「穴の中」
「晴明様・・声が聞こえませんか」
「声ですか?」
とある放課後。第八十八代目安部晴明こと御門晴明とその式天后芙蓉は大きな空家の前で足を止めた。
「こちらから聞こえてきます」
芙蓉が空家の中へと足を進める。晴明もしかたなくその後をついていく。
元々は立派な家であったと思われるが今はいたるところに草がはえ、壁や床には穴が開き見る影もない。
こんな所に入る物好きが居るのかと思い・・・一人の人物の顔が浮かんだ。
「おおーい誰かーっと、よお芙蓉に御門。元気?」
やはり思った通りの人物が居た。
「・・・・・やはり貴方でしたか」
いつものように扇子で口を隠してため息をつく。
「御主人様。どうなさったのですか?」
「・・・・どうって・・」
深さ4〜5mの穴の中に龍麻は落ちていた。
「穴の中に居る」
「「・・・・・・・」」
「帰りますよ、芙蓉」
「御意」
「だぁーー待ってくれーーー」
なさけない声を上る龍麻。
「だいたい何でこんな所に居るのです」
「・・・・先にあげろよ」
穴の中から睨むがどうしても上目使いになるため怖くない。
「砂の家という小説を御存事ですか?」
「やめてくれ・・・もういいだろ、あーげーてーー」
「しょうがないですね。芙蓉、何かつかまる物を探しなさい」
「御意」
数分後
「晴明様、こんな物しか見つかりませんでした」
手にしているのは長さ2mほどの木の枝。
「さっ、コレに捕まりなさい」
穴の中にソレを入れる。
「よいせっ」
枝を使って登ろうとするが・・・
ボキッ
ドサッドサッ
案の上、枝が折れた。
「だぁー重いーのけーーー」
「失礼な、そんなに太ってませんよ」
今度は御門も落ちた。
「晴明様!御主人様!大丈夫ですか?」
「のけーお前の肘が鳩尾(みぞおち)に入ってんだよ!いてーよ!」
穴の中の龍麻がうるさい。
「芙蓉。村雨を呼んで来なさい」
「御意」
タタタタ・・去って行く芙蓉。狭い穴の中、男二人。はっきり言って暑苦しい。
狭いので向い合わせに座っている。
「・・・なんで村雨・・」
「しかたがないでしょう」
「・・・・・怒ってます?」
「当り前でしょう」
小さくなる龍麻。
「だいたい何でこんな所に居るんです?」
「ああ、それは近道しようと思って」
「近道?」
「そー、地図によるとココを通ると皇神まで100m程近いんだよ」
それで穴に落ちてれば世話は無い。
「なぜ、皇神に?」
「お前達に会いに来たんだよ。決ってるだろ」
「・・・なぜ?」
「なぜなぜ、うるさいね。友達なんだから遊びに行ったっていいだろ?」
「・・・・・・・・」
「・・・・友達だよな?」
「・・・・・・・・」
「・・・・おーい」
「・・・・・・・・」
「先生。向えに来たぜって御門どうした?」
穴の上から村雨と芙蓉が覗いていた。
「晴明様、御気分でも悪いのですか?」
「・・・いえ、別に・・」
「なんでもいいからあーげーてー」ボロボロの二人とそれを見て笑っている村雨さらにそれを怒る芙蓉。
変な四人組は仲良く帰路につきました。
「なー、御門。僕達友達だよな?」
「フフ、そういう事にしておきましょうか」
「あっ、ヒデェ」