「10月9日」

 俺がまだ餓鬼で、仲間と群で暮していた頃。
 一度だけ『黄龍』を見た。
 夜空を1直線に月に向かって飛んでいた。

 それから時間だけがどんどん進んで
 今、俺は一人で『人』の恰好をして暮している。

 「先生♪」
 「・・何だ?」
 ビシッ(黄龍特製スタンガン)


 
 「・・・・・・おい、緋勇」
 「流石は先生。もうお目覚めですか。で〜も〜動けないでしょう?」
 その通りだ。
 俺の手足は何か紐の様な物で縛られていて。動かせない。
 「それは、トルーマンのT魔法の紐Uの切れ端なんでたとえ先生といえども切れませんよ」
 「・・・何の真似だ?」
 流石に腹が立ったので怒りを込めて聞くが、目の前の奴には気かない。
 「今日は先生の誕生日でしょう?お祝いしてあげます。で、先生の為にプレゼントを掘って来ますので、ココで大人しくしてて下さい」
 「ココ」というのは緋勇のマンションだ。
 「トルーマン」
 Tハイ龍麻様U
 隣りの部屋から気にくわない緋勇の飼犬がやって来た。
 「犬神先生の見はりよろしく。逃がさないように」
 Tオマカセ下サイ。龍麻様。タトエ手足ヲ食イチギッテデモ逃ガシマセンU
 「・・・・いや、そこまではせんでいいから」
 そこまでされてたまるか・・・
 「それでは、犬神先生。留守番してて下さいねー」
 Tイッテラッシャイマセ。龍麻様U
 ・・・しかし、何を掘ってくるつもりだ?

 緋勇が出てからちょうど1時間。
 犬はずっと俺を監視し続けている。
 (律儀な事だ)
 面倒なので犬には構わず、テレビのチャンネルを入れる。
 なんの面白味もないバラエティ番組をやっている。
 他をまわすがとくに大差の無い物ばかりだ。
 それでも暇潰しに見ているとニュース速報が入った。
 T本日17時20分頃。突然富士山の中腹が地割れを起しました。幸い死傷者はゼロ。関係者の話では、地割れ部分はまるで人がこじ開けたかのような感じだという事ですU
 ・・・・・・嫌な予感が・・・
 犬の方を見ると静かに目をそらした。

 「ただいま帰りました」
 ニュースから30分後に恐ろしく汚れた緋勇が帰って来た。
 手には大きな黒い岩を抱きかかえている。
 (・・・・・?)
 その岩に何か異和感を感じる。
 「あ、先生気づきましたか?」
 「緋勇。ソレは・・・」
 「そうです、正真正銘『月の石』です」
 どこか誇らしげな緋勇の横で岩は黒々と不敵に光っていた。

 「昔々に採って来てあの山に埋めたんです。いやー、まさかあんな高い山になって『霊山』なんて呼ばれるようになるなんて夢にも思わなかったですよ」
 風呂に入ってすっかりキレイになった緋勇がこの岩について話し初めた。
 空には本物の月が光っている。今夜はカミソリの様に細い。
 俺の恰好は、さすがに紐は解いてもらったがこの岩の所為で狼の姿だ。
 (緋勇には言葉が通じるので問題は無いが)
 T緋勇、昔というのは・・・U

 幼い頃に見た『黄龍』の事を思い出す・・・まさか。

 「ずーーーーーーーーーっと昔。一人だったから暇にまかせて月まで散歩に出かけたんです。晴れてて気持ち良かったなー」
 38万Hはしんどかったけど、と笑いながら言う。
 「まーその時の記念ですね、コレは。で、今日なんでか急に思い出して、あー先生にあげよう!って思って掘りに行ったんです。ちょうど誕生日でバッチリ」


 
 ああ、そうかコイツがあの時の黄龍か・・・

 「先生。コレ何にしましょうか?タイピン?カフス?ネックレスは先生イメージじゃないし・・・・時計の飾りにすんのもいいかも・・・って先生?」
 T安心しろ聞いているU
 「?・・・・まーコレ付けてれば新月でもそんなにグロッキーになんないですみますよ、って先生何をボーっとしてんですか」
 T緋勇U
 「はい?」
 T・・・・一人で寂しくは無かったか?U
 「・・・・元々、先生の所と違って群で暮らさないから。あんまし感じなかったですね」
 TそうかU
 「まー昔の話ですよ」
 TそうだなU

 遠い昔の話だ・・・

 T緋勇U
 「はい」
 T今度月に行く時は俺も連れて行けU
 「あーそれはいいなー。
  本当、月から見る地球ってキレイなんですよ。青い月みたいで」
 その時の事を思い出しているのか、うっとりと月を見ている。
 「でも」
 視線は月の方を向いたまま、
 「どんなにキレイでも、たった一人で月に行くより、こうして誰かと月を見てる方が僕は好きです」
 そう言って犬の頭を少し撫でた。


 
 たった1匹で空を泳いでいた『黄龍』

 T緋勇U
 「はい?」
 俺はいつもの様に緋勇の頭を撫でてやる代りに頬を軽く舐めてやった。
 「・・・あ、ははははは」
 T人狼!U
 照れたように笑う緋勇と殺気立つ犬。
 Tどうかしたのか?U
 「はははは・・・テレてます・・・はは」
 どうやらされるのは慣れていないらしい。
 「あー駄目だ!恥かしい!・・・・・・hh、不覚・・・」
 犬にしがみついて暴れている。

 そんなに照れる事か?

 「・・・クソー・・あんな事言わんかったら良かった・・・・」
 フテ臭れている緋勇は見ていてなかなか楽しい。
 「・・・・悔しいなーっと・・・あー先生。言い忘れる所でした」
 ひょこんと人の目の前に正座して、にこっと笑う。
 「犬神先生。誕生日おめでとうございます」
 T・・・・・ああU
 「で、これはさっきのお返しです」
 T・・・ん?・・・うわっU
 いきなり前から押し倒された。
 ついでに犬まで乗ってきた・・・
 T・・・・重いU
 「くくく。月の石はタイピンにしましょう。僕が作ってあげますよ」
 もういつもの緋勇に戻っている。


 
 つまらん

 T緋勇U
 「はいな」
 T幸せか?U
 「もちろん」
 TそうかU
 「そうです」
 先生もそうでしょう?っと言って抱きつく緋勇の頬をもう一回舐めてやった。
 今度は照れもせず嬉しそうに笑った。

 昔見た『黄龍』は今は『人』でしかも俺の『生徒』として暮している。

 T時間ってのは不思議な物だ・・・・U
 「ん?あーそうですねー。あの頃はこんな風に暮せるなんて考えもしなかったですよ。その後トルーマンにも会えたし。先生にも会えたし。長生きはするもんですねー」
 Tああ、そうだなU
 「にー、幸せだー!」
 T苦しい!しがみつくな!U

 結局そのまま緋勇にしがみつかれたまま寝てしまい。
 朝には体中がバキバキ言っていた。

 

 ●おまけ●
 「はい、先生。誕生日プレゼントのタイピン。この前約束した分」
 「・・・・・・・・・・緋勇」
 「(ニッコリ)はい?」
 「・・・・今、何の時間か解っているか?」
 「(さらにニッコリ)犬神先生の生物の授業中」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 「(とどめにニッコリ)まー、あの晩のお返しという事で」
 「(まだ、根に持っていたのかコイツは・・・)」

 亀の甲より歳の功。
 たかだか、数百歳の『人狼』は数千歳の『黄龍』には勝てないのでした。


書きたい事を全部書いたらえらい事に・・・まとまり悪いですね・・・
書きたかった物は「黄龍」「人狼」「月の石」です(あと「頬を舐める」)
犬神=人狼
はオフィシャルのままなんですが
龍麻=黄龍
ってのはマイ説定です。
色々と裏説定は有るんですが、あまりにもマイ説定なので割合しました。
とりあえず、「犬神先生誕生日おめでとう」「猫神さん所の龍麻は黄龍なのね」とでも思っておいて下さい。
龍麻は龍脈と一緒になって初めて完全な『黄龍』になると・・そういう事にしといて下さい
「月の石」はこれからも出したいなと思っているアイテムです
「ムーンストーン」はウチの龍麻の誕生石(6月)らしいので、その辺も使っていきたいなと・・・

 

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