「逆光」

 初めて彼を見たのは写真の中。
 僕が殺すターゲットの1人だった。
 長い前髪がうっとうしそうだと思った。

 次に彼を見たのは地下鉄のホーム。
 仲間達に囲まれて立っている彼は眠たそうだった。

 「・・・眠い〜〜〜〜なー、京一の事は良い思い出として帰ろうぜ」
 「ひーちゃん駄目だよ」
 「そうだぞ龍麻」
 仲間達にたしなめられている。
 それはそうだろう。

 「じゃあ、とっとと倒して帰るか・・皆、戦闘開始」
 そう言って僕の方を見た目は・・・はっきり言って恐ろしかった。

 その後、まあ色々あって僕は彼等に倒された。
 真近で見る彼の目は爬虫類の目に似ていた。
 (瞳孔が縦長に見える・・・)
 その目がニッと弓なりに曲った。
 「よーし、終了♪帰って寝よう」
 僕に手を貸して笑う顔は意外と間が抜けていた。

 さらにその後も色々とあった。
 (あの八剣と武蔵山の倒され方といったら・・・・)


 
 「なにがT蓬莱寺京一見参Uじゃ!貴様、人の主人公の座を狙ってるだろ!」
 「狙ってねー!誤解だひーちゃん!痛ぇ〜〜〜〜〜イテテテテテ〜〜〜」


 
 ・・彼が殴りまくっているのは心配していた仲間なんじゃないだろうか・・・

 「変っているけど、あれでも愛情表現なんだよ」
 王蘭の制服を着た人がそう教えてくれた。


 
 愛情表現?仲間の頭をごみ箱で殴るのが?

 「如月!気色悪い事ほざくな!・・京一君、今度こんな事したら・・裏密に売るぞ。」
 「わぁーーーー!悪かった本当に悪かった。許してくれーーーー」
 「くくくくくく、わかりゃーいいんだ。わかりゃー」

 「さ・て・と、帰るか・・・・ってあーーーー!」
 何だ・・?
 「眠い・・・こっから新宿に帰るなんて拷問だ・・・っという訳で」
 つつつと彼が寄って来る。
 「君、家近い?」
 「・・・?」
 「近いだろ?葛飾区民なんだから」
 「あ・・ああ、ここから歩いて15分くらい」
 彼は何が言いたいんだろう?
 「そーか、そんじゃ。行くか」
 「・・・は?」
 「じゃあ、皆また明日」
 「ああ、ひーちゃん。またな。・・・そのなんだ、悪かったな」
 「いいって。傷は美里にでも治してもらえ」
 「フフフ、まかして龍麻。それじゃあね」
 「じゃあね。ひーちゃん」
 えっえっ?
 口々に別れの言葉を言って去っていく、彼等。
 でも、僕は何が起っているのかよく解らなかった。
 「壬生君。それじゃ、後は頼んだよ。龍麻、僕の携帯を貸しとくよ。いいかげん君も持ったらどうだい?」
 そう言って王蘭の人が緋勇君のポケットに自分の携帯を押し込んだ。
 「めんどいからイヤ」
 「・・・あの・・」
 「ん?ホラさっさと行くぞ」
 「行くってどこへ?」
 「お前の家」
 ???????
 頭にクエスチョンマークを付けたまま、僕は彼と家に帰った。
 途中どこを歩いたのかさえ覚えていない・・・

 「うーーー眠いーーーー眠・・・・・・」
 「緋勇君ソファーでいいかい・・・?」
 そう言って振り向いた先には人のベットで熟睡している彼がいた。


 
 結局ソファーには僕が寝た。

 トントントントントトトトト・・・・・
 ・・・・包丁の音・・・
 ・・・・・・アレ?何でソファーで寝てるんだ・・?
 ・・・・・・・・
 ・・・・・・・・
 ・・・・・・・・
 ・・・・ああ、昨日緋勇君が人のベットを占領して・・それで・・
 トントントントン・・・・
 このリズミカルな包丁の音は彼が出しているのだろうか・・・
 とりあえず起きないと・・・
 慣れないソファーで寝た所為か体の節々が痛い。


 
 とりあえず制服に着がえて台所に行くと案の上彼が居て何か作っていた。

 「・・・・緋勇君」
 「ホイホイっと、あ、起きたか。何かぐっすり寝てたんで勝手に台所使わしてもらったよ。・・・・冷蔵庫のモンで食べて欲しくなかった物ってあった?」
 「・・・いや」
 というか、たいした物は入ってなかったはず。
 「じゃあ、食べよう。いただきます」
 「あ、ああ・・」
 他人の作った食事なんて何年ぶりだろう・・・
 何か変な感じだ・・・
 「料理上手だね」
 「まーな。こっち来る時に義父にきつくしこまれたからな。ウチの義父は主夫なんで料理とかすっごい上手なんだよ」
 「へー」
 それにしては・・ミソ汁の具がマカロニなのが気になる・・・

 カチャカチャ・・
 「で、1つ聞きたいんだけど・・」
 それから黙って食べていて、中程にまで来た時、彼が唐突に言った。
 「お前、誰?」
 ・・・・・・・・・
 「・・・・・・は?」
 「って言うかここどこ?何で僕はここに居んのじゃ?」
 もしかして・・・・
 「君、昨日の事覚えてないの・・・・かい?」
 ズーーーーーーーーーー
 マカロニミソ汁を1息で飲みほして、彼はきっぱりと言った。
 「全然、覚えてない。何かあったんか?」
 あったもなにも・・・・
 ピピピピピピピピ・・・・・・
 「ん?携帯、僕のポケットか?」
 そう言って昨日押し込まれていた携帯を取り出す。
 「はい?もしもし?・・・如月?あーおはよう・・・うん、まったく覚えてない・・・フーン・・・そうか・・・うん、解った解った・・・あーじゃあ、コレは行きしなに返すわ・・・え?帰りでいい?・・サンクス・・・でわな」
 ピッ
 「聞いた?」
 「聞いた。何か色々あったみたいやね。お礼言っとけって。どうも、ありがとう」
 「どういたしまして」
 ピピピピピピピピ・・・・・・・・
 「だーまたかい。はい?次は誰や?・・・・京一?何、生きとったん?・・・え?昨日会ったって?・・・・まー気にすんな、いつもの事や・・・・フンフン・・・ん、解った・・あースマンかったな・・・ん、そいでは学校で・・・じゃーなー」
 ピッ
 「蓬莱寺君?」
 「ああ、こっちからもお礼言っとけって。朝っぱらからマメな事で」
 「いい友達だね」
 「確かに、僕より僕の事解ってるからな・・・いい人材だ」
 その人材を昨日は殴ってたけどね・・・・
 「ところで君。ここで目が覚めてどう思ったんだい?」
 いきなり他人の家だし・・
 「あー別に。なんか僕は昔っから眠くなるとその辺の家やらに忍び込む癖があったから、またそれかな・・・っと」
 それってヤバイのでは・・・・
 「それにしては今回は家主がソファーで寝てるし。おかしいなと・・でもケンカになっても勝てそうだし、悪い奴じゃなさそうだし。まあ、大丈夫だろうという事で・・」
 「朝食を作っていたと・・」
 「ピンポン♪それにお前、僕の名前言ってただろ?名前知ってんならそんなに危険じゃないから」
 「なんで名前で判断するんだい?」
 「ん?本当にヤバイ奴は僕の事「黄龍の器」って呼ぶからさ」
 ・・・黄龍の器?
 「あー、今はまだ気にせんでええよ。その内解るし。それでは、ごちそうさまでした」
 ふと見ると彼はもう食べ終っていた。
 ずっとしゃべっていたのに・・・・早い・・・
 「・・・えーっと、What's your name?」
 「ああ、昨日も自己紹介したけど、僕は拳武館高校3年の壬生紅葉」
 「拳武館・・・・ヒゲの所か・・・」
 ・・・ヒゲ?
 「・・・ミブ、壬生ね。覚えた覚えた。僕は緋勇龍麻。ひーちゃんとか呼ばれてるけどその呼び方嫌いなんでよろしく」
 「・・・よろしく」
 昨日はひーちゃんと呼ばれてたような・・・
 「ところで壬生クン。時刻表ある?新宿行きの」
 「ああ」
 冷蔵庫に張ってある時刻表を渡す。
 「サンクス。・・・えーっと、・・・こう見んのか?・・次は6分か・・これに乗るからもう行くわ」
 「行くのはいいけど・・・・道は解るのかい?」
 「・・・・ハハハハハ」
 「・・・送って行くよ」

 「そうなんだよな・・昨日の記憶が無いのに駅に行けるかっちゅーねん」
 葛飾の駅までの道のりをぶつぶつ言っている。
 「まったく覚えてない方が悪いよ」
 「それはしかたがないのです。チミ達拳武館があーんな遅い時間を指定するからです」
 「そんなに遅いかな・・」
 仕事内容を考えれば普通の時間なんだけど・・・
 仕事内容・・・・シゴトナイヨウ・・・・
 そこで、はたと自分と彼との世界の隔たりなんて物を考えてしまった。
 ・・・・・・・・・・
 「・・・・壬生君」
 ・・・・・・・・・・
 「おーい、壬生君・・・壬生!」
 「わっ!」
 いきなり耳元で大声は出さないでほしい・・・
 「壬生君てサボテンみたいだねー」
 「は?」
 「ツンツンしてそう・・・くくく、気に入った。僕がその棘を無くしてあげませう」
 「は?」
 話が見ない・・・・
 「いやいや、気にすんな。僕が勝手にする事だから。っという訳で君も今日から僕の仲間だ。拒否権は無い。嫌だってんなら直接、館長のヒゲに言う。解った?」
 「・・・・・?」
 「君みたいに不幸好きな奴は見ててイライラするから、・・・僕が幸せにしてあげる」  
 ・・・・・・・・・僕を幸せにする・・・・君が・・・・?
 「とにかく今日から仲間。友達。・・・まー呼び方は何でもいいや」
 「よろしく♪」
 にっこり笑って手を出してくる彼の姿はなぜか後光がさしているように思えて。
 気が付くと彼の手を握っていた。
 「・・・・よろしく・・」
 「ふふふふ・・・・(サボテン1個ゲット)」
 なぜか不敵に笑う彼は酷く幼く見えた・・・


 
 「あーこっからなら見えてるから大丈夫。あんがとさん。じゃーねー。まったねー」
 手を振って駅に向かう彼を見ながら、
 彼の事だから明日になったら忘れてるんじゃないだろうか・・・・
 とか思っていた。

 そして、もしそうだったら酷く寂しいな・・・などと柄にも無い事を考えてしばらくそこに突立っていた。

 こういう気持ちは何と言うのだろう・・・・・・ 


 なんというか思ってたより恥かしい話になってしまった・・・・

 壬生君初恋?しかしあんな出合いで惚れんなよ、と言いたい・・・

 タイトルの「逆光」は「恋というのは太陽を背にした人物を見てるようだ」っていう心理学から・・

 ようはあんまりはっきり見えないって事。騙されてます壬生さん・・・・・

 「壬生君」「緋勇君」とよそよそしいのもいいね。君付けは引かれるのですよ。

 カップリングは恋人同士になるまでが1番楽しいと思うのは私だけですか?

 片思い最高!イエー!

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