「わり算包丁」

 朝、寮の食堂。

 学生達が朝ご飯を求めて混雑しておりました。
 神鳳がその中で人を探して歩いておりました。
 暫くウロウロしておりましたら、目的の人物がいつもの親友とのんびり座っているのが見えました。
 足早にそこに近づき、とりあえず朝の挨拶をします。
 「九龍くん。おはようございます」
 「あ、神鳳くんおはよー。良かったらこの席どうぞー。僕はもう食べ終わったから」
 神鳳が席を探していると勘違いした九龍が立ち上がろうとし、神鳳はそれをやんわり止めました。
 「いえいえ、僕はもう朝食は食べましたから」
 「そうそう、神鳳くんは4時起きさんでしたな。早起きは良い事です」
 言って九龍はパチパチと拍手します。
 「ジジイだから早く目が覚めるんだろう」
 皆守はいらん事を言いました。
 「・・・・・・皆守くん。そんな事を言ってますと分けてあげませんよ?」
 「・・・・・・何をだ?」
 皆守の質問を無視して、神鳳は九龍を椅子から立たせると自分の前に移動させました。 「なに?身長測定?」
 「いえいえ、すぐすみますよ」
 この時の神鳳の笑顔に背筋が寒くなったとは後の九龍のコメントです。
 「それでは動かないでくださいね」
 にこやかにそう言うと、薪を割る要領で、九龍の頭めがけて、
 包丁を振り下ろしました。

 「ぎにゃーーーーーー!!!!!!」
 「おい!神鳳!!」

 カッポン☆

 かなりマヌケな音を立てて、
 九龍が二人に分裂しました。

 小さい九龍(推定年齢7〜9才)×2です。
 「あ、僕だー」
 「おう、僕だ」

 「成功ですね」
 「・・・・・・・・・・」
 神鳳はにっこりと笑い、皆守は開いた口がふさがりませんでした。

 他の生徒達は、
 (生徒会役員と転校生のする事は見て見ぬふり。俺は何も見ていない)
 と呪文を繰り返しました。

 「葉佩九龍くん」
 「「はーい」」
 神鳳に呼ばれて小さい二人が挨拶します。

 「とりあえず、右が九龍くん(甲)で左が(丙)にしましょうか」
 「「・・・・甲乙丙ですか・・・」」
 「・・・・・・・・」
 皆守はまだ固まっています。

 「それじゃ、僕はこっちの九龍くんを貰いますから、皆守くんはこちらをどうぞ」
 言って九龍(甲)を連れて行こうとしました。

 「待て!待て待て待て!!!」
 それを皆守が止めました。
 「はい?」
 「・・・・・・何をした?」
 「はい?」
 「九ちゃんに何をしたか答えろ!!この目無し!!!!!!!」
 「「いやいや、神鳳くん目あるし」」
 九龍ズの突っ込みが入りましたが、そんな問題でなく。
 「ふーーー。皆守くんはこんな時融通が利きませんね」
 「俺まで非常識になったら誰が突っ込むんだ」
 皆守の言う事はとても正論でした。
 周りの生徒もウンウンと頷きました。

 「解りました。説明しましょう」
 言って手に持ってる包丁を指さしました。
 「これで切ると何でも割られるんです」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「それでは僕はこれで」
 と言って九龍の手を引こうとしましたのでまた止めました。
 「・・・・・・意味がわからん」
 「・・・・・・皆守くんは頭が悪いですね」
 と言うか神鳳が端折りすぎです。

 「じゃあ、順を追って説明しましょう」
 神鳳が話し始めました、
 「昨日の事です・・・・・


 
 僕の元に謎の小包が送られて来ました。
 差出人は無く、不審に思ったのですがとりあえず開けてみたんです。
 中には【わり算包丁】と書いてる大きな包丁が入ってました。
 一緒に入っていた説明書には
 Tわり算包丁・物でも者でもモノでもこれに欠か かかればすべて÷事がデキます。大好きなあの子もツインに!さあ、レッツト ライ!U 
 と書いてありました。

 ・・・・・・で、使ってみたんです」
 にこやかに神鳳が言いました。
 「使うな!!!そんなヤバイ物!!!!!!!」
 「・・・・うわー怪しげな説明書・・・・」
 「・・・・・よく僕死ななかったなー」
 皆守が怒鳴り、九龍ズが説明書を見てビビリました。
 「まー結果オーライという事で」
 まったくオーライにはなってません。

 「・・・・それでこれからどうするんだ」
 とりあえず、4人で席について水など飲んでクールダウンした頃、皆守が聞きました。
 「どうって、僕と君で半分こしたら良いんじゃないですか?」
 神鳳はいたって普通に言いました。
 皆守は駄目だコイツと思いました。

 
 「そうよ、駄目よ」
 皆守の心の声かと思いましたら、後ろに双樹が立ってました。
 「双樹さん。駄目って何故ですか?」
 「駄目に決まってるじゃない!」
 「・・・双樹」
 自分と同意見の双樹をちょっと見直した皆守でしたが、
 「二人で分けるなんてせこいわ」
 この言葉に固まり、
 「一人は私に頂戴!」
 この言葉で撃沈しました。

 「ああ、そういう事でしたか」
 納得のいった神鳳が九龍(甲)を引き寄せ、またカッポンと包丁で割りました。
 するとなぜか九龍(丙)も二人に分かれました。
 「おや?」
 「連動性なのかしら?」
 「わーボクがよにんー」←九龍@
 「わー」←九龍A
 「わー」←九龍B
 「わー」←九龍C
 更に小さく(4〜5歳)なった九龍がワラワラおります。

 「どーすんだ一体!!!」
 皆守が怒鳴りましたが、二人は気にもとめません。
 「そうですね、僕が当初の予定通り一人引き取りますよ」
 「じゃあ、私は二人貰うわ。阿門様の家に連れて行くから」
 「阿門様の家に連れて行かれるなら、先に聞いておいた方が良くないですか?」
 「それもそうね」
 と、阿門を呼び出しました。

 数分後、寮の食堂に阿門がやって来ました。
 「ほーら、坊や達。パパがやって来ましたよー」
 双樹の言葉に九龍×2がノります。
 「パパー」
 「パパー」
 「・・・・・・・・・・パパ」
 聞き慣れない単語と目の前の子供に阿門の動きが止まります。
 「阿門、落ち着いてよく聞け」
 皆守が説明しようとしますが、それより先に双樹が言いました。
 「阿門様・・・・・私と阿門様の子供達。九(きゅう)と龍(りゅう)ですわ」
 すごくベタな名前です。
 「・・・・・俺の子供・・・・」
 「ええ」
 と双樹が頬を染めて頷きます。
 「・・・・・・・・・・・・・」
 暫く頭を抱えて悩んでいた阿門ですが、きっぱりと言いました。
 「わかった認知しよう」
 「阿門様・・・嬉しい」

 
 「・・・・・阿門様。完全にアホですね」
 「・・・・・・阿門。いいのかそれで」
 「と言うかあの二人、子供出来るような事はされてないですよ」
 「・・・本当に足枕だけか。あの二人」
 「ええ」
 びっくりするくらい清い関係の阿門と双樹です。

 「では、屋敷に帰るぞ」
 「はい、お父さん」
 「ラジャー、お父ちゃん」
 「じゃあ、神鳳またね」
 即席親子が仲良く退場しました。

 「じゃあ、僕達も一人ずつ連れて帰りましょうか」
 「・・・・いいのか、それで」
 「いいんですよ」
 きっぱりそう言って神鳳は九龍の手を引いて行ってしまいました。

 そして、残された皆守の横にも一人おります。

 「・・・・・九ちゃん」
 「あい?」
 「カレー好きか?」
 「すき」
 「辛いの大丈夫か?」
 「んー、ちょっとダイジョブ」
 「じゃあ、甘いの作ってやろうな」
 あきらめモードに入りつつ、皆守も九龍の手を引いて部屋へと戻って行きました。

 後には、(今見た物は全部夢だ、夢だ、夢なんだ)と呪文を唱える沢山のモブ生徒だけが残されました。





 「わり算包丁」って何さ?とかは聞かないように
 多分、未来デパートの誤送

 ここの法則として、子供になると漢字がカタカナになります
 逆に漢字以外がカタカナの場合は人外が喋っているか、外人が喋っています(例・トト)

 阿門はアホなので、子供を見せられて「貴方の子です」と言われたら認知します
 それが責任の取り方と思っています。簡単に財産を取られそうなお人です