「追加事項・極度の寒がりです」

 世の中には、寒がりの人間と暑がりの人間が居ります。
 我らが葉佩九龍は前者です。
 訂正・極度の前者です。

 「おはやう」
 皆守が九龍を起こしに部屋に行くと、布団の固まりが九龍の声で喋りました。
 「おはやうじゃないだろ。服を着替えろ。と言うか制服の上に布団を巻くな!」
 「いやー。寒いー」
 布団をはぐと、下からシベリアから来ました調のコートを着た九龍が出てきました。
 「さーむーいー」
 巻き出た九龍は素早く、毛糸の手袋をつけ、帽子を目深にかぶり、とどめにマフラーをグルグルと巻きました。
 「着すぎだ」
 「だってー寒いやん。凍死するがな」
 「するか」
 とりあえず、モコモコした九龍を連れてマミーズに向かいます。
 「何で朝食もファミレスなんよー。三食ファミレスなんて高いし栄養片寄るがね」
 「天香九不思議のひとつだ。気にするな」
 「マミーズまでも寒いー」

 「マミーズへようこそ。何にしますかー」
 「カレー」
 「葛湯とあんかけうどん七味&ショウガ増量でお願いしやす」

 朝ご飯を食べたら、校舎へ向かいます。
 「さーむーいーパート2」
 先程から寒い以外を口にしてません。
 「まったく」
 「駄目ですよ。そんなに着込んでは」
 後ろから声をかけられ、振り向いた先には、マフラーどころかコートも着てない学ランオンリーの神鳳が立ってました。
 「見てるだけで寒っ」
 九龍が自分のコートをかき抱きました。
 「相変わらず薄着だな」
 「当たり前じゃないですか。青森に比べたら東京なんて南国ですよ」
 「南国に北風は吹きませぬ」
 「南極ですよ」
 「南極寒いよ」
 「いいからさっさと教室に行くぞ」
 「では、ご一緒に」
 神鳳が仲間に加わりました。(RPG風)

 「そういえば、お前去年もコート着てなかったな」
 「さすがに雪が降ったら着ますけどね。今は着るほどでもないでしょう」
 「まあな。九ちゃんもちょっとは見な・・・・」
 見習えと言おうとして、振り返った先に九龍はおらず、ずーっと後の方の日溜まりにしゃがんでるコートの小さい者が居りました。
 「・・・・ちゃんと付いて来い」
 「今日はここでビバークします。僕の事は忘れて下さい」
 「本当に寒がりなんですね」
 さすがに少しあきれ顔な神鳳です。
 「あ、神鳳くんあきれておられますな」
 「ええ、少し」
 「むー、暖かい事を幸せだと思うのは人類の遺伝子に組み込まれた事ですよい」
 本当です。
 「僕は別に暖かさを否定はしてませんよ。ただ、今の九龍くんは着込みすぎです」
 「・・・・むぅー」
 神鳳に言われるとヘコむ九龍です。
 「今からそんなに着込んでては。青森では・・・・凍死しますよ」
 「マジですか!」
 「本気にするからやめてやれ」
 皆守が止めますが、止まりません。
 「青森をなめてはいけません。青森の雪は身長を越えます。人が立ったまま凍ります」
 「凄い。流石は北国!」
 「騙されるな!」
 「ですので、薄着しましょう」
 「何がですので?!」
 言うが早いか、バサバサ脱がしていきます。
 「にぎゃぁぁぁぁーーーーーー」
 毛糸の手袋、帽子、マフラー(シルク)、コート(オーダーメイド)、セーター(アンゴラ)、セーター(カシミア)、セーター(ウール)、セーター(化繊)・・・・
 「何枚着てんだ!」
 「ラッキョみたいですね」
 「薄いのを沢山重ねた方が温いんだぞ」
 「限度があるだろ。限度が」
 ちなみに靴下五本指。の上から普通の二枚重ね。

 「ざーみぃーー、う゛ぁーみぃーさぁーー」
 ついに寒いすら出なくなりました。ついでアシモフコードが反転してます。
 「はいはい。シャンと立って歩く」
 「教室まで行けば暖かいぞ」
 捕獲された宇宙人風に連れて行かれる九龍です。

 「日本の四季は、春夏秋春でええよ。冬嫌いー」
 九龍の言葉を聞いて神鳳が返しました。
 「僕なら、春秋秋冬がいいですね。東京の夏はいりません」
 「あー・・・・真夏のお前はなー」
 皆守が何を思い出したのかうんざりした顔で言いました。
 「?」
 わからない九龍と読者のために、夏の神鳳はこんな感じです。

 半袖シャツにズボン、ここまでは他と同じです。
 それプラス、
 両脇に保冷材を挟み、首に保冷材を巻き、氷水を入れたタライに足をつけ、机に突っ伏し、ぴくりとも動きません。
 下手に声をかけると、矢が飛んできます。

 さらに、弓道室の床が冷たくて涼しいという事で、部室に泊まり込んでます。
 朝には床に張り付いて熟睡してる部長が居る為、弓道部は夏に朝練をしません。

 「でも、クーラーの風は嫌いなんですよ」
 「あー気持ちわかる。僕も暖房の風嫌いなんよ」
 「頭痛くなるんですよね」
 「僕は喉が痛くなる」
 「自然風が一番ですよ」
 「自然光が一番」
 「と言う事で年中秋で」
 「年中初夏でお願いしやす」
 たいへん我が侭な二人です。

 「小学生かお前等は」
 そう言う皆守に神鳳&九龍が聞きました。
 「それでは皆守くんはどんな四季がお望みですか?」
 「想像はつくけど言ってみーや」

 「春春春春」

 「やっぱりー」
 「ひねりが無いですね。つまらない」
 「やかましい」

 と、そこへ夕薙がやって来ました。
 「よう。お前達は朝から元気だな」
 「おはようさん。で、聞きたい事がひとつ!夕薙くんのベスト四季はどんなん?」
 「・・・・ベスト四季?」
 「あのですね・・・・」
 九龍の唐突な質問に神鳳が説明しました。

 「ほー、面白い事を考えるな」
 「単に暇人なんだ。コイツ等は」
 皆守が憎まれ口をたたきますが、九龍と神鳳は無視します。
 「で、夕薙くんのベストは?」
 「そうだな・・・春夏夏冬か。秋も好きなんだが・・・・夜が長いからな・・・・」
 「夜って何だよ」
 「ああ・・・」
 「夕薙くんに秋の夜長はね・・・・」
 夕薙の言葉に、夕薙体事情T科学的に説明するには無理があるだろその設定2005Uを知ってる二人が頷きました。

 
 「じゃあ、夕薙くんは秋いらずと言う事で・・・・あ、やっちー白岐さんおはよー。聞きたい事がありますがー」
 向こうの方を歩いていた八千穂と白岐に突撃していく九龍を見て、神鳳がぽそりと言いました。

 「九龍くん。さっきから何も上に着てないんですが、寒くないんですかね」

 神鳳の手には九龍が着込んでいたすべての衣類が持たれてます。

 「・・・100%寒さを忘れてるな」
 「T寒さは気からUと言われてるしな」
 「それ、T病は気からUですよ」


 

 極度の寒がりでありましても、楽しい事さえ見つければ寒さなど忘れてしまいます。
 なぜなら彼は小さい子で風の子だからです。


  

 「石くーん、ベスト四季教えてーーー」
 「そうだねぇ。歳はいくつでもいいけど、石に潰されての圧死が良いよね〜」
 「・・・いや、その死期じゃない・・・」






 九龍は寒がりです。猫だから
 でもすぐに寒さを忘れます。子供だから

 夏の神鳳はゾンビです。そのゾンビっぷりは阿門すら恐れています
 地を這うような声で「あーーーーーつーーーーーーいーーーーーーーー」
 子供じゃないので、暑さを忘れる事が出来ません