ笑わなかったか?)
訂正、京悟のみ気づいておりました。
三人はその倒れてる人に側に行きました。
どうもその人はお侍のようでした。
しかも刀で斬られたのか大怪我を負っていました。
「まぁ、誰がこんな非道い事を(喜)」
(笑った!今、絶対笑ったぞ!なんだコイツ・・・)
京悟は本気で美里が怖くなりました。
龍斗は気づいておりません。というか何かを探してきょろきょろしてました。
そしてそんな京悟の気持ちも知らずに美里は怪我人を助けにかかりました。
「・・・・鬼が・・・・おにが・・・」
お侍はうわごとのようにそう呟きました。
「黙って(私の見せ場だから!)・・・今傷を塞ぎますから」
美里はそう言うとお侍の体を抱きしめました。
すると、体が青く光り見る見る内に傷が塞がっていきました。
剣風帖からの美里の十八番です。
(ああ、流石は私。まさに聖女?菩薩?はぁ・・・・最高・)
美里は己に完全に酔ってました。
そして京悟はそれを怖ろしい物でも見るように見てました。
(切支丹の妖術か?・・・・怖ぇ)
龍斗は余所の方向を向いて和んでおりました。
「・・・おい、緋勇。何和んでんだよ・・・・うわぁ!」
龍斗の見ていた方向には数人の鬼の面を付けた男達がおりました。
(下忍のおじちゃん達だ〜。)
「和んでる場合かぁぁぁ!戦闘だ!戦闘!」